×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

2章

09


 
最近夜野田の様子がおかしい。明らかに元気がないように見える。深刻な表情で何かを考えていることが多くて、視線を合わせるとすぐに逸らされる。前にも思ったことだけど夜野田に隠し事をされるのは嫌だ。何か困ってることがあるんだったら相談してほしい。

「夜野田、最近元気ないけど何かあった?」
「えっ……だ、大丈夫だよ!」

聞いてみると夜野田は心配させまいと明るく振る舞った。そんな上辺だけの表情に騙される俺じゃない。逃がさないと口で言う代わりにじっと見つめると、夜野田は居心地が悪そうに視線を泳がせた。

「洗濯、あるから……」
「待って、納得できない」
「!」

この場を離れようとした夜野田の腕を掴んだ。もしこの状態がしばらく続くんだとしたら見逃すことはできない。俺には「弱音を吐いていい」と言うくせに自分は全然人を頼ろうとしないじゃないか。

「は、放してよ」
「やだ」
「赤葦くんどうしたの?おかしいよ」
「おかしいのは夜野田の方だよ」

少しだけ突き放すような言い方に違和感を感じた。もしかして、意識的に俺と距離を取ろうとしているんだろうか。

「私はただ、普通の友達の距離感を取ろうと思って……」
「……誰かに何か言われた?」
「私が近くにいたら赤葦くんに彼女できないから……」
「……」

やっぱり変なこと考えてた。確かに高校に入ってからは告白を受けたことはないけど、夜野田が自らそんなことを考え付くとは思えない。きっと誰かに吹き込まれたんだろう。

「できなくていいよ」
「うそ、彼女欲しいって聞いたもん」

彼女が欲しいだなんて夜野田に言った覚えはない。言ったとすれば数日前、木兎さんにいきなり聞かれた時だろうか。あれは言わされたようなものだ。とは言え夜野田への気持ちをはっきりさせてくれたのも事実だから感謝はしている。

「夜野田が近くにいてくれなくなるなら彼女はいらない」

夜野田以外の彼女はいらない。そう伝えるつもりで言葉を選んだ。

「ごめん……私、赤葦くんに彼女できたら嫌だなって思っちゃった」
「!」

ここ最近元気がなかったのはそういうことだったのか。俺も夜野田に彼氏ができるのは嫌だと思った。夜野田も俺と同じことを考えてくれていたことが嬉しい。

「そんなこと気にしなくていいから」
「……うん」

俺はその後に夜野田の恋人になりたいという結論に至った。夜野田は俺への気持ちを、どう理解したんだろう。

「夜野田……」
「でも、好きな人ができたら遠慮しないで言ってね」
「……ん?」
「覚悟はしておくから……それまでは、赤葦くんの一番でいさせてね」

ちょっと待て。嘘だろ。俺が言うのもなんだけどここまで来てそれはないよ夜野田。何で好きな人が自分じゃないなんて思えたんだ。何スッキリした顔してんだよ。

「今日私も自主練手伝うから一緒に帰ろ!」
「……うん」

まだまだ夜野田に対しての理解が足りなかったようだ。ここまで徹底して友達扱いをされるとは。軽い足取りで体育館に向かう夜野田の背中を見送ってからひとり頭抱えた。

「赤葦……ドンマイ」
「お前は悪くないと思うよ」
「……見てたんですか」
「喧嘩してんのかと思ってヒヤっとしたわー」

夜野田の姿が見えなくなってから肩に手を置かれた。振り向くと木葉さん、そしてその後ろに小見さんと猿杙さんがいた。同情されてるということは、さっきの夜野田とのやりとりを見られていたんだろう。木葉さんにはこの前バレたからいいとして、小見さんと猿杙さんにもバレてしまった。

「てかやっぱ好きだったんだなー!」
「俺達は味方だからな!」
「流石にアレはない!」
「……ありがとうございます」

俺がようやく自覚できた恋はこれからが本番のようだ。


***(友人視点)


「夜野田、これありがとう」
「いいえー。面白かった?」
「うん。続きも借りていい?」
「もちろん!」

教室の入り口近くでやりとりをする梢と赤葦に視線を向けるのは私だけではない。梢が赤葦に貸していたと思われるのは、私にもオススメしてきた小説だろう。私は文字読むの得意じゃないから借りなかったけど。
赤葦と梢がこうやって一緒にいるのは1年の頃から見慣れたものだった。どこまでも通常運転なふたりを見てもどかしいと感じているのも、きっと私だけではないはずだ。
傍からこのふたりを見ていて、恋愛に発展しないのは梢の恋愛偏差値が低すぎるせいだと思っている。赤葦は正直読めない奴だけど、なんとなく最近梢と一緒にいる時の雰囲気が変わったような気がしていた。赤葦の方は「好き」を自覚したんじゃないかな。女の勘だ。だけど自信はある。
そこで良かれと思って、梢の意識を変えるためにつついてみた。男女の友情が成り立つのは難しいんだと教えてあげて、梢なりにいろいろ悩んでたと思ったら……今日はもういつも通りになっている。これはどういうことか。

「そういえば赤葦に聞いた?」
「うん」

赤葦とのやりとりを終えて席に戻ってきた梢を捕まえた。

「彼女は欲しいって言ってたんだけどね、今は好きな人いないみたいだからそれまでは仲良くしてもらうってことで解決しました!」
「へーー……ヨカッタネ」

何してんだよ赤葦。せっかく私がいいパス出してやったというのに。彼女欲しいって言ったんだったら、梢に彼女になってほしいって言っちゃえばいいじゃん。どこをどう間違えればこんなことになるの?
梢の清々しいお顔を見て少しだけ赤葦に同情した。残念ながら私のパスは思ったように通らなかったようだ。むしろ赤葦に悪いことをしてしまったのかもしれない。


***


「赤葦ちょっといい?」
「?」

廊下で赤葦を見かけたから声をかけた。何を隠そう私と赤葦は同中だ。いや別に隠してるわけじゃないんだけど。同じクラスになったのは2年の時だけで全然話さなかったから、お互いに顔と名前は知ってるってだけだ。

「確認なんだけどさ、梢のこと好きでいいんだよね?」
「……俺ってそんなわかりやすい?」
「ううん、超絶わかりにくい」
「……」

頷いたわけじゃないけど赤葦は肯定を示した。大丈夫、普通の人だったら気付かないと思うよ。

「ごめん、梢に入れ知恵したの私なんだよね」
「!」

入れ知恵という単語を聞いて赤葦はすぐに何のことかわかったみたいだ。

「良かれと思ってやったんだけどさ……余計めんどくさいことになっちゃった?」
「いや……現状はっきりしたし、青梅が謝ることじゃないよ。むしろありがとう」

赤葦はいい奴だ。顔も悪くないし身長も高いし運動もできるしバカじゃない。梢にも言ったけどこれでモテないはずがないのだ。実際中学の時も赤葦のことが好きだっていう女子は何人かいた。でも誰かと付き合ったっていう噂は聞かなかった。
そんないい男が私の親友を選んでくれたってことが素直に嬉しい。梢だって、赤葦と付き合ったら絶対楽しいし幸せになれるはずだ。このふたりがうまくいけばいいと心から思っている。

「私でよければ協力するよ」
「……うん。本当に困ったら相談させてもらうよ」



prev- return -next