からっぽになったデグレアの地に足を踏み入れたとき、一瞬ルヴァイドの顔が強張ったのが隣にいた名前にははっきりと見て取ることができた。

「ルヴァイド、」

このようなときかけるに相応しい言葉など咄嗟には思いつかず、けれどせめてもの慰めにと空いていた彼の手を取ってぎゅっと握りしめれば少し驚いたような彼の顔がこちらを向く。その瞳が今にも泣き出しそうに見えて名前は無意識的に握っていた掌に力を込めた。

(貴方と貴方の母親は大変な苦労をされたとか。)

生前のメルギトスの言葉がぼんやりと頭の中で反芻する。ルヴァイドは今、滅亡した祖国を前にして何を考えているのだろうか。全てが偽りだった彼の幾年は彼に何を残したのだろうか。

無実の罪を着せられた父親、汚名をそそぐための闘い、滅亡した祖国。…正直、気が狂ってしまいそうだ、と思う。けれど、それでも彼は歩き出そうとしているのだ。

「ありがとう、大丈夫だ。」

掌に握り返される感触を感じてルヴァイドを見上げると、ルヴァイドのやんわりとした微笑みが名前を向いた。そんな彼に名前も咄嗟に何か言葉を返したくなったが、遠くの方から聞こえてくるルヴァイドを呼ぶイオスの声がそれを遮った。

本当は言葉をかけるより何より彼を抱き締めてしまいたかったが、それは言わずに黙っておいた。


たとえ君が何になれなくても


(ずっと隣にいるし頭を撫でたいと思うよ。)