×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

1章

05


 
合宿中のご飯はマネージャーと保護者さんで一緒に作る。初日の晩ごはんのメインは唐揚げ。家庭料理ではありえない程の量を一気に揚げて楽しかった。あんなに山盛りだった唐揚げも、晩ごはんが始まって30分もしたら半分以下になってしまった。おかわりももりもりしてくれるから、このままのペースでいくと1時間もしないうちに無くなってしまいそうだ。
しかしまだ全員が食堂に来たわけじゃない。木兎さんと木葉さんと赤葦くんの姿が見えない。音駒にもまだ来てない選手がいるみたいだ。自主練に際限のない木兎さんのことだからまだ体育館にいるんだろう。練習を中断させてしまうのは申し訳ないけど、せっかく作ったしお腹も空いてるはずだからたくさん食べて欲しい。

「そろそろ呼びに行くかー」
「あ、私が行きます!」

こういう時は後輩が率先して動かなければ。私はゆっくりと立ち上がった雪絵さんよりも素早く、小走りで体育館へ向かった。


***


渡り廊下まで出ると複数ある体育館のうちのひとつに明かりが点いているのが見えた。中には木兎さん、赤葦くん、木葉さん、それから音駒の人が3人いて、3対3でミニゲームをやってるみたいだった。

「あのー……」
「……木兎さん」
「おー夜野田ー!」

あまりに楽しそうで中断させてしまうのが申し訳ない。控えめに声を出した私に最初に気付いてくれたのは赤葦くんだった。赤葦くんのおかげで木兎さんが気付いてくれて、他の人達の視線も私に集まる。

「ご飯そろそろ行かないと片付けられちゃうので……」
「あー、もうそんな時間か」
「そういえば腹減った!」
「片付けるかー」
「手伝います!」

たくさん動いてきっとお腹も空いているだろう。少しでも早くご飯を食べてもらえるように、微力ながら私も片づけを手伝うことにした。

「梟谷は今年もマネージャー入ったんだな」
「おう!夜野田だ!」
「夜野田です。よろしくお願いします」
「音駒の黒尾です。よろしく」
「夜久です。あっちは山本」

一緒に練習していたのは音駒の黒尾さんと、夜久さんと、山本さん。黒尾さんは練習中も木兎さんと仲良さそうにしてるのをよく見ていた。夜久さんはリベロの人だ。山本さんは何故か目を合わせてくれなかった。

「晩飯何?」
「唐揚げです!」
「唐揚げ!最高じゃん!」
「ご飯マネージャーが作ってんだろ?ありがとな」
「いえ全然!あんな大量の鶏肉揚げたの初めてで楽しかったです」
「かりゃあげくんとか美味しいけどよー、やっぱ手作りの唐揚げが一番だよなー!」
「ふふ、もりもり食べてくださいね」

そう言ってもらえると作った甲斐があるってものだ。きっと木兎さんも赤葦くんも、もりもり食べてくれるんだろうな。早く食べて欲しい。

「……いいなあ女子マネ」
「なー」
「何でお前らんとこだけ3人もいるんだよ」
「フフフ、羨ましいだろう!」
「うん。見ろよウチの山本の顔」
「何も泣かなくても……」
「そういえば音駒はマネージャーさんいないんですね」
「そうなんだよ。分けてほしいくらいですよ」

今回集まっている学校で音駒にだけマネージャーがいなかった。普段の練習での雑務はどうしてるんだろう。選手達がやってるんだろうか。せめて合宿では全員が練習に専念できるように、私にできることはやってあげたいな。

「私に手伝えることがあったら何でも言ってくださいね」
「ちょ、この子いい子すぎるんですけど。合宿中は夜野田ちゃんが音駒のマネージャーでよくない?」
「夜野田はやらん!!」
「木兎さん……!」

確かに合宿中は私が音駒のマネージャーとして働くのもアリかもしれないと思ったけど、木兎さんに引き留められて嬉しくなってしまった。

「……ちょっと抜けてますけどね」
「あ、赤葦くん!」
「スリッパのまま来ちゃった?」
「……あ!」

何でそんな意地悪なこと言うのと思ったら、宿泊棟のスリッパでここまで来てしまったことに今更気付いて、音駒の人達に私の鈍臭さを露呈してしまった。

「えー何ドジっ子?かーわいー」
「う、うっかりです!」
「それを人はドジと呼ぶ」


***


お風呂は学校ごとに時間が決まっている。初日の今日は梟谷が最後で、明日以降は順番をローテーションしていく。……と言っても女子は人数が少ないからいつもみんな一緒に入ってしまうとのことで、とても楽しかった。
身も心もほくほくで女子部屋に戻ったら脱衣所にアメニティセットを忘れてきてしまったことに気付いて、私は一人宿泊棟の廊下を歩いていた。

「おっ、夜野田ちゃんだ」
「!」
「こんな夜中に一人で歩いてちゃ危ないよ〜?」
「あ、は、はい」

親しげに話しかけてくれたけどどうしよう、誰かわからなくてよそよそしい感じになってしまった。梟谷の人じゃないことは確かだ。多分他校の人だろうけど……「誰ですか」と聞くのは失礼だと思って知ったかぶりをしてしまった。

「黒尾ー!俺のパンツ知らねー?」
「知るわけねーだろーが」
「えっ、木兎さん?」

私の正面から木兎さんがやってきて、目の前の人が音駒の黒尾さんだということが判明した。髪の毛がぺたんこになってるから全然わからなかった。同様に木兎さんもぺたんこで別人みたいだけど、声とかテンションで木兎さんだとすぐにわかった。

「あ、夜野田俺のパンツ知らない?」
「女子に聞くんじゃないよ」
「青い星柄のやつですか?」
「そうそれ!」
「知ってんのかーい」
「自販機の横のベンチに置かれてました」
「サンキュー!」

偶然にも私は木兎さんのパンツを目撃していた。お風呂上りにベンチの上にパンツがポツンと置き忘れてるのを見つけて、拾おうとしたらかおりさんに「汚いからやめなさい」と言われてそのままにしたんだった。木兎さんはパンツの在処を聞いてすぐに行ってしまった。

「木兎さん、髪ぺたんこだと印象違いますね……あ、黒尾さんも」
「あー……もしかして最初誰かわかんなかった?」
「……すみません」

結局誰かわかってなかったことがバレてしまったものの、黒尾さんは特に怒る様子もなく「だよねー」と笑ってくれた。優しい。

「うちの研磨と知り合いなんだってね」
「研磨さん……?」
「ほら、金髪の」
「あ!そういえばお名前聞くの忘れてました。研磨さんっていうんですね」
「1年だから夜野田ちゃんと同い年だよ」

合宿で再会した金髪の人は研磨くんというらしい。お話したいなとは思っていても、合宿中はなんだかんだ忙しいうえに人もたくさんいるものだから全然チャンスがなかった。明日こそは声をかけられたらいいな。ちゃんと自分の名前も名乗らなくちゃ。

「研磨くんには予選会場でぶつかってしまって、その時落としたハンカチを拾って貰ったんです」
「へー。アイツ持ってきたのかな」
「いえ、また今度持ってきてもらいます」
「今度っつーと次の合宿か……忘れたら困るし、夜野田ちゃん連絡先教えてよ」
「あ、はい。IDでいいですか?」
「おー」

研磨くんと次に会うことになるのは恐らく次の合宿。次回は夏休みの終わりごろだから1か月後くらいになる。確かに時間が空くと忘れてしまいそうだ。私は特に疑問も持たずスマホを取り出した黒尾さんに自分のIDを伝えた。

「パンツあった!」
「はいはい良かったねー」

ID検索が完了したところで木兎さんがパンツを見つけて戻ってきた。良かったけどブンブン振り回しされるとちょっと目のやり場に困る。

「俺たち今から枕投げするけど夜野田も来る?」
「いやいや男共の枕投げに混じったら夜野田ちゃん潰れちゃうでしょうよ」
「確かに!じゃあダメだ!」
「はい、遠慮しておきますね」

とても魅力的なお誘いではあるけれど、正直バレー部員の枕投げに参加して無傷で戻ってこれる自信はない。それに、女子は女子で夜の時間に楽しむことがあるのだ。

「女子は何すんの?UNO?」
「いやいや合宿の夜の定番といえば……」
「雪絵さん主催のお菓子パーティーをしながら怪談大会です!」
「恋バナしてよ」



prev- return -next