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1章

07


 
「赤葦くん……私今日、部活遅れます……」
「あ、うん。何で?」

3時間目の数学が終わった後の休み時間に夜野田が言ってきた。部活に遅れること自体は全然問題ないけど、そのテンションの低さが気になった。いつも部活前は生き生きとしてるのに。

「数学の小テスト……」
「……4点以下だった?」
「……」

数学の授業では不定期に小テストが行われ、10点満点中4点以下をとった生徒は追試として放課後に全く同じプリントをやることになっている。聞いてみると夜野田は小さく一度だけ頷いた。

「赤葦くん……私をなじって……」
「え」
「夏休み、宿題を終わらせただけで満足してしまった私をなじって……」
「いや、大体みんなそうなんじゃない?」

小テストで赤点を取ったくらいで何もそこまで落ち込まなくてもいいのに。夜野田は頭が悪いわけじゃない。今回の範囲は苦手分野だったってだけなんだと思う。

「解き方わかる?教えようか?」
「え、いいの?」
「できるだけ早く部活行きたいだろ?」
「うん!はい!ありがとう!ございます!」

勉強を教えることくらいお安い御用だ。過剰に喜ぶ夜野田を見て思わず笑みがこぼれた。


***


そして昼休み、昼食を早めに終わらせた俺は夜野田の前の席を借りて数学の公式を教えていた。確かに覚えにくい公式だけど、何度も練習問題を解いていくうちに夜野田も理解できたようだ。一度覚えてしまえばあとは当てはめるだけだから追試はきっと大丈夫だろう。

「ふたり付き合ってんの?」
「え? 付き合ってないよ」

夜野田が最後の問題に取り掛かっている時にクラスメイトに聞かれて、普通に否定した。この手の質問をされるのはこれが初めてではない。

「ふーん。じゃあ仲良いだけか」
「えっ! な、仲良さそうに見えるかな」
「うん。赤葦が女子と一緒にいるの珍しいし」
「……確かに、女子で仲良いのって夜野田くらいかも」
「そ、そんな……照れちゃうなあ」
「……」

確かに俺がこんな風にふたりで過ごす女子は夜野田以外にいない。仲が良い男女は付き合ってるように見えてしまうんだとわかっても、夜野田との付き合い方を変えようとは思わなかった。今みたいに聞かれたら否定すればいいだけだし、俺と仲良いって言われて夜野田は嬉しそうだし。俺も、嬉しいし。

「私も男の子で一番仲良いの赤葦くんだよ!」
「うん、ありがとう」
「……もっと嬉しそうにしてほしい」
「嬉しいよ」
(こいつら付き合っちゃえばいいのに)


***


「あかーしちょっと練習付き合っ……」
「すみません、今日は先約があります」
「えー!」

ここ最近は毎日のように木兎さんの自主練に付き合っていたけど、俺は今日初めてその誘いを断った。

「いいよ赤葦くん、木兎さんを優先して」
「夜野田?」
「球技大会でバレー選んで、暇な時に赤葦くんに教えてもらうって約束で……」
「へー!」

何故なら夜野田との先約があったからだ。来週行われる球技大会では、全生徒がバレーか卓球かバスケかサッカーのどれかを選択して参加しなければいけない。夜野田はバレーを選んだらしい。バレー部のマネージャーをしていると言っても夜野田にバレーの経験はない。最低限足手まといにはならないために教えてほしいと、今日頼まれた。

「私なんかより木兎さんの練習の方が大事ですから!」
「じゃあ俺も教えてあげる!」
「え!?」

夜野田の性格上、木兎さんを優先してほしいと言うと思った。でも木兎さんの性格上、一緒に教えると言うだろうとも思っていた。夜野田は申し訳なさそうにしてるけど、木兎さんノリノリだし遠慮する必要はない。

「何やる?スパイク?」
「サーブとレシーブです」
「なになに、夜野田バレーやんの?レシーブなら俺教えるよ!」
「小見さん!」
「おっ、俺も相手してやるよ?」
「木葉さん!あの、私そんなレベルじゃ……」

声が大きい木兎さんのおかげで他の先輩たちも集まってきた。後輩の世話を焼きたいのは木兎さんだけじゃないらしい。結局夜野田も断りきれずに、俺と木兎さん、そして小見さんと木葉さんも混じえて夜野田の練習に付き合うことになった。

「ご、ごめんなさい私本当下手で……!」

まず簡単にレシーブの基本を小見さんが教えて、その後輪になってパス練を始めた。素人の夜野田は腕を振ってしまってあちこちにボールが飛んでしまっている。腰を使ってレシーブする、という感覚が夜野田にはよくわからないみたいだ。

「下手くそとやるの練習になるから気にするな!」
「あ、はい……それは良かったです……」

そんな夜野田をフォローするためか、はたまた思ったことをそのまま言っただけなのか、木兎さんの率直な言葉に夜野田は複雑な表情を見せた。
球技大会、時間が合えば夜野田がバレーをする姿を観に行きたいな。


***(木葉視点)


1年が入部して5ヶ月程が経って、だいぶ部活にも慣れてきたみたいだ。セッターの赤葦は木兎の際限のない自主練に毎日のように付き合っている。これが嫌で部活を辞められたらやばいと思ってフォローしたこともあったけど、赤葦も意外と変人なようで心配する必要なかった。
最近そこに夜野田が混じる姿をたまに見るようになった。ボール出しという単純な作業をすごく真剣な表情でやる夜野田は見ていてちょっと面白い。ただ、ひとつ心配なのは部活後の自主練に付き合うとなると終わるのが結構遅い時間になってしまうということ。白福達ももう帰ってる。この暗い中、夜野田ひとりで帰らせるわけにはいかない。

「夜野田、送ってくから待ってて」
「うん、ありがとう」

俺が気の利いた先輩アピールをする前に赤葦がサラっと送る発言をしていた。赤葦と夜野田は同じクラスらしく、部活中もよくふたりで話しているのを見かける。

「……あいつらさ、付き合ってんのかな」
「それ俺も思ってた!仲良いよなー」

邪推とわかってはいても考えてしまう。だって年頃の男女にしては仲良すぎないか?中学は別だって言ってたからまだ5ヶ月の期間しか過ごしていないはずだ。そもそも赤葦に関しては女子と積極的に関わろうとするタイプではない。少なくとも赤葦にとって夜野田は特別な存在だと言えるんじゃないだろうか。

「俺も一緒に帰る!アイス食ってこーぜ!」
「はい!」

そんなふたりの空間に木兎が割って入った。いやいや空気読めよ。赤葦と夜野田見てたら「もしかして」って思わねーのかな。ここは先輩として後輩カップルを気遣ってやるべきだろうか。

「おい赤葦、いいの?」
「何がですか?」
「木兎俺らが引き受けようか?」

木兎が意気揚々と部室に向かったのを見送ってから赤葦に声をかけた。

「何でですか?」
「夜野田とふたりきりの方がいいかなーって……」
「? 別にふたりじゃなくても構いませんが」
「先輩だからって気を遣わなくていいんだぜ?」
「むしろ夜野田はみんなで行った方が喜ぶと思います」

赤葦はどこまでも平然と答えた。元々ポーカーフェイスな奴だけど、俺が探りを入れても照れ隠しをしてる様子は微塵も感じられなかった。

「じゃあ俺達も一緒に帰っていい?」
「はい」

赤葦相手じゃいまひとつわからない。こうなったら夜野田にも直接確かめてみよう。


***


木兎に加えて俺と小見も一緒に帰ることになり、アイスを買いにコンビニに寄った。夜野田と赤葦はまだ決めてないようで、ふたりしてアイスの棚を覗き込んでいる。

「夜野田迷ってるの?」
「うん。パピコの新しい味出てるんだけど……」
「じゃあ俺それ買うよ。半分あげる」
「え、いいの?ありがとう」

聞き耳をたててみると赤葦は男前なことをサラッとやっていた。何買うか迷ってる女子に対してこんなスマートにリードできる男だったのか……赤葦、侮れない男だ。

「なーなー夜野田」
「はい」
「ぶっちゃけさ、赤葦のことどう思う?」
「えっ」

ストレートに聞いてみると夜野田はわかりやすく照れた。もしかして夜野田の方が赤葦に気がある感じだろうか。頬を染めて照れる姿は恋する乙女って感じだ。

「な、仲良しに見えちゃいます……?」
「うん、いい感じじゃん」
「赤葦くんは一番仲が良い男友達なんです!」
「……は?」
「赤葦くんも女子で私が一番仲良いって言ってくれたんです」

すげー嬉しそうに話してくれるけどちょっと待って夜野田、俺が期待してるのはそういうことじゃない。思ってたのと違う。

「……」
「……」

どうやらこのふたりにそういう展開は期待するだけ無駄のようだ。



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