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- ナノ -

1章

08


 
(木兎視点)

「ぶ、か、つーー……ん?」

部活に行く途中、校舎裏で夜野田を見つけた。木を見上げてひとりでウロウロしてる姿はちょっと怪しい。

「何してんの?」
「あっ、木兎さん助けてください!」
「え、何?」

後輩に「助けて」と頼られてなんだか気分が良い。特に夜野田は真面目だからあまり人を頼ろうとしないし。俺ってば頼れる先輩だからな、しょうがない。

「あそこ見てください」
「んー……猫?」
「はい。降りられなくなっちゃったみたいなんです」

夜野田が指さした木の上を見ると、太い枝に猫が一匹乗っていた。座り込んで動こうとしない。自分で登っといて降りられなくなるとか、猫ってバカだなー。

「どうにか助けてあげたいと思ってるんですけど……」
「うーん……さすがに俺でも届かないなー」
「ですよね」

俺は身長高い方だけどさすがに木の上までは届かない。どうすればいいんだろ?木登りは最近してないし、この木は登りにくそうだ。木を揺らして落としたら猫って怪我しちゃうかな。

「あの……先輩に対して、失礼なお願いなんですけど……!」
「ん?」
「か、肩車……とか……」
「あー、なるほどなー!」

夜野田が控えめに言ってきた作戦に俺は納得した。俺が夜野田を肩車したら届きそうだ。猫を安全に助けるんだったらそっちの方が良いな。

「で、では、失礼します」
「おう!」
「何してるんですか」
「「!」」

夜野田を肩車しようとしゃがんだところを赤葦に見られた。

「猫を助けようと思って」
「……なるほど」
「あっ! 赤葦が俺を肩車すればいいんじゃね!?」
「ほぼ筋肉の木兎さんを肩車するのはちょっと……」

俺と夜野田より俺と赤葦の方がでかくなる。名案だと思ったのに赤葦にはきっぱり断られてしまった。確かに夜野田と俺だったら間違いなく俺の方が重いけど、そこまで嫌がらなくていいのに。ちょっとショックだ。

「じゃあこのまま行こう。あ、夜野田パンツ大丈夫?」
「はい、短パン履いてます」

女子のパンツを気にしてあげるとか俺ってば紳士!赤葦に覗かれたらいけないもんな。

「よーし行くぞー!」
「わっ!」
「おお!?」

夜野田の両足を持って立ち上がると、ビックリした夜野田が俺の頭をぎゅーっと抱きしめた。足にも力が入って俺の首を夜野田の柔らかい太ももが締め付ける。

「ごめんなさい、結構高いですね……!」
「ウウン、や、柔らかかった!」
「木兎さん……」
「しょうがないじゃんか!」

女子の太ももの感触に少し変な気分になってたら赤葦にジト目で見られた。しょうがないじゃん、健全な男の子だもの。

「ニャー!」
「あっ……」
「ん!?」

肩車して木に近づくと夜野田が大きく動いてちょっとバランスを崩してしまった。猫の声も聞こえたけど、うまく助けられたのかな。

「どーした?」
「もう大丈夫です。ありがとうございました」
「あ、ほんと?」

どうやらもう猫は助けられたみたいだ。俺はゆっくりしゃがんで夜野田を降ろした。人を肩車するのっていい筋トレになるかもしれない。

「夜野田、引っ掻かれてる」
「え!? うわ、ほんとだ痛そー……」
「大丈夫ですよ」

助けようとした猫に腕を引っ掻かれても笑ってられる夜野田を見て、ほんといい奴だなーと思った。

「俺が絆創膏貼ってあげる!!」
「木兎さん、1枚ですよ」
「5枚貼ったら早く治るんじゃない!?」
「治りません」


***(夢主視点)


9月20日、今日は木兎さんの誕生日。このことは数日前から先輩達から知らされていて、当日はみんなでお祝いをしようと密かに話し合っていた。

「夜野田ー!今日何の日か知ってる??」
「えっ……と、ごっ、ごめんなさいわからないです……!」
「あっ……」

お誕生日様ということで今日の木兎さんはそわそわと落ち着かない。多分みんなに祝ってほしいんだと思う。けれど、今ここで私が祝ってはいけない。部活終わりにサプライズするから、それまでは知らんぷりをするという約束なのだ。
私がわからないと言うと木兎さんは目に見えて落ち込んでしまった。私は心を鬼にして木兎さんを振り切った。早く盛大に祝ってあげたい……!


***


「梢ちゃん、準備はいい?」
「はい、バッチリです!」
「もうすぐ来るって!」

そして部活終わり。木兎さんに体育館の鍵を返しに行ってもらっている間に、私達は部室でお誕生日を祝うための準備をしていた。簡単に飾りをつけて、ホワイトボードにおめでとうの文字を書いて、ケーキとプレゼントを用意して、あとは電気を消して木兎さんが戻ってくるのを待つだけ。

ガチャ

「「「誕生日おめでとうー!!」」」
「エッ!? え!?」

木兎さんが部室に入ってきて電気を点けたのと同時にクラッカーを鳴らす。木兎さんは私達の期待通り目を丸くして驚いてくれた。

「よ……よかったああああ!!俺、みんな、忘れちゃったのかとおお……!!」
「うわ、泣くなよ」
「きたねーな!」

そして誕生日を忘れられていなかったとわかった途端に木兎さんは泣き出してしまった。その様子を見て安心すると同時に騙してしまって申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「知らんぷりしてごめんなさいー!」
「何で夜野田も泣きそうになってんだよ」
「梢ちゃん、ケーキケーキ!」
「あ!」

私まで感動して涙ぐんでいたら「ケーキをあげる」という大役を忘れてしまうところだった。

「木兎さん、ふーってしてください」
「おー!」

先輩達と一緒に選んだケーキを木兎さんの前に差し出す。木兎さんは口いっぱいに空気を吸い込んで、4本のロウソクの火を一息で消した。ロウソクを4本にしたのは木兎さんがこだわってるエースナンバーにちなんでだ。ケーキの大きさ的に17本は刺せなかった。

「ほい、誕生日プレゼント」
「ありがとう!」
「これマネージャーから」
「ありがとー!!」

みんなからのプレゼントを両手で抱えて満面の笑みを浮かべる木兎さんを見て、私も幸せな気持ちになった。木兎さんの太陽みたいな笑顔をこんなに近くで見られる私はちょっと特別な存在なのかもしれない、なんて烏滸がましいことを思ってしまったのは秘密だ。



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