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2章

13


 
最近夜野田の俺に対する態度が変わってきたと思うのは気のせいじゃないと思う。目が合うと恥ずかしそうにそらしたり、前みたいに必要以上に近づいてこなくなった。意識してくれているんだとしたらこのチャンスを逃すわけにはいかない。

「ありがとう」
「ううん全然!」

誕生日を祝ってくれると言うから当日の放課後デートに誘った。夜野田と一緒に行きたいところを挙げればきりがないし放課後だとあまり時間もとれない。白福さんに聞いたメロンパン専門店でメロンパンを食べた後、夜野田がどうしても誕生日プレゼントを買いたいと言うからマフラーを選んでもらった。時間は18時をまわった。晩ご飯を一緒に食べようって誘っても迷惑じゃないだろうか。

「あ! えーと……梢ちゃーん!」
「あ……!」

大通りを歩いていると、夜野田の下の名前を呼んだのは思いもよらない人物だった。

「宮侑と知り合い?」
「そうだ宮くん、宮くんだ。この前のインターハイでちょっとね」
「……」

稲荷崎の宮侑と夜野田が面識あるなんて聞いてない。「ちょっと」って何だ。詳しく教えてほしい。

「梢ちゃんで合うてる?」
「うん。あれ、名乗ったっけ?」
「先輩がそう呼んどるの聞いた」
「そっかー」

ここまでの会話と表情を観察する限りそこまで親しいわけではなさそうだ。名前を呼んだのは夜野田を知らなかったからかもしれない。

「……アッ、ごめんデート邪魔した!?」
「ち、違うよ!うちのセッターの赤葦くんです」
「へーー……」
「……どうも」

優秀なセッターと名高いからには勘が鈍いタイプではないだろう。今のやりとりでなんとなく俺たちの関係性は見えたはずだ。含みのある視線を向けられた。

「何で東京にいるの?」
「ユース合宿の帰りやねん」
「へー。お疲れ様」

そういえばそんな時期か。毎年12月の頭に行われるユース合宿の会場はこの近くだ。烏野の影山も呼ばれたらしいと木兎さんが言っていた。

「梢ちゃんこの辺詳しい?」
「うん」
「今から帰るんやけどな、品川駅から新幹線乗んねん」
「うんうん」
「品川までってこの路線で合うてる?」
「うん大丈夫だよー。でもここからだと地下鉄乗った方がわかりやすいかも」
「ほんま?」

スマホの画面を覗き込んでやりとりするふたりを見て嫌だと思った。宮侑がわざと距離を近くとって見せつけてきたけどそんな挑発には乗らない。宮侑が本気で夜野田のことを想ってるとは思えない。焦る必要はない。脳内で必死に言い聞かせた。

「ありがと!また春高で会おうなー!」
「うん、気を付けてね」

会わせてたまるか、と心の中で吐き捨てる。春高は用心しておこう。

「赤葦くん電車で帰る?」
「……ううん。まだ一緒にいたい」
「!」

こんな気持ちのまま帰りたくない。奇しくも宮侑のお陰で言うのを躊躇っていた言葉はすんなり出てきた。


***(夢主視点)


「まだ一緒にいたい」だなんて変な言い方をされてまた意識してしまったけど、赤葦くんはきっとお腹が空いただけに違いない。晩ご飯を一緒に食べることになって、私が気になってると話したことがある喫茶店で他愛のない話をしながらオムライスを食べた。赤葦くんと一緒にご飯を食べることなんて今までに何回もあったし、家まで送ってくれることだって初めてじゃない。それなのにいつになく私の心臓が煩いのは、私が軽く躓いたのをきっかけにずっと手が握られているから。

「あの……赤葦くん」
「ん?」
「最近その、なんていうか……ち、近いというか……」
「……ダメ?」
「ダメなわけじゃないけど……勘違いされちゃうよ」

未だに赤葦くん本人から「好きな人がいる」という報告は受けていない。私の意識が変わったせいからかもしれないけど、最近の赤葦くんはやけに距離が近い気がする。いくら考えても男女の友達で手を繋ぐのは違和感があると思った。

「俺は、勘違いされてもいいと思ってるよ。夜野田は嫌?」
「ううん……でも、よくないんじゃないかな。友達なんだし……」

私だって赤葦くんと手を繋ぐことは嫌じゃない。でも私は赤葦くんの友達でしかない。それこそ赤葦くんのことが好きな女の子が見たら嫌な気分になってしまうはずだ。

「……ごめん。もう、夜野田のこと友達って思えなくなった」
「!」

私はもう赤葦くんにとって友達じゃない。その事実を突きつけられて一瞬息が出来なくなった。嫌だ、赤葦くんの友達でいられなくなったら、私はこの先笑えないかもしれない。

「夜野田と付き合いたいって、思ってる」
「……!?」
「俺は高校を卒業した後も夜野田と一緒にいたいと思うし、俺以外の恋人ができたら嫌だと思う」

赤葦くんは私に友達ではなくてそれ以上の関係を求めてくれていた。私の中にほんの1パーセントくらいあった可能性がいざ現実になると、どうしたらいいのかわからない。気持ちを打ち明けられて、私にまず芽生えたのは高揚感ではなくて恐怖だった。赤葦くんと今までの関係でいられなくなるという、恐怖。

「わ、私は……」
「いいよ、焦らなくて」
「!」
「俺もたくさん考えたから…… 夜野田も俺とのこと、たくさん考えて」

赤葦くんとの関係性が変わってしまうのが怖くてなかなか返答できないでいる私に赤葦くんは優しく言ってくれた。

「夜野田がどうしたいかを教えて。待ってるから」
「……うん」

いつだって赤葦くんは私の気持ちを考えてくれている。その優しさに少し泣きそうになってしまって、震える声で頷いた。


***


「梢ちゃ〜ん」
「赤葦と何かあったでしょ?」
「へっ!?」

赤葦くんに告白されて3日が経った。「たくさん考えて」と言われて、1日の半分以上赤葦くんのことを考えている気がする。そんな中でも赤葦くんとは話すことになるし、なんならいつも通り家まで送ってもらっている。自分なりに普通に振る舞っていたつもりでも、先輩達にはお見通しらしい。

「告白された?」
「は、はい」
「おー!」
「返事は?」
「まだ、です」
「え〜、何で〜?」

赤葦くんのことは大好きだ。それでも決断できないのは、きっと私の経験が乏しいから。仮に付き合うことになったとしたら私達はどうなっちゃうんだろう。友達ではなくて恋人としての私達は今まで通り楽しく過ごせるのかが、わからない。

「怖いんです」
「怖い?」
「赤葦くんのことは好きですけど、恋人になったらどうなっちゃうのか、わからなくて……」
「絶対楽しいよ〜」

間違いなく私にとって赤葦くんは特別な人だ。赤葦くんと一緒にいると楽しいし、手を握られても嫌じゃなかったしむしろドキドキした。赤葦くんの好きな人が他の誰でもなく私で良かったと心から思う。

「梢ちゃんは友達としての赤葦に満足していて、その関係が壊れるのが嫌なんでしょ?」
「そうなんだと思います」

私は今まで男の人と付き合ったことがないから、恋人ができた時自分がどうなってしまうのかがわからない。告白された時、何をどう判断して返事をすればいいのかもわからない。根底に赤葦くんを悲しませるような返事はしたくないという考えはある。でもそんな理由で頷くのは赤葦くんにとっても本意ではないはずだ。

「じゃあさ、赤葦とちゅーできる?」
「え……」

赤葦くんと、ちゅう。想像して顔が熱くなったのがわかった。

「今想像してみてさ、嫌じゃなかった?」
「嫌じゃないです」

赤葦くんとのキスが嫌じゃない……なんて、偉そうな言い方だけど確かに嫌ではなかった。

「なら……」
「でも、ちゅーしたいとも、特に思わなくて……」
「「……」」

ただ、赤葦くんとキスしたいという願望があるわけじゃない。先輩達の言う通り友達と恋人の大きな違いと言ったらそういう行為があるかないかだと思う。そういう願望が出てこないってことは、やっぱり私の赤葦くんに対する「好き」は恋愛感情じゃないんだろうか。

「じゃあさ……」



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