気だるさを感じながら重い瞼を押し上げると、まず目に飛び込んできたのは窓から差し込む月明かりとそれにぼんやりと照らし出された薄暗い天井だった。

それを見て、どうやら自分がまだ生きているらしいこと、それからどこかの部屋のベッドの上に横たわっていることを悟る。

まだところどころに痛みが残る身体をゆっくりとベッドから起こしてみると、ふとルヴァイドはベッドの脇に小さな人影があることに気がついた。

「…名前?」

ベッドの脇に突っ伏すようにして眠っていたのは、名前だった。

驚きながらもルヴァイドが彼女にそっと手を触れると、どうやら名前は彼が触れたくらいでは反応しないほど爆睡しているらしい。そんな彼女を慈しむような目で眺めながら、ルヴァイドはゆっくりと髪を梳くように名前の頭を撫でた。

「とても優しい顔をされるんですね。」

突如部屋に響いた声に、びくりと肩を震わせてルヴァイドは名前から手を離した。暗がりの中、声がした方に目を凝らすと、部屋の出入口付近にぼんやりと浮かぶ人影があることに気がつく。

いつの間に部屋に入って来たのか、それとも最初から部屋にいたのか…。思わず身構えたルヴァイドに、その人影、アメルはにこりと愛想の良い笑顔を向けた。

「身体の具合はどうですか?」

「聖女か?…ああ、どうやら大丈夫らしい。」

「そうですか。よかった。」

言いながらベッドの方に近づいてきたアメルは、持っていたタオルケットを広げるとそれをそっと名前の肩にかけた。その様子を目で追いかけていたルヴァイドに気づいたアメルが再び柔らかい微笑みを彼に向ける。

「ずっと名前さんが貴方のことを看病してたんですよ。」

「名前、が…?」

アメルの言葉にルヴァイドは再び自分の脇で眠る名前へと目を落とした。驚きの中に少しだけ嬉しさが混じっているような、なんとも言えない、複雑な気分である。

「まったく…俺の周りにはどうしてこうもお人好しな連中が多いんだ…。」

「でも、それはルヴァイドさんだって同じでしょう?」

「…俺が?」

思わず目を見開くルヴァイドを余所目に、アメルは相変わらずにこにことした微笑みを浮かべている。

どこからそんな自信が湧いてくるのかは不明だが、そんな物知り顔の彼女を前になんとなく居心地が悪くなって、ルヴァイド黙って視線を外した。


大切なものはいつだって壊してきた


(この血に濡れた掌で今度は大切なものを守ることができたなら。)