NOVEL GAME γ | ナノ

if...の扉 #10

ミックスランダム/扉の向こう
【002号室 マルコ】
「どうだったかい?」
「.........」

このげんなりした顔を面白そうに見ておきながら何を言う。
それなりに悲鳴だって聞こえていたはずですが?と言いたい。けどこの人怖いから言えない。
にしても、赤とか緑の水を出すのは大変な工事だったろうにね。凄いよ業者さん。

「少なくともこの部屋では落ち着くことも寛ぐことも出来ません」
「そりゃそうだ」

変なところに感心しつつも、とりあえず部屋の確認は終わりということで...

「今日の仕事、これで終わりですか?」
「はァ?お前、今日は此処に泊まり込みで体験の仕事だよい」

な、何ですと!?それは聞いてないよ。
プレオープンイベントだとは聞いてるけど宿泊の有無は本当に聞いてない。
てか、ホテル演出のみってロイドちゃん弐号機(フロント嬢)が言ってたからてっきり部屋だけ見るのかと...

「主任!そんな話私にしましたか!?」
「そういうお前はきちんと書類読んでねェのかい?」
「書類?そんなの預ってないです!貰ったのはチケットだけです!」

神に誓って!!と叫べば、なーんか主任の目が泳いだような気がした。

「.........そうだったかねい」
「!?主任のミスですか!!」
「今日はオフだからおれは主任じゃねェよい」

こういう時だけ休日モードになるんですか!!
文句は死ぬほど言ってやりたかったけどこの人はもう聞く気がない。

「だったら帰りますから!」
「まァ別に帰ってもいいが、無意味に外に出ると警報も警告も出てエライことになるよい」
「.........」
「勿論、解除方法はない。そういうイベントだからねい」

「尚、お部屋の変更は何があってもご遠慮頂いておりますのでご了承下さい」
――進まないと、大変なコトが起きちゃうよ?

そういうことだったのか。

「因みに、着替えはフツーに売ってあるから安心しろい」

何の安心も出来ないです。
着替えがあって嬉しいワーイ、なんて気持ちにはならなかった。

続ける
リタイア





















if...の扉 #10

ミックスランダム/扉の向こう
【002号室 マルコ】
「フロントに着替えを持って来させるよい。後は自分で選ぶといいよい」

有難うと言うべきなのかもしれないけど、正直、私は帰りたい気持ちでいっぱいです。
てか、明らかに通達ミスなので帰らせてくれても良いと思うのに。
ドレッサー横の机に向かって仕事(?)をしている様子の主任はそんな私を見もしない。

着替えだって...どの程度の何が準備されているのかもさっぱり。
普通の服だったらいいけど...ロイドちゃんたちみたいなゴシックな服だったら、死ねる。
いや、着てみたいとは思うんだよ?だけど、リアルでそうなったら間違いなく死ねるヤツだ。

――トントン。
扉を叩く音がした。着替えが届いた...んだよね?
荷物が届いたのは分かる。だけど、この荷物を持って来てくれた人が何なのかが分からないから怖い。
確かロイドちゃんたちは歩行しないタイプ。つまり、ドアの向こう側は...ヒト、よね。

「何やってんだい。早く行けよい」
「.........了解」

私に行かせるということは間違いなく仕様・ホラーだ。
それでも行かなければならないのが平社員の辛いところ。
よし!と心で気合いを入れて、それでも恐る恐る向こうに誰かが居るドアを開けた。

「.........ハイ」
「フロントです。お荷物をお持ちしました」

.........何じゃこのイケメンロイドは!!!
人じゃないのは明確なのに何を象った時にこんなイケメンを作っちゃうんだ!?

「お好きなものをお選び下さい」

けど、やっぱりロイドくんはロイドくんね。表情がほぼゼロで淡々としていらっしゃる。
マジマジと見てしまってるけど気にした様子がないのもまたロイドくんならではだ。
ついでに言えば......本当に下着から何から揃ってる。サイズも豊富だ。
で、服。服が、何故かアンサンブルと言っていいのかセット物と言っていいのか...

「当ホテルのオススメはこちらのウィッチになっております」

梱包された衣装にはそれぞれ中身の写真があるけど...こんな衣装で人前は歩けそうもない。
無難なもの、無難なもの...と探して一番露出が少ないのは、ゴースト、かな。

「じゃあ、コレとコレと...普通のゴースト衣装を...」
「ウィッチの方が可愛いと思うけどねい」
「ハイ!?」
「衣装はウィッチに替えて」

な、何勝手に主張してるんだクソ主任!てか、何故来た!?

「靴のサイズはおいくつですか?」
「24センチ」
「な、なんで知って、」

「では、ご指定の商品はこちらになります。
尚、会計はホテルチェックアウト時に清算となります。有難う御座いました」

「え、ちょっ、待っ、」
「ハイ、お疲れさん」

荷物を受け取ったのは主任、ドアを閉めたのも主任。
淡々と仕事をして頭を深々と下げたロイドくんは私の言葉を聞くことなくドアの向こうに消えてしまった。

「これからが長丁場だ。さっさと着替えて来い」
「いや、何勝手に衣装、」
「全支払いはおれだよい。自分で払うなら選び直したらいいよい」
「え!?」
「少なくとも衣装だけで数万するけどねい」

.........痛い、その出費は、痛い。給料日前です。
確かに、セット物の衣装には驚愕の7万という数字が見える。これは...キツい。

悔しい。私、悔しいです。しがない平社員で悔しいです。
目の前に突き付けられたウィッチの衣装...例え可愛くてもちょっと、死ねます。

「どうするんだい?」

着替える
リタイア





















if...の扉 #10

ミックスランダム/扉の向こう
【002号室 マルコ】
脱衣場でスーツを脱いで、切ない気持ちになりつつも着替えてみた。
こんなに太腿をさらけ出したのは...学生時代以来だと思う。出来ればストッキング穿きたい。
似合うか似合わないかの問題ではなく死ねるやつ。それでも、仕事をせねばならない。

「.........」
「無言で戻って来るんじゃねェよい」

いやいや、浮かれて戻って来る元気なんかありませんよ。
よりにもよって上司の前で生足出して...しかも別の場所もそこそこの露出で寒いです。

「帽子はどうした?」
「.........持ってますよ。かぶる必要ないですし」
「折角だから、かぶっとけよい」

.........ヤケくそだ。
ポスッと魔女っ子帽子をかぶってダブルベッドの端に腰掛ける。

「それで、次の仕事は何ですか?」
「ない」
「へ?」
「ない」

どういうこと?

「ホテル演出のみだからねい。体験イベントは用意されてねェよい」

だったら何のために私は着替えて......

「まァ、此処に居てもアレだ。出掛けたいならコレ持って行けば警報は鳴らねェよい」

そう言ってポンッと投げられたのは......ペンダント?
紐に石のペンダント...こんなところにも西洋の香りが。さすが凝っていらっしゃる。

「発信器。警報は鳴らねェが仕掛けは動くかもなァ」
「.........というより、」

いつまでアナタ様は此処にいらっしゃるんでしょう。
よくよく考えたらこの部屋...ダブルベッドではあるけど、
まさか他人で上司と一緒に枕並べて、とかない、よね。他人で上司で異性なんですけど。

「おれに廊下で寝ろって言うのかい?」
「いや、そうではなくてですね」
「此処は二人部屋。おれはお前と此処に宿泊することになってるよい」

.........何故だ!!?

「はいい?」
「カップル室の確認だからねい。仕方ない」
「カップル室でも一人で調査出来ますよね?そうですよね?」
「出来ねェから二人で泊まるんだよい」

死ねる。どうしよう死ねる。
あーもうクビ覚悟で仕事放棄しようかな。
でもなあ、拾ってくれたパパに恩義はある。危うくニートになるとこを拾ってもらったし。

「.........」

此処に居ても仕方ない。ちょっとだけ頭を冷やそう。
溜め息一つ吐いて、投げられた発信器という名のペンダントを首に下げた。
ダラダラしている主任を放置し、私は部屋の外へ一歩踏み出した。

続ける
リタイア





















if...の扉 #10

ミックスランダム/扉の向こう
【002号室 回想】
部屋を出て、廊下を端から端まで散策。仕掛けは特になし。
エレベータは相変わらずの鏡張りで血糊べったり。気持ち悪い。
フロントへ降りるとロイドちゃん(弐号機)が居て...何故か外には出られない。
そのエリアをちょっと散策しようとしたら所々でけたたましい音が響いた。
立ち入り禁止エリアがあって、立ち入るんじゃねえよ!と言われてるみたいだった。

因みにロイドちゃん(弐号機)に「部屋を変えて欲しいと告げる」と、
「お部屋の変更は何があってもご遠慮頂いておりますのでご了承下さい」と言われた。

同じエリアには例の商品を販売している場所もあって、
ロイドくん(イケメン)が応対してくれるらしかった。相変わらず表情は乏しい。
ついでに衣装だけでなくお菓子なんかも売られていた。試食は不可。
アルコールなんかも販売されているらしいけど、免許証等を出せと言われた。

そこからまた血糊ベッタリのエレベータに乗る。
ボタンは2(食堂)、1(フロント)、B1、B2とあるけど押せたのは1とB1のみ。
どういう操作なのか、全く反応しないってことは...仕掛けなんだろうと思う。

.........と、いうことで散策終了。
カードキーで002号室へと戻って来た。
一応、不本意ながら相部屋なので不本意ながらもノックしてから入った。

部屋に戻る





















if...の扉 #10

ミックスランダム/扉の向こう
【002号室 マルコ】
「!!?」
「何か面白いことは起きたかい?」
「.........ええ、たった今」

何ですかその衣装。え?何のコスプレですか?
ギッザギザかつボロッボロの継ぎ接ぎで出来たような衣装ですけど...

「あァ、これはゴースト死神の衣装だよい」
「.........激しくローブが似合いませんね」
「生足のユイに言われたくないねい」
「うっ、」

衣装に関しては私の方が色々無理があるのを忘れていた...
それを言われると私はもう何も言うことが出来ませんぜ。アニキ。

「メンズの衣装も出来上がったと聞いて試着してみたよい」
「ああ、そういうことでしたか」

なら納得出来る。出来上がりなら会社の誰かが一度は着なきゃいけないわけで。
でも出来たら今、此処で着なくても良かったんじゃ?とも思う。
とはいえ、一人コスプレじゃなくなったのは少し嬉しいけど。

「そうそう」
「はい?」
「少し早いが夕食の準備が出来たみたいだよい」

夕食?さっきは食堂のボタン押せなかったんですけど?
色々疑問が浮かぶけど正直、気が張り過ぎたのかお腹空いてる...

「一緒に行くよい」
「.........りょ、」
「コース料理の味は後でレポート提出しろよい」
「.........りょ、」
「次にその略返事したら減給ねい」

厳しい。自分はオフだって言い切った癖に。
兎に角、ゴースト死神主任の後ろについて私も歩き出した。

大食堂へ向かう





















if...の扉 #10

ミックスランダム/扉の向こう
【2F 大食堂】
タヴィンチ作、最後の晩餐を思い出した。
趣と言うか雰囲気ある大食堂だけど、うん、もう暗いよ色々。
ここまで長時間薄暗いところに居ると目が悪くなりそうな気がする。

「食堂くらいもう少し明るく――...」
「却下」
「.........さいですか」

一刀両断されました。クレーム来ても知らない。
長すぎるテーブルにはきちんと私と主任の名前が書かれたカードが置かれていた。
てっきり端と端、会話も出来ない両端々に配置されて淡々と食事をするのかと思ったけど、
これには配慮されているらしい。いや、別に食事は淡々と食べてもいいんだけど。
対面配置で...主任はわざわざ回り込んで向こうへ行かなければならないらしい。
(ある意味可哀想だと思うけど、此処は指摘はしない)

「.........長テーブルは廃止だねい」

知りません。私は出入り口に近くて問題なし。

着席すると何故か食堂内にチリンチリンチリン...と鈴の音が響き、
カートの音だろうか、食事を運ぶ音が聞こえ始めた。

「仕掛け、本当に凝ってますね」
「当たり前だよい。何処とベンチャーを組んでると思うんだい」

そうですかそうですよね。一介の平社員はそういうのは全く話は聞いてないし聞かされることもない。
プロジェクトに携わっていない者としてはこの企画はポッと出というやつ。
だから、ある意味で油断してやって来た私がいる。

色々と感心する中、料理は生身の人間が運んで来た。
重々しいカートを押して来たのはイケメンの男性、但し、腐乱気味。
それを配置してくれたのは美人の女性。但し、こちらも腐乱気味。
つまり、ゾンビ系でいらっしゃいます...その美貌が勿体ない。

「.........ちょっと、食欲失せますね」
「.........あァ。報告しておくよい」

初めて意見が合致したところで注がれたシャンパンで乾杯し、食事を頂いた。
食事自体は文句なしで美味しかったけど...サイドに控える美ゾンビさんたちには引いた。

部屋へ戻る





















if...の扉 #10

ミックスランダム/扉の向こう
【002号室 マルコ】
いよいよ確認することが無くなった。
レディファーストでお風呂を頂きましたが、凝った仕様に大絶叫(水が赤いのを忘れてた)。
入れ替わりに主任がお風呂に行かれている間にドレッサーを使用していて...
鏡に映った肖像画の目が動いてて再び大絶叫。恐怖を仕込み過ぎ。
正直、何の仕事もしてないけどもう精神的にクタクタになってしまった。

.........だがしかし、だ。
疲れ切ってさっさと寝てしまおうにもダブルベッド。一人でなく二人で...
この場合、私に与えられた選択肢は三つしか浮かんで来ない。

1. 勝手にベッドに入ってささっと寝てしまう。
2. 残業してると思って机に伏して寝る。
3. 脱走する。

まあ、廊下で寝るとか床で寝るとかそういう選択肢も浮かぶけど、
出来たら人としてフツーに最初の三択から選びたい。

(さて、どうしようか)

1. 勝手にベッドに入ってささっと寝てしまう
2. 残業してると思って机に伏して寝る
3. 脱走する





















if...の扉 #10

ミックスランダム/扉の向こう

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