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「嫌ではないのか?」
出し抜けに口を突いて出てきた言葉に、彼はすぐにそのようなことを口走った自分自身を後悔した。目の前で背筋をしゃきんと伸ばして立っていた女はその問いの意味を図り切れなかったかのように目をぱちくりとさせている。
「何がです?」
何が、と問われてルヴァイドは少し答えに窮してしまった。出かかった言の端を少し言い淀ませてから、ルヴァイドはくしゃりと頭を掻く。
「…俺の父親は反逆者として処刑された男だ。」
「ええ、存じておりますが。」
顔色ひとつ変えることなくさらりと答えてみせた名前にますますルヴァイドの表情に困惑の色が濃くなった。眉間に皺を寄せたまま、彼はもんもんとする頭でここ数日の記憶を探る。
確か自分の元に配属されてくる者たちのほとんどは多少なりとも最初は拒絶の意思を態度や表情に滲ませていたはずだ。そのような評価はこちらも甘んじて受け止めているつもりであるし、自分が忌み嫌われるべき存在であることも理解しているつもりである。
それゆえ例に漏れず彼女にももっとあからさまに嫌な顔をされると思っていたのだが…。彼女のこういった反応は彼の意表を突いた。
「誰しも最初は俺に嫌な顔をするのだがな…。」
「…はあ、なんだか私にも嫌な顔をして欲しかったような口ぶりですねえ…。」
「何…、」
軽く眉をハの字に曲げて首を傾げた名前をルヴァイドの両眼がぎろりと睨む。だが名前は、すみません、と言って少し肩を竦めてみせただけで大して動じていない様子だった。
「…可笑しな女だ。お前といると調子が狂う。」
「そうですか。」
「そうだな。…だが、嫌…ではない。」
ぽつりと彼の口から零れた言葉に今度は名前が少し驚いたように眉を上げた。だが彼女はぽかんと開けた口元をそのまま綻ばせると、そうですか、と言ってルヴァイドににこりと笑いかけた。
どきり、と胸の辺りで何かが跳ねる。
そう感じたのはこのような笑顔を向けられることがひどく久しぶりだったからかもしれない。ただそれを見て、彼女の笑顔もやはり嫌いではないな、と思えた。
未だ願うことをやめられないでいる
(願うことの愚かしさならとうの昔に教わった筈なのに。)