移り行く世界(くさこの+瞬さく)
「でもホント、ビックリよね。まさか九坂が好葉の事好きだったなんて」
「けど九坂と森村だろ?美女…っていうか小動物と野獣だよな」
「これだから人の心は面白いんだよね」
試合も無事終わり、宿舎に着くと口々に試合の事よりも九坂の公開告白について話していた。
「だが…九坂は好葉を傷付けた件もそうだが告白の件もちゃんと好葉に謝っておいた方がいいと思うぞ」
「え?」
こういう話には我関せずという姿勢だった剣城が珍しく話に加わった。
「なんで謝る必要があるんスか?」
「なんでってお前なぁ…」
「…いやッスよ」
「は?」
「確かに俺は森村を傷付けた。その事は後でちゃんと謝るッス。けど俺は森村が好きだから好きって言ったんスよ!なのになんでなんで謝んなきゃいけないんスか!」
九坂は今にも剣城に掴みかかろうとする勢いで吠えるが剣城はため息を吐くだけだった。
「馬鹿、違う。好葉の性格ちゃんと考えろ。あんな世界規模で中継されてる所で告白だなんて、可哀想過ぎるだろ」
「あ…」
剣城の冷静な指摘に思わず九坂は言葉を失った。
その言葉で散々騒いでいた葵とさくらもここぞとばかりに九坂を責めたてた。
「そーよ九坂くん!ホントに好葉ちゃんが好きならもっと好葉ちゃんの事考えてあげないと!」
「告白にはムードが必要でしょ!フィールドでだなんてあり得ない!」
「まぁ確かに一生忘れられない告白にはなっただろうね」
「瞬木は黙ってて!」
葵達の言い分に九坂だけではなく、他の男性陣もたじたじだった。
「で、でも、言えって言ったのはキャプテンスよ!」
「へ…俺!?」
剣城とはまた違った理由であまり話に加わらなかった天馬だったが急に話を振られて思わず九坂の方を振り返った。
「そうッスよ!キャプテンが試合中は逃げ場がないから言うなら今だって!」
「天馬〜?」
「キャプテ〜ン?」
葵とさくらの二人にもの凄い形相で睨まれた天馬は思わず後退った。
「だ、だって!こんな話だと思わなかったんだもん!」
「そうだな、天馬。お前も好葉に謝れ」
「えぇ!?」
剣城、俺に厳しくない!?、と騒いでいると扉が開く音がした。
「!、好葉ちゃん」
言わずもがな、そこにいたのは好葉だった。
葵は天馬を解放すると好葉の方へ近寄った。
「好葉ちゃん、どこ行ってたの?」
「あ、えと、猫ちゃんの様子見に…」
「…そっか。ね、今度私も一緒に行っていい?」
「…っうん!」
葵が好葉の目線に合うようにしゃがみながら微笑むと、少しは打ち解けてきたのか怯えるのではなく、好葉も小さく微笑み返した。
「やっぱアイツ可愛いよな…」
「惚気かよ…」
「!、九坂くん」
好葉は九坂に気が付くと、トテトテと九坂に近寄った。
「えと、その、九坂、くん。あの…」
「ハイハイ。なんスか?」
九坂はそんな好葉の行動にさえ可愛いなぁ、と思いながらも好葉を怖がらせないように先程の葵のようにしゃがんでみせた。
因みに他のメンバーは空気をよんで…というか葵とさくらに強引に引っ張られて部屋の外に出されてしまった。
しかし皆二人の事が気になるのかこっそりドアの隙間から会話を聞いていた。
「えと、その…」
「森村。ゆっくりでいいッスよ。ちゃんと聞いてますから」
「九坂くん…。あの、さっきの会話、なんだけど…」
「会話って…聞いてたんスか」
参ったな、という風に九坂は頭を掻いた。
「うち…確かにその、九坂くんからの…告白、驚いたし恥ずかしかったけど嫌じゃなかったし、うちみたいな人間を、好き、って言ってくれたの、嬉しかったから…」
えと、その…、と、相変わらずの吃りながら好葉は喋っていたが好葉が何かを一所懸命伝えようとしている事はわかったので九坂は大人しく好葉の言葉に耳を澄ました。
「だからその…ありがとう」
「―――、」
最後の方は小さくてよく聞こえなかったが好葉はそう言うと小さくはにかんだ。
九坂はその笑顔に思わず両手を強く握りしめた。
そうでもしないと今目の前にいる女の子を力一杯抱きしめたいという欲求を抑えきれなかったのだ。
「アンタってホント…可愛いッスね」
「かわ…っ!?」
「森村、お前、俺が嫌いとか他に好きな奴がいるとかじゃないんだろ?」
九坂が優しく好葉に尋ねると好葉はブンブンと首を横に振った。
「んじゃこれからドンドン、アタックするから覚悟しといて下さいね?」
「アタッ…!?!」
「…と、それじゃビックリするか。んじゃ、とりあえず…まずはチームメイトとして、仲良くやろーぜ」
「うん…」
な?、と好葉の頭を優しく撫でると好葉も小さく頷いた。
「それから森村。」
「?」
「…この間、傷付けるような事言ってゴメンな」
「…ううん。…うち、九坂くんのおかげでサッカーも出来るようになったし、女の子とも話せるようになった。だから…謝らなくて、大丈夫。」
「…やっぱり、アンタは優しいな」
「?」
「なんでもないッス。…森村、これからもサッカー、頑張りましょうね」
「…っうん!」
「あーぁ、いーなー、好葉。必殺技も出来て、その上告白までされるなんて」
「あれ、さっきフィールドでの告白だなんてムードがない!、って、怒ってたの、野咲さんじゃなかったっけ」
「それとこれとは別。あーぁ、葵はキャプテンといい感じだし、私も恋したいなぁー」
九坂と好葉の会話の一部始終を聞いた後、皆は隣の部屋にいた。
そこではまた各々が好きなように今日の試合の事、次の対戦相手などについて話していた。
そんななか、さくらが大きくため息を吐きながら一緒のテーブルに座った瞬木に愚痴を溢していた。
「そんなにしたいならさ、俺とする?」
「はぁ?」
「俺と恋してみない?、って言ってんの」
瞬木は意味ありげにさくらの顎を掴んで自分の方に向けさせると妖しく笑ってみせた。
「えー…ちょっとパスかな」
しかしさくらはそんな瞬木をジト目で見るだけで終わった。
「随分はっきり言うね」
瞬木も本気ではなかったのか無理意地はせず、あっさりとさくらから離れた。
「これでも結構本気だったのに」
「嘘。」
ヤレヤレ、と首を振る瞬木の言葉をさくらは一刀両断した。
すると瞬木の瞳に先程までなかった鋭さが加わった。
まるで、獲物を狙う獣のように。
「…どうしてわかるの?」
「…なんとなく。けど強いて言うなら…アンタ絶対性格悪いから」
さくらはそんな瞬木に若干圧されつつも目を背ける事なく言い放った。
「はっきり言うね。…でも、野咲さん程じゃないと思うけど」
「あら、なんの事?」
「さぁ、なんだと思う?」
お互いに腹の中を明かさず、相手の事を探りあう二人の間には妙な緊張感が生まれていた。
しかし先に折れたのは瞬木だった。
「まぁいいや。とりあえず、俺達も同じチームメイトとして仲良くしとこうよ」
瞬木がさくらに右手を差し出した。
さくらはその手を暫く胡散臭げに見ていたが大人しくその手を取った。
「それがお互いの為?」
「話がわかる人は好きだよ」
「なんか殺伐としてんなぁ…」
そんな二人の様子を遠くから見ていて、会話は聞こえなかったものの妙な雰囲気を感じとった鉄角は軽くため息を吐いた。
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移り行く世界
title by 『秋桜』
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