自分には幸せになる権利などないのだと、そう最初から決めつけてかかっているような、そんな彼の背中が嫌いだった。嫌い…というより気に食わないという方が正しいかもしれない。


「…では聞くが、それなら何故お前はそのようなところにまとわりついているのだ。」

ぴたり、と彼の身体が停止してから十数秒。目線は前を向いたままでルヴァイドは背後にいる名前に問いかけた。背後にいるというよりルヴァイドの背にぴったりと張り付いていているという風の名前は、先程から彼の身体に両腕を回し、その背中に顔を埋めている。

そんな彼女の行動を、ルヴァイドはただ訝しんでいることしかできないでいた。

確か十数秒前に彼女はひとこと、気に食わないと、そう言いはしなかっただろうか。そう言ったのは確かに彼女で、そして今なお自分の背にぴったりとくっついているのも、彼女だ。矛盾している。

「気に食わないからです。」

「お前がいたところでは気に食わない相手に抱きつくのが普通なのか?」

「いいえ。」

ますます訳が分からないという風にルヴァイドはくしゃりと前髪を掻いた。何故だろう、さっきからどうも上手く彼女との会話が成り立たない。

「何が言いたいんだ、名前…。はっきりと言われなければ分かるまい…。」

ルヴァイドが少し苛立ちを含ませた声で言うと、名前はルヴァイドにまわしていた両腕を少し緩めて顔を上げた。

「…分けてほしいんです。貴方が背中に背負っているものを。」

ぴしり、と再び彼の身体が停止した。小さく零すように呟いた彼女の声がひどくクリアに彼の耳の奥に残っている。

目線は前を向けたままでルヴァイドは返答の言葉を探した。そうしている間にも彼女の両腕に再び力が込もっていたことには、気がつかなかった。


もしも幸せの裏側で逢えたなら


(せめてその痛みを分かち合うことくらいさせて欲しい。)