【005号室 ベッド】「ねえ宍戸...ねえってば!」
「.........頼むから起こすな」
異音が徐々に大きくなっているような感覚がする...
てか、カチコチに挟まって聞こえる異音が廊下から聞こえる、気がする。
誰かが這いずってるような音、何か重いものを引っ張ってるような......
「ねえ、ちょっと怖くて寝れないんですけど」
「激ダサだな。俺はお前の方が怖い」
「何でだよ!私が怖いはずがない!」
「どう考えてもお前が遥かにこえーよ」
この奇妙な仕掛けより私の方が怖いとか有り得ないんですけど。
あーもう音がこのフロアを行ったり来たりしてる音が気持ち悪すぎる。
人為的なものだと思うのよ?それでもやっぱり怖い。
「ねえ宍戸...」
「宍戸は寝ています」
「起きてるじゃん!!ねえ、もうちょい傍に寄ってもいい?」
「.........はあああああ?」
何その心底嫌そうな声は。いや、確かに困るのは分かるよ、うん。
同期同僚でそこそこ仲良くしてもらってるけど所詮他人だし。
友達みたいな感覚はあるけど...職場の仲間であって友達じゃないし。
当然だけど、恋人でもない。普通に考えたら、嫌がられても仕方ない。
「.........ごめん!うん。大丈夫!おやすみ」
大体、隣に居てくれるだけで有難いんだ。そうだそうだ。
思いっきり脳内で好き歌とか流しとけば乗り切れる!多分。
堅く目を閉じて好き歌好き歌と念じて......も、ちっとも歌が流れない。
ここまで来たらエンドレスで歌芸人ネタでもいい、流れろ。
「.........手」
「.........へ?」
「片手だけなら、貸してやるよ」
もそもそと少しだけ移動して来た宍戸が中間点くらいで手を出した。
「.........手、借りてもいいの?」
「ああ。気が変わらないうちに借りとけ」
「.........ありがと」
私もモソモソっと移動して差し出された手にぎゅっとしがみつく。
「ちょっ、おまっ、」
握るだけじゃ怖いからぬいぐるみみたいにしがみついた。
そしたら宍戸が変な反応したけど無視してぎゅーっとしがみつく。
「.........はあ」
「貸してくれるんでしょ?溜め息吐かないでよ」
「.........頼むからヨダレだけは勘弁な」
「垂れないよ!」
全力で否定したものの、実際はどうだか。
それでも握るだけとか無理すぎて抱き締めた。
その後、宍戸は何も言わずに手だけの存在。
自分じゃないぬくもりがこんなに安心するものとは知らなかった。
宍戸自体がどう考えてるかは分からないけど私は安心しきってる。
「.........おやすみ」
その安心からか睡魔が降臨して来た。
私はそのまま素直に身を委ねて意識を手放した。
★エンディング 宍戸亮
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