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普段の彼はほとんど感情を乱さない。思わず憤慨しそうになる命令を受けようが、そう…例えばそれが身の毛もよだつような殺戮や連日あちこちへと派遣される戦闘であろうが、文句ひとつ言わずに黙って遂行してみせる。それが我らが黒の旅団の総指揮官様、だ。
けれど感情の波に幅がほとんどないのかと思えば、これがまれに普段の彼からは想像もできないくらい不安定になることがある。もっとも、そんな不安定な彼の存在を知っているのもごくごく少数のものかもしれないが。
そんなどうでもいいことに思考を割きながら、名前はじんわりと背中に伝わるルヴァイドの熱と重みを感じていた。後ろから抱きしめられた体勢のままで、けれど名前は何も言わない。彼も何も言わない。ただ弱弱しく回された彼の両腕に名前が手を重ねれば、その手を縋るような彼の掌に絡め取られた。
ああ、本当にこの人は、生きにくい人だ。
「ルヴァイド様、」
ただ一言、苦しいとか、つらいとか、悲しいとか。
そんな弱音の吐き方さえ彼は知らないのだろうかと思うと、なんだかこちらの方が胸がつまるような、そんな気持ちがした。
呼吸の仕方が思い出せない
(きっと彼は上手く息ができなくて苦しいんだ。)