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「巡検使ぃ!?」
と、素頓狂な名前の声が部屋に響いたのはつい数秒前のこと。名前がコーヒーカップをがちゃりと音を立ててソーサーに叩きつけたのを見て、彼女とテーブルを挟んで座っていたルヴァイドとイオスは苦笑混じりに顔を見合わせた。
「まったく、予想以上の反応だな。」
「そうですね。」
「なっ…だって、そりゃ驚くわよ!?…それってつまり…しばらくゼラムには戻って来られないってことでしょう?ただでさえ二人とも忙しくてなかなか会えないっていうのに…。」
語末に行くにしたがってだんだんと小さくなっていく彼女の声。寂しげに視線を落として睫毛を伏せた名前にルヴァイドは申し訳なさそうに眉を寄せた。
「…名前、」
ルヴァイドがぽつりと声をかけると、その声にぱっと顔を上げた名前の強気な瞳がルヴァイドを捉える。
「ルヴァイド、私も連れて行っ「駄目だ。」
「…っどうして!?」
最後まで言い終わらないうちに言いかけた要求を一刀のもとにはねつけられて名前は憤慨した。なおも食ってかかろうとする名前をやんわりとなだめるように、ルヴァイドが柔らかい微笑みを向ける。
こんな顔をするなんてずるいと思う。こうすれば彼は自分が何も言えなくなることを知っているのだから。
「心配するな。また会いに来る。」
「…っけど…、」
「名前、」
思わず声に嗚咽が混じりそうになったのをイオスの少し厳しい声に諭されて名前はきゅっと唇を噛んだ。
「…分かったわ。ルヴァイドには何を言っても無駄みたいだもの…。」
「…ああ、すまな「だから、シャムロックに頼むわ。」
「………は?」
柄にもなく間抜けな声を出したルヴァイドの瞳と名前の意志の籠った瞳がかち合った。ぽかんとするルヴァイドの隣でイオスが勢いよく立ち上がる。
「名前!何を馬鹿なことを言って…!」
「待つだけなんてもう御免よ。」
名前は涼しい顔でそう言うと二人からぷいと顔を背けた。彼女がここまで強情にわがままを突き通そうとするのは珍しい。
そんな彼女にかける言葉に詰まって、ルヴァイドとイオスは唖然とした表情でもう一度だけ顔を見合わせた。
待ってよ私も連れてって
(留守番役はもうたくさん!)