感謝祭作品 | ナノ
庭の隅で告白した瞬間の彼女は、驚いた顔をして、何とも複雑そうな顔をした後、ばつが悪そうに身を縮こまらせた。


なまえは他の人曰く「どこにでもいるような一人の女官」だった。だが機微に優れ、こっそりと隠れて書を読んでは柔らかく笑う彼女に惹かれ、それなりに会話を交わすようになった。一時期とある武官と恋仲になったと聞いて諦めかけたものだが、2年ほどたって「別れました」と赤い眼を擦りながらこぼした彼女に、不謹慎にも微かな喜びを覚えてしまったのは今でも負い目だ。
そんな彼女を呼び出して告白して、こんな反応が返ってくるとはあまり思っていなかったものだから、暫く返事を待って、せがむように口を開く。


「いや、かな」

「そう、じゃ、ない、です、けど、ごめん、あ、断るとか、では、なくて、えっと」



とぎれとぎれの言葉を紡いで、しゃがみ込んで、これ以上ないほど体を縮めて、ついに何もしゃべらなくなったなまえ。自分だけが立っているのが辛くなって、同じように膝を抱えて目の前に座れば、小さく震えた呼吸音が聞こえた。



「その、なんこか、質問していいですか」

「? ああ、構わないけれど」

「........私は、その、器量がいいわけでも、見目が整っているわけでも、ない、です」

「見目は、整っていると思うよ、一目ぼれだったし、可愛いと思うし、よく仕事を手伝ってもらって助かっている身だから、器量が悪いとは思っていない」



ふと、これは自分の口から「やっぱり止めた」を引きずり出すための問答なのではないかと、疑った。まぁそっちの方が男としての矜持は傷つかない、ダメだったのかと、少し意気消沈する。



「き、嫌いなら、いいんだ」

「そうじゃなくて!」



縋るように、立ち上がろうとした俺の手を掴むなまえの手。嗚咽が消えかけた時の呼吸のような、少々息苦しさが伺えるため息をついて、ごめんなさい、と、謝罪を口にする。



「気持ちは、うれしいです、でも、その、1回、振られてる、んですよね」

「知っている」

「振られ方がひどかった、のは」

「それは、知らない」

「......まぁ、だから、あんまり、喜んで、て、気持ちには、なれなくて」



ごめんなさい、そういっていつかのように目を赤くする。分かったと呟けば、完全に下がった頭。



「じゃあ、待つから」



俺の言った言葉に、驚いたようだった。瞬時に上がった頭と見開かれた目に、少しだけ口角を上げて見せる。



「君が俺を信じられるまで、嫌うまで、いくらでも待つよ、揺るがない自信だけはあるから、なまえがちゃんと答えられるまで」




だから、と言葉を切れば、泣きじゃくりと謝罪がごちゃまぜになった嗚咽と一緒に強くしがみ付かれた。ああ、この状態をどうしようか