×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

2章

08


 
「赤葦が彼女出来ないのって夜野田のせいだよね」
「えっ」

友人の桃子ちゃんに部活の話をしていたら唐突に言われた。桃子ちゃんは去年から同じクラスで、男子で一番仲が良い友人が赤葦くんなら桃子ちゃんは女子で一番仲が良い友人だ。可愛らしい見た目とは裏腹にズバっとした物言いがかっこよくて憧れている。

「赤葦って普通にかっこいいし、背も高いし、アホじゃないからそこそこモテるはずなんだよ」
「うん、モテるんじゃないかな」

桃子ちゃんの言葉に付け足すとしたら、優しいし、運動神経も良いし、笑うと可愛いし、いざという時は力強い言葉をくれる。本人から恋愛の話はあまり聞かないけど、こんな素敵な人がモテないわけがないと私も思う。

「でも赤葦いいなって思ってもさ、梢がいるからなかなか狙えないんだと思う」

確かに……よくよく考えてみれば、好きな人に私みたいに付きまとっている女がいたら邪魔だと思うのが普通だ。私の存在が赤葦くんに彼女が出来ることの邪魔をしていただなんて。もしかしたら気付かないうちに誰かの恨みを買っていたかもしれない。

「逆もまた然り」
「え?」
「梢のこと好きな人にとっては赤葦が邪魔ってこと」
「そんな人いないよ」
「そう? 私たまにジェラシー感じるよ」
「え、桃子ちゃん赤葦くんのこと……!?」
「いやいや逆でしょ。赤葦に梢取られてジェラってんの」
「桃子ちゃん……好き……!」

そうは言っても絶対的に私はモテないから、この状況は赤葦くんにばかり迷惑がかかってしまって不公平だ。普通の男子高校生だったら彼女欲しいって思うはず。赤葦くんだったらいくらでもチャンスはあったに違いない。そのチャンスをことごとく私が潰してしまっていたのだとしたら申し訳なさすぎる。

「赤葦くんも彼女欲しいよね……」
「そこらへん赤葦って謎だよね。聞いてみればいいじゃん」
「でも……」
「仲良しなんでしょ?」
「……うん」

友達で恋愛の話をするのはおかしいことじゃない。聞くこと自体は何も難しいことじゃないんだけど、もし赤葦くんに「彼女が欲しいから距離を置いてほしい」とか言われたらどうしよう。いや、赤葦くんのためを思うなら受け入れなきゃいけない。私は赤葦くんには幸せでいてほしいのだ。


***(木兎視点)


赤葦は夜野田のことが好き。すげーこと発見したっていうのにみんな全然信じてくれなかった。確かに赤葦は表情あまり変わらないからわかりにくいけど、俺はこの推理に自信がある。
最初に「おや?」って思ったのは合宿初日、駅に集合した時だ。夜野田を見つめる赤葦の目がすげー優しかった。何て表現したらいいかわからないけど、ただの友達に向ける視線じゃないことはわかった。
それから昼飯の時、水着を選んだ理由を当てられて恥ずかしがる夜野田を赤葦はガン見していた。多分心の中で悶えてたんだと思う。赤葦が眉ひとつ動かさず固まってる時は、だいたい何か考えてる時だ。
そこで直接赤葦に夜野田のことを聞いてみたら「人として好きだ」と言われた。本当は赤葦だってもう気付いてるはずなのに、認めようとしない。赤葦も頑固だからな。先輩として、素直になれない後輩の背中を押してやりたい。

「はあ……」

ため息をついていかにも悩んでいそうな後輩を見つけた。夜野田だ。その視線はチラチラとサーブ練習をする赤葦に向けられている。

「夜野田どうしたの?」
「あ……木兎さん」
「赤葦のこと見てたよね?」
「!」

夜野田は赤葦のことは本気で仲の良い友達と思ってるんだろうけど、赤葦に付き合ってほしいって言われたら普通に嬉しいんじゃないのかな。

「悩み事?先輩に相談していいよ!」

赤葦を見て悩ましげなため息をつくってことは、赤葦に対する気持ちが変わったりしたんだろうか。先輩として相談に乗ってあげたい。

「……誕生日に貰った券、使っていいですか?」
「おう!」

夜野田はジャージのポケットから俺が作った"先輩をコキ遣える券"を取り出した。本当はこんなの無くても後輩からの頼みを断ることなんてないんだけど、きっかけをあげないと夜野田は頼ってくれないと思ったから素直に受け取った。

「赤葦くんに彼女欲しいか、それとなく聞いてほしいんです」
「!」

これは……進展しそうな予感!彼女欲しいか気になるってことは、赤葦のことが気になり始めてるに違いない。

「いいよ!でも夜野田自分で聞けばいいんじゃない?」
「今日何回か聞こうとしたんですけど、勇気が出なくて……」
「そーか!」

そのくらい赤葦と仲が良い夜野田ならサラッと聞けちゃいそうなのに、恋をするとそれができなくなっちゃうんだなあ。

「あの、私に頼まれたとかは言わないでくださいね」
「おー、わかった!」
「さ、さりげなく、お願いしますね」
「任せろ!」

俺、恋のキューピッドになっちゃうかもしれない!


***


「赤葦って彼女欲しいって思う?」
「……いきなりですね」

後輩に頼られたことが嬉しかったのか、木兎はすぐに赤葦のところへ向かった。張り切りすぎて質問がどストレートになっている。夜野田に「さりげなく」と言われたことはすっかり忘れてしまったようだ。

「最近よく考えるんですけど……わからないんです」
「わからない?え、そんなことある?」

木兎から聞かれたことはまさしく赤葦が最近よく考えていたことで、その答えは未だに出せないでいた。
彼女が欲しいか欲しくないかを2択で聞かれたら、ほとんどの男子高校生は「欲しい」と答えるだろう。「わからない」という答えが出てくることが木兎には理解できなかった。

「木兎さんは彼女欲しいですか?」
「うん」
「何でですか?」
「えっ」

当然のように出てきた答えに理由を求められて木兎は怯んだ。

「だって彼女いたら人生超楽しいじゃん!」
「具体的にお願いします」
「えー……手ェ繋いだり、デートしたり、好きーって言ったり……」
「それって、彼女でないと出来ないことですか?」
「は?」
「そういうことをする対象は必ずしも彼女じゃなきゃダメなんでしょうか」
「ちょっと待って赤葦よくわかんない」

赤葦は落ち着いていて常識があるイメージを持たれているが、少し考えすぎてしまうところがある。木葉やマネージャーから言わせれば「コイツもなかなか変」なのだ。
夜野田への気持ちに対して、赤葦なりにいろいろ考えた。考えすぎた結果、今の居心地の良い関係を壊してまで「恋人」という関係にこだわる必要はあるのかと思い始めてしまっていた。今木兎が例として挙げたことは、正直今の関係のままでもクリアできそうだと思ってしまったのだ。

「つまり夜野田と付き合わなくてもいいかもって思ってるってこと?」
「まあ……そうですね」
「赤葦バカだなー!彼氏にならなきゃ『俺の女に手ェ出すな』って言えないじゃん!」
「!」

珍しく赤葦は木兎の言葉に衝撃を受けた。考えすぎて大事なことを忘れていた。合宿の時に烏野の菅原と連絡先を交換してるのを見て感じた感情は嫉妬だった。その時「友達」という立場では何も言えないことに気付いたはずなのに。

「じゃあ……はい、そうですね」
「! 彼女欲しいってこと?」
「はい」
「だよなー!」

夜野田に彼女になってほしい。この簡単な答えに、木兎のおかげでたどり着くことができた赤葦はスッキリした表情をしていた。


***


「赤葦彼女欲しいって!」
「!」

赤葦から望み通りの答えを聞き出してすぐ、木兎は意気揚々と夜野田のもとへ向かった。

「そうですか……」
「?」

夜野田の反応は木兎の想像と違った。彼女が欲しいと聞いたら喜ぶと思っていたのに、夜野田は落ち込んでしまったように見える。

「ありがとうございます」
「おう! 頑張れよー!」
「……はい」

夜野田のテンションが上がらなかったことは気になるが、それよりも自分のアシストのおかげで後輩カップルが誕生するかもしれないという期待感の方が上回った。木兎は明るい笑顔で肩を落として歩く夜野田の背中を見送った。



prev- return -next