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2章

04


 
今日はインターハイ全国大会。私達梟谷は初戦をストレートで勝って今日はもうおしまい。自由時間になるとほとんどの人は他のチームの試合を観に行く。
私はこの時間を使って佐久早くんにお礼の品を渡そうと思って会場内を歩き回っている。井闥山はこれから試合だからどこかにいるはずだ。痴漢から助けてもらったうえにタオルまで貰ってしまって何もなしで終わるのはどうしても気が引けた。しかし佐久早くんはなかなか見つからない。何であの時連絡先を聞かなかったんだと少し後悔した。

「……あ!」
「あ、夜野田さんだ」

お手洗いの近くで佐久早くんではなく、お友達の古森くんを見つけた。これはもう佐久早くんを見つけたと言っても過言ではない。

「佐久早くんどこにいるか知ってる?」
「佐久早捜してんの?」
「うん。渡したいものがあって」
「え、何それ気になる!」
「この前ちょっと助けてもらって、そのお礼だよ」
「へー……多分寝てると思う。こっちこっち〜」
「ありがとう!」

古森くんのおかげで無事に佐久早くんに会えそうだ。これだけ人がいる中でひとりの人を見つける難しさを知った。そう思うと、あの時佐久早くんが同じ車両に居合わせてくれたことが奇跡のように思えた。ありったけの感謝を伝えなければ。

「梟谷は今日はもう終わり?」
「うん。井闥山はこれからだよね」
「お、よく知ってるね」
「木兎さんが観てくって楽しみにしてたよ」
「じゃあ気合い入れないとだなー!」

古森くんは気さくな人で話しやすい。井闥山とはブロックが分かれてるから、当たるとしたら決勝戦だ。佐久早くんはああ見えて……と言ったら失礼かもしれないけど、試合になるとすごいスパイクを打つのだ。回転がすごいんだって赤葦くんが言っていた。

「おーい佐久早ー、夜野田さん来てるよー」
「……」

西側の客席の一番隅っこで、佐久早くんはアイマスクをして寝ていた。古森くんが明るく声をかけると佐久早くんはアイマスクをずらして、私と目が合うと怪訝な顔をした。

「この前はありがとう。これ、お礼です」
「……何?」
「クッキーとタオルだよ」
「タオル?」
「人の菌ついたのいらないって言われたから……」
「お前そんなこと言ったの!?よくわかんないけどごめんね夜野田さん」
「ううん全然!佐久早くんには助けてもらってばかりでこんなのじゃ足りないくらいなんだけど」

借りたタオルをいらないと言われたなら新しいものをあげればいい。佐久早くんはきっと綺麗好きなんだと思う。言われた時はちょっとショックだったけど、確かに人の涙を拭かれたタオルなんて気持ち悪くて使えないかと後で納得した。

「まあ、貰っとく」
「うん!本当にありがとう。佐久早くんがいてくれて良かった」
「そういうの本当いいから」
「うん、ありがとう!」
「……」

痴漢のことはまだたまに思い出して怖くなる。それでも佐久早くんに助けてもらえて、赤葦くんに気にかけてもらえる私は恵まれていると思う。佐久早くんにちゃんとお礼をすることができて私の心はスッキリした。


***


大会中は会場に近いホテルに宿泊することになっている。今回のホテルは大きくて綺麗でみんなテンションが上がっていた。他の学校もいくつかここに泊まっているらしく、あちこちにバレー部員っぽい人がいる。
学校ごとに割り当てられた大浴場の貸切時間、残念ながら生理と被ってしまった私はシャワーを済ませて先に上がらせてもらった。部屋の鍵はかおりさんが持ってるから、ふたりがお風呂から出るまで時間を潰そうとウロウロしている。

「何やねん今のナシやろ!」
「アリやろ。俺はそこの角狙ったんやで」
「絶対嘘やん!」

お風呂の近くには自販機と娯楽スペースがあって、卓球台やレトロなゲーム台、それからマッサージチェアなんかも置いてある。
聞き慣れない関西弁が新鮮で目を向けると、同い年くらいのそっくりな顔をした男の子ふたりが卓球をやっていた。双子と思われる彼らの方をチラチラと視界に入れながら自販機のボタンを押した。

「オラァ!!」
「ファッ」

取り出し口からパックを手に取って曲げた腰を戻したところで、私の手元にすごい速さで何かが飛んできた。突然の衝撃に驚いて私は紙パックを落としてしまった。

「すっ、すんません!!」
「アホ、力加減考えろや」
「お前に言われたないわ」

どうやら卓球の流れ球が当たってしまったらしい。慌てた様子で双子さんが駆け寄ってきてくれた。

「怪我してませんか?」
「ほんますんません」
「大丈夫です、手には当たってないので」

手に当たったわけじゃないから全然痛くはなかった。落とした紙パックも開封前だったから少し凹んだだけだ。

「それ新しいの買います」
「え? いいです、飲めますし!」
「元々風呂上りのコーヒー牛乳賭けて勝負してたんで。負けたコイツが買います」
「あん?今ので同点やろが!」
「あんな特大ホームランカウントに入れるわけないやろが」
「あっ……ボール、どこいったんだろう……」
「「あっ」」

私の方は全然大丈夫だけど、旅館から借りてるボールを失くすのはよくないのでは。びっくりして目を瞑っちゃったから、私に当たった後ボールがどこに行ったのかは確認していなかった。パッと見近くの床には落ちていない。

「失くしたら弁償て書いてあったな」
「あかん、北さんに怒られる……!」
「手分けして探しましょう」
「おん……て、自分探す必要ないやろ」
「いえ、私がいたことでボールの軌道が変わっちゃったので私にも探す義務があります」
「真面目か!」


***(治視点)


風呂上りのコーヒー牛乳を賭けて侑と卓球勝負をしていたら、負けそうになった侑が熱くなって力いっぱいラケットをぶん回した結果、知らない女子に当ててしまった。怪我がなくて安心したけどボールは行方不明で、何故かその子も一緒に探すと言ってくれた。ボールを探しながら話していると、その子は東京の梟谷っていうチームのマネージャーで同い年だということがわかった。

「あ!」
「あった?」
「うん、このゲーム機の下」
「うわー、こんなん手ェ入らんで」

女子がしゃがんで覗き込んでいるのは格闘ゲーム機の下。確かにその奥に小さな球体が見えた。手を突っ込むには少し幅が狭い。

「細長いもん探してこよか」
「私の腕なら入るよ」
「え、ええって!」
「やめときや!」

女子が地べたに這いつくばってゲーム機の下に腕を突っ込んだのを見てぎょっとした。こんなゲーム機の下なんて絶対掃除してない。お風呂上りなのにまた汚れてまうやんか。

「取れた!」

そんなことは全然気にしない様子で女子は嬉しそうに埃だらけのボールを見せてきた。

「いやいや汚れてまったやん!」
「風呂入った後やろ?ほんまごめん」
「全然いいよー」

ええ子やなあ。ええ子すぎて人生損せんか心配になってくるわ。こりゃあコーヒー牛乳一本じゃ割に合わへんな。

「お礼にイチゴオレとフルーツオレ二本奢ったる」
「え!?」
「いらんは聞かん!受け取ってや」
「じゃあ……イチゴオレと牛乳がいいです」
「あ、うん」
「好みの要求はしてくんねや」

遠慮して食い下がるかと思いきやちゃっかり好みは伝えてきた。おもろいなこの子。お望み通りイチゴオレと牛乳を買ってやると女子は深々と頭を下げて去っていった。お礼を言ってるのはこっちの方なのに。

「梢ちゃんお待たせ〜」
「ごめん、鍵渡しておけばよかったね」
「いえ!これどうぞ!」
「いいのー? お風呂上りのイチゴオレ最高だよねー」
「ありがとう。後でお金払うからね」
「貰ったものなのでお気遣いなく!」
「へー、誰から?」
「名前聞くの忘れてました……!」
「え、知らない人から?」
「それ大丈夫なの?」

俺らが女子にあげたイチゴオレと牛乳は先輩女子の手に渡った。要求してきた好みは先輩のものだったんか。俺らの想像の上をいくええ子ちゃんっぷりや。

「あの子めっちゃええ子やな」
「東京にもスレとらん女子おるんやな」



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