感謝祭作品 | ナノ
どうにも、この娘を取り巻く環境と言うものは極度に甘いか極度に辛いかの2つしかないのだとぼんやり思った。何時かの何処かの誰かのように膝を抱えて嗚咽を噛み殺す姿の前に座れば、自分の顔を見せまいとするようにさらに膝を強く抱える。



今日は何があったのだろうか。女官、文官、皇后、誰がこうしたのだろうか、容易く容疑者の顔が浮かぶ事にいら立ちを覚えることももう慣れた。



「こうして、こうしてなまえ殿の泣き姿を見るのも、幾度目でしょうなぁ」

「.......っ、ふ、ぐ、ごめ.......な、さ.......、」

「謝る必要などありませぬ、が、その姿勢、その体勢はいただけませぬな」



姿勢と言うのは何度も何度も泣いておきながら、隠れた先を見つけられておきながら、それでもこうも頑なに自分に頼ろうとせず小さく丸まって自分に傷をつけてでも涙をこらえるこの姿のことで、両腕を持って覗き込めば散々泣いて拭い続けたらしい赤い眼がこっちを見る。



向かい合ってしゃがんで、少しほつれた髪を解すように撫でて、身をさらに縮こまらせて逃げようとする白桜殿。慣れた。慣れた。そんな自分に嫌悪感を抱きながらも何一つ変化を起こすことができない自分をさらに嫌悪する事にも、慣れた。



「も......い、です、っ.........ち、きゅー、さまに.......っめー、わく.......あう、」

「迷惑、迷惑ですか、」



嗚咽の中から絞り出した声を聞き取って、倒れこませるように抱えれば、びくりと跳ねる肩。何時だったか色々なものを引きはがしてしまったせいか、白桜殿はこうされることを少々怖がる節がある。



「白桜殿、」

「っ、は、い」



凭れかからせて、あやす様に撫でれば聞きなれたうめき声。そうやって唇を噛むのも見慣れてはいるが気分のいいものではない。指でつついて開けさせて、痛々しい見た目の唇をなぞる。



「もう、泣かせない.......と、言っても、難しいのでしょうなぁ」

「ご、めんな、さい、」



もう泣かないから、もっと強くなるから、ごめんなさい、ごめんなさいと泣く白桜殿。そう言いたいわけではない、ええ、ないのです。まぁこの数年間、分かってもらえた試しはないのですが。



「せめて、せめて、泣くなら、憤るなら、私の所で、と言う約束をしてくださいませ」



横に振られる首。いらぬところで強情なのはこの数年間変わらないわけで、力の抜け始めた身体をゆっくり抱きしめてそろりと撫でて、仕方なくいつものように無理やりにでも感情をさらけ出させることにする。ここを、あの金色の軍師殿ならうまくやるのだろうなと、少しでも思った自分が心底、心底鬱陶しく思うのです。



「ああ、真、真、ままなりませぬなぁ」



全く、地に伏して謝りたいのはこちらだというのに