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2章

07


 
「赤葦くんのクラスは何やるの?」
「脱出ゲームだって。夜野田のとこは?」
「おにぎり屋さん!」
「へー」

夏休みが明けて10月の頭には文化祭がある。バレー部は部活優先だからあまり手伝えないけど、2年に進級するとどこのクラスも手の込んだ出し物をする。

「赤葦と夜野田さん、ちょうどいいところに!」
「?」

廊下で話していた俺達に声をかけたのは去年同じクラスだった青木だった。今年は俺とも夜野田とも違うクラスだ。
一緒に来てほしいと頼まれて連れてこられたのは生徒会室だった。そういえば今年生徒会の副会長になっていた。

「実はさ、ふたりがベストカップルに選ばれたから掲示用の写真を撮らせてほしいんだ。」
「……」
「え!?」

文化祭は生徒会が主催している。うちの学校では特にミスコンとかはやらず、生徒会が配られる事前アンケートで票を得た人がミスやミスターとして、オープニングで発表される。確かにアンケートにはベストカップルとかムードメーカーとか色んな項目があったし、去年は木兎さんが何かの項目で選ばれて注目を集めていた。

「俺達付き合ってないけどいいの?」
「うん知ってる。でもこれが世論だから」
「世論って……」

付き合っていない俺たちが出るのは生徒会の主旨にそぐわないんじゃないかと心配したけど、そこらへんのジャッジは緩めらしい。

「嫌だったら2位が繰り上がるんだけど、どうする?」
「……どうする?」
「さ、さすがに赤葦くんに迷惑がかかってしまうのでは……」

これを承諾すると全校生徒の前で大々的にカップルだと発表されることになる。写真付きで掲示物も作るみたいだから、他校生や家族にも見られることになるだろう。

「俺は夜野田がいいならいいよ」
「じゃあ私も問題ないよ」
(何で問題ないんだよ……だったら付き合えよ……)

満更でもない俺はズルい言い方をしてしまった。こう言えば夜野田が断ることはないってわかっていた。俺達の関係が一人でも多くの人に伝われば、俺はまだ夜野田と一緒にいていいという大義名分を得られる。


***(木葉視点)


「赤葦くん今日体調悪い?」
「え、別に普通だけど」
「本当?ちょっとおでこ触るね」
「!」

今日も日本は平和だ。周りの視線も憚らず無自覚にイチャつく後輩(付き合っていない)を視界の端に捉えて思った。

「うーん……気のせいかな」
「あー! 赤葦と夜野田がイチャついてる!」
「え!? そんなつもりは……!」

木兎はまだふたりが相思相愛だと思っているらしい。いい加減気づけよ、そのネタはもはやみんな飽きてるんだよ。赤葦の表情見たらわかるだろ。全然動揺してねーじゃん。普通好きな女子におでこ触られたらドギマギしちゃうだろ。
この前の文化祭ではベストカップルに選ばれて全校生徒からの祝福を受けていた。舞台上に上がった赤葦の「付き合ってませんがありがたく頂戴します」という挨拶は大きなどよめきと爆笑を生んだ。

「部内恋愛はオッケーだからな!遠慮するなよ!」
「木兎さん……そういうのやめてください」
「そうですよ木兎さん。私に赤葦くんは釣り合いません」

木兎のお節介が空回っている。まあ害はないから放っておこう。いつまでも進展がないふたりを見て諦めるってのがオチだ。

「まあいーや!赤葦ちょっと練習付き合って!」
「はい。その前にトイレ行ってきます」
「逃げんなよー!?」

話はひと段落した。木兎の練習は際限が無いから最初にトイレに行っておくのは賢明な判断だ。俺もいつ巻き込まれるかわからないしトイレ行こ。

「……?」

赤葦の後ろを追う形になったが、赤葦はトイレとは別の方向へ向かっていった。どこ行くんだろ。なんとなく気になって後を追ってみると、赤葦は渡り廊下を渡って校舎に入る一歩手前のところで立ち止まった。

「あーー……」

そして急にしゃがみこんで、手で顔を覆った。耳が真っ赤だ。
これ……悶えてるよな?赤葦が悶えるような出来事があったとすれば、さっき夜野田におでこを触られたことぐらいだろうか。

「!」
「あっ」

呆然と見ていたら赤くなった赤葦の顔がぐりんとこちらを振り返った。

「えっと……そういうこと?」
「……他の人には言わないでください」

俺は予期せず赤葦のトップシークレットを知ることになってしまった。


***


赤葦が夜野田のこと好きだった……この事実は俺の中で今年一番のニュースとなった。

「あ、赤葦と夜野田だ!おーい!」

木兎ってやっぱり一周回って天才なのかもしれない。いやでも最初は確かに友人としか思っていなかったはずだ。もしかしたら木兎が今更すぎることを言ってきた先日の合宿あたりに、赤葦の心境の変化があったのかもしれない。それにしても好きな子に対してあそこまでポーカーフェイスを貫けるのはすごい。赤葦の表情筋どうなってんだ。
このことは木兎を除けばおそらく俺しか知らない。先輩として協力してやりたいな。赤葦と違って夜野田はポーカーフェイスが出来るような奴じゃない。つまり、本気で赤葦のことを親友だと思ってるから苦労しそうだ。

「夜野田それ何飲んでんの?」
「透明な麦茶です。」
「マジで?一口ちょーだい!」
「どうぞ」

赤葦の気持ちを知ってるくせに木兎は夜野田と間接キスをしやがった。デリカシーがなさすぎる。赤葦めっちゃ見てんじゃん。夜野田もそこはもうちょっと気にした方がいいと思う。

「うまい!赤葦飲んだ?」
「いえ……」
「赤葦くんも飲む?ちゃんと麦茶だよ」

かと思いきやこのファインプレーである。
赤葦は眉ひとつ動かさずに夜野田から受け取ったペットボトルに口を付けた。俺、好きな子と間接キスする時にこんな平然とした顔できる自信ない。内心はドキドキしてんのかなぁ。もう少し表情に出せばいいのに。


***


「間接キス嬉しくねーの?」
「……」

その後、赤葦とふたりだけになったタイミングで聞いてみた。

「嬉しいですけど……今までにも何回かしたことあります」
「あ、そう」

こいつら恋人になる前に恋人っぽいことやりすぎて、付き合うことになって時に何も新鮮味がないのでは。少し心配になった。

「でも他の人としてるのを見るのは、やっぱ嫌ですね」

赤葦も人並みにヤキモチは妬くらしい。安心した。早く付き合ってくれ。



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