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- ナノ -

1章

12


 
「どう? 梢ちゃん」
「んー……いい感じです!」
「どれどれ〜味見を……」
「あっちょっと!」

明日はバレンタインデーということで、今日はかおりさんと雪絵さんと一緒に私の家でバレー部のみんなにあげるクッキーを作っている。
お菓子作りはあまりしたことなかったけどかおりさんに教えてもらって美味しそうなクッキーが焼けた。あとは100均で買ってきたラッピング袋に小分けしてお終いだ。人数が多いから一人分は少なくなってしまうけどしょうがない。

「あの、かおりさんこれ作りたいんですけど……」
「ん? ガトーショコラ?」
「えーー本命!?」
「そういうわけじゃないんですけど……赤葦くんに」

バレンタインは基本的に好きな人にチョコをあげるというイベントだけど、そういう相手がいない私にとっては普段お世話になってる人に感謝の意を込めてプレゼントをする日だ。赤葦くんには日頃からお世話になっているし仲良くしてもらってるから、何か特別なものをあげたい。

「ねーねー、実際どうなの〜?」
「え?」
「赤葦のこと。好きなの?」
「もちろん好きですけど……そういうのじゃないです」

最近よく、赤葦くんと私が付き合ってるんじゃないかと聞かれる。やっぱり男女で仲が良いとそう思われても仕方がないのかな。でも本当に違う。赤葦くんのことは人として尊敬してる。恋人になりたいとか、そんなおこがましいことは考えていない。この先もずっと部活の仲間として、友達として仲良くしていきたいと思っている。

「お似合いだと思うけどね〜」
「ね。真面目カップル」

今までに男の人と付き合ったことはないからドラマとか漫画での知識になってしまうけど、付き合うとなると手を繋いだりキスしたりすることになるはずだ。それを赤葦くんとしたいとは思わなかった。

「まあ最近はカップル通り越して夫婦っぽいけどね」
「ねー」

結婚なんてまだまだ先のことで更に想像できない。でもちょっとだけ、赤葦くんと一緒に朝ごはんを食べたり、テレビを一緒に見て笑ったりするのは素敵だなあと思った。こんなことを考えてしまって赤葦くんに申し訳ない。私は邪念を振り払うように、溶かしたチョコレートをぐるぐるとかき混ぜた。


***(赤葦視点)


「……」

2月後半の日曜日。ひとりで町に出かけたはいいもののなかなか目的は達成できないでいた。
3日後は夜野田の誕生日だ。俺の誕生日の時に個別でプレゼントを貰ったから、俺も個人的にプレゼントを渡そうと思っている。しかし女子にプレゼントなんて今まで買ったことがないから何を買えばいいのか全然わからない。

「ウェーイ赤葦何してんのー?」
「……どうも」

適当に歩いていると黒尾さんと遭遇した。黒尾さんもひとりみたいだ。俺に声をかけたってことは急ぐ用があるわけではないんだろう。黒尾さんはコミュニケーション能力が高く、合宿の時は夜野田と談笑してるのをよく見かけていた。女心も俺よりは理解していそうだ。

「夜野田の誕生日プレゼントを買おうと思ってるんですけど、何がいいと思いますか?」
「は? 何このデジャヴ」
「?」

何をしているかという質問に素直に答えてアドバイスを求めたら何故か変な顔をされた。

「あーもう何なの?もういっそ付き合ってくんない?」
「……意味がわかりません」

やっぱり高校生にもなって女友達に誕生日プレゼントを用意するのは変なんだろうか。俺はそういうの気にならないけど、こうやって勘違いされることを夜野田は実際どう思ってるんだろう。

「……まあいいや。アクセサリーとかは?」
「それは重すぎませんか?付き合ってるわけではないですし」
「めんどくさッ!」

さすがに彼女ではない女友達にアクセサリーはあげられない。やっぱり手頃なハンカチとかでいいかな。でも色は?柄は?どういうものを選べばいいんだろう。俺が選んだものが気に入らなかったらどうしよう。仲が良いと思ってるくせに俺は夜野田の好みを全然知らなかった。

「赤葦から貰う物だったら夜野田ちゃんは何でも喜ぶでしょ」
「……そうですかね」
「あ、デスソースとかなら確実に喜ぶんじゃない?」
「……」

確かに辛いものをあげれば間違いなく喜ぶだろうけど……どうせなら手元に残る物をあげたい。これを言ったら多分また黒尾さんにはめんどくさいと言われてしまうんだろう。結局黒尾さんはこれ以上相談に乗ってはくれず、俺は雑貨屋のハンカチコーナーで30分悩むことになった。


***


「赤葦……お前に重大な役割を任せる……!!」
「はあ」

昨夜、明日の朝練に絶対来るようにと木兎さんから連絡が入っていて、いつも通り朝練に参加したところ木兎さんに神妙な顔で告げられた。
内容は例のごとく夜野田の誕生日サプライズをやるから、昼休みに部室に連れてこいというものだった。俺も含めて今まで部員の誕生日はこんな感じで祝ってきたから、もはやサプライズにならないのでは。いや、もうサプライズのつもりもないのかもしれない。

「夜野田、ちょっと来て」
「うん!」

そして昼休み、ご飯を食べ終わった夜野田を呼ぶと待ってましたと言わんばかりに勢いよく立ち上がった。

「な、何だろうなーー」

隣を歩く夜野田はそわそわと落ち着きがない。多分勘づいてる。まあ、今まで散々誕生日を祝ってきたから自分の誕生日になったらそりゃ期待するよな。

「部室で誕生日サプライズだよ」
「え!? それ言っちゃっていいの赤葦くん!」
「だってもう気付いてるだろ?」
「そうだけど……」

先輩達もサプライズっていうよりただ単に祝いたいだけだろうし、今更変に隠し通す必要はない。

「ほら、開けて」
「う、うん」

夜野田を前にしてドアを開けさせる。俺の時に夜野田がしたみたいな失敗はしない。

「「「誕生日おめでとーー!!」」」
「あっ、ありがとうございます!!」

いつも通り一斉にクラッカーが鳴って笑顔の先輩達が迎えてくれた。夜野田はみんなからの祝福を受けて幸せそうにはにかんだ。

「夜野田の誕生日プレゼントは……これだ!!」
「これは……?」

誕生日プレゼントは基本的に皆で一つ渡す。夜野田の場合はマネージャーからも用意されてるみたいだ。木兎さんが得意げに渡したのは紙切れだった。あれ、夜野田へのプレゼントは激辛お菓子や調味料の詰め合わせだって聞いてたのに。

「"先輩をコキ遣える券"だ!!」
「こ、こき……?」
「夜野田はいつも気を遣いすぎだからな!」
「お手伝い券だと思ってくれていいよー」
「あ、ちゃんとしたプレゼントもあるから」
「こんなたくさん……!ありがとうございます」

どうやら紙切れはおまけのようだ。多分発案者は木兎さんだろう。"券"という漢字が"巻"になってしまっている。

「あの……この券、早速使ってもいいですか?」
「おっ。いいよー!」
「みんなでご飯、食べに行きたいです」
「「「!!」」」

夜野田が控えめにしてきたお願いはとてもいじらしいものだった。確かに言われてみれば部活のみんなで食事に行ったのは、祝勝会を除けば夏によくわからず激辛の麻婆豆腐を食べさせられた時以来だ。でも果たしてこれは"コキ遣う"に当てはまるんだろうか。

「あーもう何この可愛い子!」
「そんなん券なんて無くても行くよ!!」
「よしよし、何食いたいの?」
「俺焼肉がいい!」
「夜野田に聞いてんだよ!」
「私も焼肉がいいです」

先輩たちに囲まれて嬉しそうに笑う夜野田を見て、何故か俺まで幸せな気持ちになった。

「夜野田」
「?」
「これ、俺から」
「! ありがとう、赤葦くん」

夜野田にはたくさん笑ってほしい。笑顔の夜野田がそばにいれば、何でも頑張れるような気がした。



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