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1章

03


 
「ふふふ……」

今日の私はフワフワしていた。何故なら昨日、雪絵さんとかおりさんとお洒落なアイスを食べたからだ。前回誘ってもらえた時は激辛ラーメン最終日と被ってしまって、お断りせざるを得なくて本当に心苦しかった。
でも優しい先輩達はまた日を改めて誘ってくれたのだ。みんなで違う味を頼んで『あーん』したり写真を撮ったりと、とても幸せな時間を過ごさせてもらった。
中学の時は帰り道の自販機でジュースを買うのにもドキドキしていた私が、お店に入ってアイスを食べるなんて成長したものだと感慨深い。ちなみに「アイス」ではなくて「ジェラート」と言うらしい。おしゃれだ。

「夜野田危ない!!」
「ふおっ」
「夜野田ーーー!!」

女子会の思い出に浸ってボール拾いをしていたら珍しく焦った感じの木兎さんに名前を呼ばれて、その瞬間肩にズドンと大きな衝撃を受けた。


***


「ほんっとごめん!!」
「大丈夫です!気にしないでください」

私の肩に当たったのは木兎さんのサーブだった。木兎さんに全力で土下座をされて全力で首を横に振る私に、みんなの視線が集まるのを感じる。
当たった瞬間は確かに痛かったけど痣にもなってないしコーチも大丈夫だって言ってたからそこまで気にすることないのに。むしろボールを避けられなかった自分の鈍臭さが申し訳ない。木兎さんに変な気を遣わせてしまった。

「木兎さんは悪くないです。むしろ鈍臭い私が悪いです」
「夜野田運動苦手そうだもんなー!」
「そ、そうですね……」

木兎さんの悪気のない一言がグサっと刺さった。確かに運動神経が良い方ではないけど、こうもストレートに言われると少し傷ついてしまう。

「でも夜野田が試合出るわけじゃねーし運動苦手でもいいのか!」
「え……」
「夜野田はテーピング上手いしな!」
「あはは……」
「それに笛吹くのも上手いし、ちょうちょ結びも上手いし、ペン回し出来るもんなー!」

これは果たして褒められているんだろうか……?初めて言われることばかりで反応に困るけど、きっと木兎さんなりに励ましてくれてるんだと思う。木兎さんの屈託のない笑顔で言われると満更でもない私がいた。人を褒めるのが上手というのは、木兎さんのたくさんある長所の一つだ。

「運動は俺が出来るから夜野田が出来る必要はない。テーピングは夜野田が出来るから俺が出来る必要はない……こういうの何て言うんだっけ?」
「え、何でしょう……適材適所、とか?」
「それ!適材適所!適材適所ってヤツだなー!」

木兎さんは「適材適所」というフレーズが気に入ったのか、その後も何回も繰り返していた。覚えたての言葉を使いたがる子供みたいで可愛い。

「そーだ、夜野田も参加する!?適材適所な気がする!」
「え?」
「赤葦と同じクラスだし強そう!」
「赤葦くん??」

適材適所で思いついたのか、何かに誘ってもらえたけど何のことか全然わからない。赤葦くんの名前が出てきて更にわからない。赤葦くんと同じクラスだと有利になることって何だろう。

「何するんですか?」
「題して!"赤葦の表情筋を動かすのは誰だ選手権"だ!!」
「へ……」
「お、夜野田も参加すんの?」
「強敵だなー」

得意げに発表された選手権の名前は聞き覚えがないしいまいちピンとこなかった。ひょっこりやってきた木葉さんや小見さんも参加するんだろうか。

「赤葦って表情変わんねーじゃん?」
「クラスでもそうなの?」
「うーん……友達と談笑とかは普通にしてますよ」
「つっても爆笑って程じゃないだろ?」
「そうですね……ゲラゲラ笑ってるのは見たことないです」

確かに、基本的に赤葦くんは表情が変わらない。この前の「照れるから」とか言ってたくせに全然照れた顔してなかったし。クラスの友達や私に対しても笑ってくれることはあるけど、「クス」とか「ニヤ」とか、ちょっと口角が上がる程度の笑顔だ。口を大きく開けたり手を叩いたりして爆笑する姿は見たことがないし想像もできない。

「赤葦の喜怒哀楽を引き出せた奴の勝ち!」
「夜野田が勝ったら一個ワガママ言っていいぞ!」
「やる?」
「が、頑張ります!」
「いいねー!」

……とは言ったものの、正直赤葦くんのポーカーフェイスを崩す自信はない。こういうのは参加することに意味があるのだ。
選手権はもう始まっているるしく、木兎さんは早々に赤葦くんの元へ行き、身振り手振り大きく何かを話し始めた。赤葦くんの表情はやっぱり変わらない。というかちょっと迷惑そうだ。

「木兎は頑張れば怒らせることは出来そうだよな〜」
「確かに」
「あはは……」


***(赤葦視点)


今日、先輩達の様子がおかしい。木兎さんだけならまだしも、木葉さんや小見さんまで変に絡んでくるのは何故だろう。一種の後輩いびりというやつだろうか。気に入らないと思われるようなことをした覚えはないけど、自覚が無いだけなのかもしれない。

「それでね、その時吉田先生が……」

先輩達だけじゃない。夜野田もさっきからまとまらない話をしてチラチラと俺の反応を窺ってくる。一体何をしたいんだろう。

「はい夜野田時間切れ〜」
「うう……」
「あの……」
「あー、何でもないから!」
「ちょっと作戦会議するから!」
「?」

何の作戦会議だ。少なくともバレーの作戦ではないことは確かだと思う。まあ、いくら考えたところでわかるわけがない。とりあえず今は練習に集中しよう。


***


「あの、これは……」

作戦会議の結果かどうかはわからないけど、その日の部活終わりみんなで飯を食いに行こうと誘われた。連れてこられたのは真っ赤なのれんが掲げられた中華料理店。そして俺の目の前に置かれたのは真っ黒な麻婆豆腐。

「辛!」
「やべー汗止まんねー!」

黒は本格的に辛いヤツだってテレビで言ってた。先輩達は苦しそうに汗をかきながら頻繁に水を飲んでいる。

「夜野田これやりすぎだって……」
「え、そうですか?」

一方夜野田は同じものを美味しそうに食べ進めている。辛いの平気というか好きっぽい。意外な一面だ。

「赤葦も平気そうだし……」
「辛いですけど……旨味のある辛さなので美味しいです」
「そう!そうなんだよ赤葦くん!」
「ダメだ、本来の目的忘れてる……」

俺も別に苦手ではない。ただ辛いだけじゃなくてちゃんと旨味もあるから食べられる辛さだ。そう言ったら夜野田が嬉しそうに頷いた。

「赤葦くん、山椒足すと味変になるよ!」
「……うん」

本来の目的が何かは気になるけど…… 夜野田が楽しそうだからまあいいか。



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