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- ナノ -

1章

02


 
(木葉視点)


我が梟谷学園男子バレー部にはマネージャーが二人いる。その事実を伝えると、他校の奴らは決まって羨ましがるものだからその度に俺は優越感に浸っていた。
そして今年、また新たな女子マネージャーが一人入部してくれた。夜野田である。白福と雀田とはまた違ったタイプの女子で、一言で表すとしたら『真面目』。生真面目と言ってもいいかもしれない。言われたことはもちろん、自らも仕事を探して常に動いてる印象が強い。少しくらいサボればいいのに。まあそこらへんは上二人が上手く調整してるようだ。
一生懸命マネージャーとして動いてくれる姿は普通に可愛い。梟谷グループの合宿、特にマネージャーがいない音駒の奴らの反応が楽しみだ。

「夜野田ー!」
「はい!」
「なーなーコレ知ってた!?」
「何ですか?」

その夜野田が木兎に絡まれているのが目に入った。休憩時間でも木兎はしょぼくれていない限り大人しくはしていない。最近2年のマネージャーには適当にあしらわれることが増えたから、ちゃんと聞いてくれそうな夜野田をターゲットにしたのかもしれない。

「ちょうちょはさ……こうなんだよ!」
「へ……」
「そんで、蛾は……こう!」
「ほ、ほう……!」

木兎が身振り手振りで一生懸命伝えてるのは蝶々と蛾の違いだった。女子マネージャーになんつーこと説明してんだよ。絶対興味ないって。反応に困ってんじゃねーか。

「今日綺麗なちょうちょ捕まえて赤葦に見せたらさ、それ蛾ですよって言われてさー!」
「あっ、なるほど!止まる時の羽の動きで蝶と蛾が見分けられるってことですね!」
「そうそれ!」
「へー、知らなかったです」
「だよなあ!!」

こんなどうでもいい話にも付き合ってくれる夜野田は真面目でいい奴だ。なんかほんとごめん。綺麗な蝶々捕まえちゃうような先輩がエースでほんとごめん。

「何見てんの?」
「ん?いやー、夜野田が木兎のくだらない話ちゃんと聞いてやってていい奴だなーって」
「真面目だからなぁ」

猿杙がやってきて、一緒に木兎の話を真面目に聞く夜野田を見守る。微笑ましいっちゃ微笑ましいが、そろそろ解放してやった方がいい気がする。多分夜野田は洗濯の途中だ。戻りたいけど先輩を邪険にできなくて困ってる感じだと思う。

「ヘイヘイ木兎〜、休憩終わるぞー?」
「えっマジ!?じゃーなー夜野田ー!」
「はい。練習頑張ってくださいね」
「おー!」

まったく、練習中も休憩中もテンションが変わらないのなんて木兎くらいだよ。元気よく走っていく木兎の背中を呆れながら見送った。

「休憩、あと20分くらいあると思うんですけど……」
「うん。木兎に捕まってるなーって思ったからさ」
「めんどくさいっしょ?たまには無視していいよ?」
「そんなことないですよ」
「蝶々と蛾の違いとかどうでもよくない?」
「それは……まあ、そうですけど……」

さすがの夜野田でもやっぱり虫の話は興味なかったらしい。だったら尚更無視すればいいのに。

「木兎さんが何に興味を持ってるのかとかは、興味があるので……無視はできませんよ」
「「!」」

そう言ってはにかんだ夜野田に、猿杙と二人して胸を打たれた。うちの1年マネージャーすげーいい子なんですけど。

「あ、いたいた梢ちゃーん」
「はい!」

木兎と入れ替わりに白福と雀田が夜野田に駆け寄ってきた。

「今日この後ヒマー?アイス食べに行こうよ」
「アイス!行きたい……んですけど……!!」
「用事あるの?」
「すみません……」
「いーのいーの、気にしないで。また誘うね」
「すみませんーー!」

女子3人がアイスを食べる姿はさぞかし癒されることだろう。
しかし意外なことに夜野田はその誘いを断った。真面目な夜野田が先輩の誘いを断るなんてよっぽどの事なんだと思う。申し訳なさそうにしていてもその理由を説明しようとしないことが少し気になった。しかしここで「彼氏とデートかー?」とからかえる程、俺と夜野田との関係性は出来上がっていない。プライベートに突っ込みすぎて後輩に嫌われたくはないのだ。


***


「あー……女子と遊びたい」
「それなー」

そして部活が終わり、今日もいつもの同じメンバーで帰路に着く。高校2年の夏休み。青春真っ盛りなこの時期に、俺達は女子とお祭りに行く予定も海に行く予定も入っていない。こんな現実受け入れたくない。心からの願望が俺の口から洩れて、間髪入れずに小見が頷いた。

「あれ夜野田じゃない?」
「お、ほんとだ」
「ラーメン屋から一人で出てきたな」

夜の7時、ラーメン屋から出てきた夜野田を目撃した。白福のアイスの誘いを断ったのはラーメン屋で飯を食う用事があったからだったのか。でも見る限り友達や彼氏が一緒にいる様子はない。

「夜野田ー」
「!?」

一人ならば遠慮する必要はない。名前を呼んで近づくと予想以上に驚かれてこっちまで驚いてしまった。

「こ、こんばんは」

夜野田は何故か口元を押さえて俺達と距離を取ろうとする。普段愛想の良い後輩からあからさまに避けられるとけっこうショックだ。

「あ、あの、ダメです。私今にんにく臭いと思います……!」
「ラーメン食べてたの?」
「は、はい」
「一人で?」
「はい……」

どうやらにんにくの臭いを気にしてるらしい。女子らしい理由が可愛らしいと思った。
それにしても夜野田みたいな大人しそうな女子が一人でラーメン屋に入れるとはいいギャップだ。

「ラーメン好きなんだ。いいじゃん」
「ラーメンというか……辛いものが、好きで……」
「へー!」

夜野田が出てきたラーメン屋を見ると、確かに激辛ラーメンのポスターがでかでかと貼ってあった。まさかコレを食べてきたと言うんだろうか。写真を見る限りほぼ赤い物体なんだけど。

「これ期間限定で今日までだったんです」
「あー、だからアイス断ったんだ」
「はい……」

なるほど。単なる一人飯だったらいつでも行けるけど、今日までの激辛メニューを食べたくて先輩の誘いを断ったってわけか。ようやく納得できた。

「辛いのって、どんくらい辛いのまでいけんの?」
「多分、けっこういけます」
「へー!変態ってやつだ」
「えへへ……そうかもしれないです」

最近よく激辛特集とか見るけど、そういうレベルなのかな。後輩マネージャーの意外な一面を見ることができてなんだか嬉しい。

「普通の人にもオススメなのある?」
「それなら駅前に麻婆豆腐専門店があるんですけど、美味しくて辛さが選べるのでオススメです!」
「「「……」」」

好きなもののことを聞かれて嬉しかったのか、夜野田は饒舌に答えてくれた。テンション上げちゃって可愛いねぇ。ポカンとする俺達を見て、夜野田はハッと我に帰り頬を染めた。

「あ……ごめんなさい……」
「いや、可愛いなーって思っただけだから」
「今度みんなで行こうなー」

辛いのは正直そこまで好きじゃないけど、可愛い後輩マネージャーが好きな物には興味がある。夜野田の意外な一面を、早くみんなと共有したいと思った。



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