※劇薬コントラクトの番外編です









「はいなまえさん。プリント」

「あ、うん、ありがと」




にこやかにプリントを渡してくれる郭嘉君に返事をして受け取る。小テストと書かれた紙を見ながら、「勉強してきた?」「ううん、ちょっと危ないかも」「なまえさんなら大丈夫だよ」「そうかな?」なんて会話をしてテストに向かった。





ふりをしながら目の前でペンを動かす郭嘉君を見た。


開けられた窓から吹く風で靡くサラサラとした金髪に、細い体。何とも恵まれた容姿なのにあんまりキャーキャー言われることがなく、それもしゃべりやすい人っていう印象に一役かってるんだろう・・・・・





でも、





こんな人、このクラスにいたっけ?




みんなが当たり前のように接するこの郭嘉君、転校生だっけ? って聞いたら、前からいたじゃんって言われた。私の前には確か女の子がいたはずだ。いつの間にか隣のクラスに移動しているその子も、違和感なく定着している。それになんでか、私と郭嘉君でニコイチみたいな扱いを受けているのも気になる。




それになによりも、郭嘉君の目は怖い。いつも、後ろから見られているような、ゾワリと背中を這うような、そんな悪寒がする。




「なまえさん?」



小さな声で話しかけられてビクリと跳ねる。



「手、止まってるよ」

「あ、」



「はい止め! 5点以下は今日の放課後プリント出すからそれやってから帰れー」



1,2問しかやっていない小テストの紙を見ながら、ああとため息をつく私を郭嘉君がにこやかに見ていた。







*    *    *    *







「あー、もう、分からない・・・」



出されたプリントを、頭を抱えながらも取り掛かる。範囲が違う。難易度が違う。そして残っているのは私だけ。何とも悲しい状況だ。




「なまえさん?」





「か、くか、くん」



元凶、と言ったら悪い気もするけどそこにいたのは郭嘉君だった。後ろから覗いた先生がニヤニヤしながら言う。



「まだ終わってないんだったら郭嘉に教えてもらえ! 分かりやすいぞ?」



明らかに、下世話な考えをしているのは読み取れた。目の前の席に座ってニコリ、笑顔を返して、先生の足跡が遠ざかっていくのを聞く。



「なまえさん」



ビクリと、背中でも触られたような寒気に小さく悲鳴を上げた。変わらず笑顔の郭嘉君が、怖い。



「何か、避けられてるみたいだけど、何かしたかな?」






「・・・・郭嘉君、さ






誰?」




聞いてしまった。それでも、今聞くべきだって、何でかそう思っている自分がいる。



「前、郭嘉君の席には女の子が座ってたんだよね、ずっといた気がしないって言うか、その、正直、怖くて仕方ないの・・・何でか知らないけど、」



目の前で話を聞き続ける郭嘉君、詰まった胸を手で押さえて、言葉を待てば、雰囲気ががらりと変わった。笑顔も、姿勢も、雰囲気も、何もかもが違っていて、容姿だけは変わらないと思っていたら手で目隠しをされた1秒の後、目の前には10才ほど年を取ったように見える郭嘉君がいた。服もさっきまでの学生服じゃなくて白と青の服だ。




「違和感に気づかないままでいれば良かったのに」



クスリと笑う郭嘉君の指が頬を滑る。仰け反って逃げれば、机の上に手をついてさらに迫ってくる。



「・・・嘘、気付かせる気満々だったんじゃないの」

「おや、バレてしまった」



お道化るように手を広げて、尚も近すぎる距離を離そうとしない郭嘉、さん。



「誰、」

「郭嘉奉孝、吸血鬼だよ」

「きゅう、けつ、き」



壊れた録音機みたいに途切れた声でオウム返し。吸血鬼ってあの、蝙蝠とか、ニンニクとか十字架とか、ファンタジー小説じゃないんだから




「ファンタジー小説・・・そうだね、あまり好みではないけど君が私に跪いてくれるなら、それもいい」



あっさり心を読まれたことはスルー。
跪く。まあ血を吸われたら仲間になるとか、いうことを聞かなきゃいけないとか、そういう意味だろう。少なくとも「それならはい」と跪けるほどかわいい性格じゃない。



「ならノンフィクション小説にする? 郭嘉君がいなくなればハッピーエンドだよ」

「まさか、せっかく見つけたご馳走を手放すわけにはいかないよ」





開戦クルセイド