これのつづき
「何それ」
放課後の教室で、読んでいた本を読み終え顔を上げるとそこには郭嘉君がいた。因みにいうといつもの学生の姿ではない。
手には赤と白のカプセルのようなものを持っていて、指でコロコロ動かしながらこっちを見ていた。
「血液の塊? 無味無臭で味気ないけれどね」
「パックの血飲んだりしないんだ」
「口周りが汚れるからね、苦手」
飲んだことあるのか、そんな突っ込みはなしにしよう。本を閉じて、荷物をまとめる様をじーっと、楽しそうに見る郭嘉君がものすごく、厭味ったらしい、いや、怖い? 何か違う。
「君の生き血が一番いいのだけどね、口は汚れない、おいしい、最高だとは思わないかい?」
「こっちが痛いでしょ絶対やだ」
帰ってしまおうと荷物を持つ。相も変わらず郭嘉君は私の首(生き血的な意味で)を狙ってばかりいる。今のイケメンな見た目をもってすればより取り見取りだろうに、そうしたら私は、きっとお払い箱だろうな、
「……っけほ」
小さな、咳が聞こえた。気にせず足を動かす。ガタリと大きな音がした。
「ッ、ゲホッゴホゴホ…ッ」
「!?」
大きな、渇いた咳に後ろを振り向けば、椅子からずり落ちたような体勢の郭嘉君が咳き込んで蹲っていた。風邪ひいた時にするような、生半可な咳にはどうしても聞こえない。
「…..ちょ、郭嘉君!!?」
ほぼ脊髄反射、鞄を投げて郭嘉君に飛びついた。当てられた手から漏れる赤い液体に小さく悲鳴が出て来た。こっちは平和と安穏しか知らない現代人なんだ。自分がこける以外で早々御目にかかる量じゃなかった。
未だに咳き込み続ける光景が何とも怖くて、伏せられた顔を覗き込めば、ふ、と口に当てられた血濡れの手が外されて、私の首近くに伸ばされる。
「やっと捕まえた」
「…っ!? ――――んンっ」
首に、郭嘉君のサラサラの金髪が当たった。同時に肩口にある、どろりとした重い感覚に体が跳ねる。
「……っん、」
「や、やだ、あ、ンっ、」
噛み付かれたところが熱くて、聞いたこともないような声を上げる口が嫌で塞ごうと手を伸ばすけれど絡めとられてしまう。じゅるじゅると血を飲む音が生々しくて目を閉じる。
「っ、は……」
唾液と、どっちの血か分からない赤で濡れた口が離れる。痛みなのか何なのか分からない感覚で体に力が入らない。
動かない体を引き寄せて、壊れ物でも触るみたいに抱きしめる郭嘉君の腕が決して逃すかと言わんばかりに締め付けてくる。
「ああ、とてもいい顔だね」
「……だ、だましたな……っ」
「いや、6割くらいは本気だったよ?」
「っひ、」
首筋を舐める郭嘉君の下から電気みたいなものが走った。首に手を添えて心底嬉しそうに微笑む郭嘉君を見ながら、もう逃げられないのだと、すんなり思い至った。