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1章

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12月5日は赤葦くんの誕生日である。普段仲良くしてもらってるから個人的にプレゼントを用意しようと買い物に出掛けたはいいものの、何をあげたらいいのか全然思いつかなかった。考えてみれば私は赤葦くんの好きな歌手も、好きな芸能人も、好きな色さえ知らないことに気付かされた。仲良しだと言っといて赤葦くんのこと何も知らないだなんて恥ずかしい。好きな食べ物は菜の花のからし和えって聞いたけどプレゼントにするようなものじゃないし……赤葦くんはいったい何をあげたら喜ぶんだろう。

「お、夜野田ちゃん」
「あ! 黒尾さんと研磨くん!」

悩みながら街を歩いていると、黒尾さんと研磨くんに遭遇した。私服姿を見るのは初めてだ。

「奇遇だね〜。何してんの?」
「赤葦くんの誕生日プレゼントを買おうと思ってるんですけど、なかなか決まらなくて」
「赤葦誕生日なの?」
「明後日なんです」
「へー」

黒尾さんと研磨くんは今日発売のゲームを買いに来たらしい。休日も一緒にお買い物だなんて、仲の良い幼馴染で羨ましい。

「黒尾さんは何あげたらいいと思いますか?」
「さあねー。赤葦の好みってわかんねーよな」
「そうなんですよ!」
「何でもいいでしょ」
「えー……研磨くんは何貰ったら嬉しい?」
「ゲーム」
「ゲーム……」
「研磨は参考になんないよ」

男の子にプレゼントをあげるなんて小学生ぶりだから正解がわからない。同じ男子高校生のふたりに聞いてみても参考になる答えは返ってこなかった。赤葦くんの口からゲームの話題は出たことがないから、プレゼントにするには少し怖い。

「まあ、赤葦は何貰っても文句言うような奴じゃないでしょ」
「……そうですよね」

確かに黒尾さんの言う通りだ。赤葦くんは優しいから、きっと私が的外れなプレゼントをしてしまっても「ありがとう」と受け取ってくれると思う。でも、どうせだったらにっこり笑って喜んでほしいと思う。

「夜野田ちゃん赤葦と仲良いネ」
「はい、仲良しなんです!」
「仲良しねェ……」

黒尾さんから見ても私と赤葦くんは仲良しに見えるらしい。嬉しいな。結局あまり乗り気でないふたりにいろいろ意見を聞いて、あっても困らない吸水性の良いタオルにした。明後日が楽しみだなあ。


***(赤葦視点)


「あ、赤葦くんご飯食べ終わった?」
「うん」

今日の夜野田は朝から落ち着きがなかった。「おはよう」と挨拶をしただけなのに「な、何でもないよ!」と焦り出したり、何度も天気の話をしてきたり。そして昼休み、教室で弁当を食ってる俺を何度もチラチラ見ていたと思えば、弁当を食べ終わったタイミングで近付いてきた。

「この後暇?」
「……ちょっと足りないからパンでも買おうかと思ってた」
「え!」

明らかに夜野田は何かを企んでる。自惚れでなければ、今日は俺の誕生日だから何かサプライズを用意してくれてるんだと思う。だとしたら素直に嬉しいけど、こうもわかりやすい夜野田を見てるとちょっと意地悪したくなった。

「えっと……パンは、私が後で買ってあげるからちょっとついてきてほしいんだけど……」
「いいけど、何で?」
「え? えっと、赤葦くんに見せたいものが、あるというか……」

夜野田は嘘が下手だ。俺の質問に困って返答がしどろもどろになっている。サプライズの進行を任せるには人選ミスのような気がする。先輩に頼まれてることだろうし、これ以上意地悪するのはやめてあげよう。

「わかった。どこに行けばいい?」
「秘密!お楽しみだよ!」
「変なことしないよね?」
「変なことじゃないよ、いいことだよ!」

任務を遂行できるとなったら夜野田はわかりやすく安心して、わくわくを抑えきれなくなっていた。「いいこと」とか言っちゃってるし。気付かないフリをするのも大変だ。


***


「「「赤葦誕生日おめでとーーー!!」」」
「わっ」
「……ありがとうございます」
「テンション低ッ!」

夜野田に案内されるがままに部室に入った瞬間、クラッカーの音が聞こえて笑顔の先輩達が迎えてくれた。木兎さんの時と同じような感じだ。ただ……そのクラッカーの中身は俺の手前にいた夜野田にほとんどかかってしまっている。

「あああごめんなさい、なんか私が祝われてるみたいに……!」
「ふっ……ははは、かけなくていいから」
「赤葦が笑った!」
「でかしたぞ夜野田!」
「え? えへへ」

自分が被ったクラッカーの中身をわざわざ俺にかけ直してくれる夜野田が面白くて笑ってしまった。テンション低いと言われたけど、実のところすごく嬉しい。こうやって先輩や友人に囲まれて賑やかに祝われる誕生日は久しぶりだった。

「来年は顔面パイやっていい?」
「嫌です」



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