真実は何処へ?(ALL)


*天葵要素有り


「うわっ、先輩達、何ですかその格好」

狩屋がドアを開けるとそこには執事の格好に扮した神童や霧野達の姿があった。
狩屋が声をかけると今更ながら神童は顔を赤くした。

「いや、その、これはだな…」
「私達のクラス、メイド執事喫茶やるの」
「!、茜さん」

いつの間にか狩屋の後ろにはカメラを構えた茜が立っていて、これでもかっていう程イイ笑顔を浮かべ、目をキラキラと輝かせている。
そしてその隣では水鳥が苦笑いを浮かべていた。
恐らく茜の暴走を止めているのだろう。

「茜、神童が怯えるからその辺にしておけ」
「うぅ〜、だって文化祭の時しか見れないもん」

茜は尚もカメラを手離さない。
ぷくー、と可愛らしく頬を膨らませる茜に水鳥は若干の罪悪感を浮かべながらもカメラを取り上げていた。
そして狩屋の方はというと、茜の返答であぁ、と合点がいったようだった。

「そっか、2年生は飲食店でしたっけ。けどなんで部室で着てるんですか?」
「神童と霧野は人気者だからな〜。教室だと落ち着いて着付けが出来ないんだよ。やっぱ実際に着てもらわないと細かいとこ直せないからな」
「1年は劇とか映像系だろ?狩屋達のクラスは何やるんだ?」

こちらはまた華麗に執事の服を着こなす霧野。
神童と違って寧ろ堂々としていた。
似合ってる、と言わざるを得ない着こなし具合だったので狩屋はからかいのネタがなくて少し面白くなさそうだった。


雷門ではどのクラスも均等に出し物をやれるようにする為に1年は劇、2年は飲食店、3年は自由となっていて、後は有志でやりたい部活は参加という事になっている。
サッカー部も昔は紅白戦をやっていたが、南沢や神童、霧野といった雷門中が誇る美形軍団が入部してからは女子の白熱度が度が過ぎてしまった為、学校側から禁止を言い渡されてしまったのだ。

霧野達の姿を物珍しげに観察していた狩屋だったが、霧野にそう聞かれるとニンマリと笑った。

「先輩達も参加します?この賭け」
「はぁ?」
「どういう事だ?」

狩屋の言葉に神童達以外の部員、つまりまだ来てない1年生組以外の皆も集まってきた。

「俺らのクラス、白雪姫やるんですよ。といってもそのままじゃつまんないんで多少はアレンジするんですけど」
「へぇ。まぁ、王道だな。で、何が賭けになるんだ?優勝とか?」

普通に考えれば賭けの対象は優勝だろう。
しかしそれならば1年同士だけでやればいい。
なのに部員全員に参加するか聞くという事はどういう事だろう。
狩屋以外の皆が頭にクエスチョンマークを浮かべていた。

「そりゃー勿論…天馬くんと空野さんがキスするか、ですよ!」
「「「はぁ?」」」

狩屋の爆弾発言に思わず一斉に驚いてしまったが皆すぐに冷静になった。
浜野などは面白そう!などと言って参加する気満々だったが。

「え、何、天馬と葵が主役なのか?にしてもどうせフリに決まってんだろ?マジでするとかどこの少女漫画だよ」

いち早く呆れながら突っ込んだのは水鳥だった。
周りを見渡すと皆苦笑いを浮かべている。
しかし狩屋は気にした様子はなかった。

「えーでもクラスの奴の先輩で去年同じ様な事があって、その時はマジでしたらしいっすよ〜」
「あ、それ俺のクラスだ」

声をあげたのは倉間だった。
一斉に倉間に視線が集まる。

「去年俺らのクラスでスゲー、バカップルがいてよ、それでその時やった劇にキスシーンがあったから皆で面白がって購買のパンとか賭けてたんだよ」
「それで本当にしたのか?」
「おー、おかげで暫く飯には困らなかったぜ」

倉間の口振りからどうやら倉間はその賭けに参加し、見事勝利したようだった。
倉間の体験談を聞いたおかげで更に狩屋はニヤリと笑った。

「ほらー!」
「けど天馬達は付き合ってる訳じゃないだろ?賭けになるのか?」

そう、天馬達は幼なじみというにはあまりにも距離が近く、一時は部員全員が二人は付き合っているのではと思ったがそのような事実はなかった。
だとしたら二人がキスするというのは無理があるのではないだろうか。

「いやそれが意外とキスするって方に賭けてる人多いんすよ」
「は?なんで?」
「えっとですねー、いつだったか二人、教室でキスしちゃった事あったんすよ」
「「「はぁっ!?」」」
「あ、勿論事故ですよ?たまたま天馬くんが振り返ったら空野さんと意外にも距離が近くてキス…というか口同士がかすったんですよ。勿論クラスは大騒ぎだったんですけど当の本人達が…」

『あ、ゴメン葵、ぶつかった』
『んーん。平気。それよりさー…』


「…という感じだったので文化祭でもするんじゃないのかなーって」

因みに俺のクラス皆参加してます、と何食わぬ顔で狩屋は笑っていたが、他の皆はあいつら…と頭を抱えていた。
その様子で何故付き合っていないといえるのか不思議だった。

「ちゅーかその肝心の天馬達はどうしたー?」

唯一ダメージを受けていない浜野が無邪気に聞いた。

「練習です。結構プレッシャーかけてるんで二人共張り切ってますよ。んで、信助くんがその手伝い。ちょっと遅れるそうです」
「あー、優勝すると1ヶ月食堂半額だもんねー」
「はい。だからクラス皆でキスシーン大事だって言いまくってるんですよ。やっぱインパクト強いですし。因みに浜野先輩はどっちだと思いますか?」

狩屋が意地の悪そうな表情を浮かべながら浜野に尋ねる。

「ちゅーかその話聞いちゃったら答えは決まってる様なモンっしょー!て事でキスする方にあんパン!」
「了解です!」
「コラ浜野!」

浜野がノリノリで参加するとすかさずサッカー部のお母さんである三国の声が飛んできた。
思わずあちゃー、と苦笑いをしていたがそんな事で引くような浜野ではなかった。

「いいじゃないですかー!面白そうですし。三国さんはどっちだと思います?」
「どっちって…普通そういう事は人前でやらないしもっと大事にするもんじゃないのか?」
「んじゃ、三国先輩はしないって事で」
「あ、コラ!」
三国の声も気にせず、狩屋は制服のポケットから生徒手帳を出すとメモ欄に浜野と三国の分を正の字に書き足した。
浜野が覗いてみると全体で3分の2以上がする方に賭けている。
そしてその隣には恐らく賭け金の代わりだろう、参加者の名前の隣に購買のパンの種類が書き並べてあった。

「へー。ちゅーかもうあの二人って公認カップルなんじゃね?」
「当の本人達以外ですけどね」
「あはは、確かにー!」

浜野が笑っているといつの間にか倉間が狩屋の手元を覗きこんでいた

「へぇ、本当にする方に賭けてる奴多いんだな。んじゃ狩屋、俺もする方にカレーパンな」
「了解です!」
「倉間!」
「いーじゃねーか、面白そうだし。固い事言うなって神童」
「しかし…」
「まぁ、天馬達にバレなきゃいいだろ。賭け金も100円位だし。けどやっぱ俺はするとは思えないかなしないにプリンな」
「霧野まで…」

そのままなんやかんやで結局サッカー部全員でその賭けに乗る事になってしまった。
内情はというと、浜野や倉間、水鳥などは面白がって『する』という方に賭けていたが、三国や霧野、速水といった真面目や現実的な人は『しない』方に賭けていた。

「んー、今の所半々ってとこっすかね」
「何してんだ、お前」
「あ、剣城くん」

狩屋が来てからだいぶ経った頃に剣城がやってきた。
後ろには輝もついている。
だいぶ遅れてきたのに未だに練習を始めていない部員達に剣城は呆れているようだった。

「遅かったなー、剣城達も文化祭関係か?」
「はい、小道具を作っていて…それでお前は何やってるんだ?」

剣城がドサリと荷物を机に下ろし、呆れた顔をしながら狩屋に聞いた。
狩屋は剣城の表情など気にせず、待ってました!と言わんばかりに剣城に身を寄せた。

「ね、剣城くん達はどっちだと思う?」
「は?」


「お前…馬鹿じゃないか」
「いーじゃん、面白そうなんだから!」

狩屋から事の顛末を聞いた後、剣城が開口一番言ったのはそれだった。
傍では輝が苦笑いをしている。

「たく…んな暇あんならとっとと練習でもしろ」

剣城の尤もな言葉に先輩達全員が顔を反らした。
しかし狩屋は気にしない。

「まぁまぁ、これサッカー部全員強制参加だから!輝くんはどっちだと思う?」
「えぇ!?えと、僕もしないんじゃないかと…」
「了解。んで、剣城くんは?」
「………」
「ねーってばー!」

剣城は黙っていたが狩屋は諦める様子はない。
これはとっとと適当にあしらった方が賢明だろうと思い、剣城は重い口を開いた。

「俺は――…」


そして文化祭当日。
天馬達のクラスメイトは勿論、サッカー部全員が天馬と葵の二人に注目していた。

そして問題のキスシーン。
天馬がセリフを言う。

『せめて最後にお別れを…』

そして二人は近付き、お互いの唇が重なるまでまと数pになり――…

「「「えぇっ!?」」」



「兄さん、調子はどう?」
「京介。…って、どうしたんだその大量のパン」
「学校の購買のパン。割とウマイから良かったら兄さんも食べなよ」
「それはいいけど…なんでこんなに?」
「まぁ…ちょっとな」

剣城は優一の問いに曖昧な言葉を並べながらあんパンを口にした。


「まさか剣城くんの1人勝ちとは…」

狩屋がペンでこめかみを押しながら唸る。
部室には天馬、葵、剣城以外の皆が集まっていて苦笑いを浮かべていた。

「でも剣城の言葉には驚いたよな。皆するかしないかの二択だったのに剣城だけ『きっと天馬は空野の口元を隠す。だから答えは分からない』だもんな」
「アイツ、答え知ってたんじゃないか?」
「それはないだろ。アイツ、天馬達が何やるかも知らなかったみたいだし」

あのキスシーン。
二人の影が重なろうとした瞬間、天馬は二人の口元をそっと手で隠した。
当然、賭けをしていた天馬のクラスメイト+サッカー部員が声をあげた。
賭けの結果が分からないのだから当然だ。
勿論、天馬と葵に聞いても「秘密」と言われるだけだった。
なので二人の距離が近かったのであれはしていた、いやしてない事を隠す為に天馬は手で隠したんだ、という論争が暫く続いていたが結果として剣城の言葉通りになってしまった為賭けの報酬は全て剣城の物となったのだ。

「あーぁ、つまんねーの」
「まぁまぁ、真相は、神のみぞ知るってやつだな」

椅子にふんぞり返る狩屋の頭をポン、と霧野が笑いながら叩いた。

さてさて、真相はどっち?

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