NOVEL GAME γ | ナノ

if...の扉 #10

ミックスランダム/扉の向こう
【001号室 景吾】
「どうやら失神するほどの衝撃にはならないらしいな」
「.........」

逆に、失神させたいのかと問いたい。問い詰めたい。
これ以上に何かを仕込むのであれば...
R指定と心臓の弱い人、妊婦さんなどの特定の方をお断りしなければならないと思います。
各部屋から悲鳴が聞こえる度に生命ゲージが下がっていくことになるわけですし。

「.........怖かったのか?」
「.........それなりにゾワッとしました」
「ならいい。今件は保留だ」

保留、か。多分、まだ仕込むつもりなんだろう。
とにかく指示に従い、部屋の確認は終わりということで...

「今日の仕事、これで終わりですか?」
「何言ってんだ?お前、宿泊体験イベントだ。終わりじゃねえよ」

な、何ですと!?それは聞いてないよ。
プレオープンイベントだとは聞いてるけど宿泊の有無は本当に聞いてない。
てか、ホテル演出のみってロイドちゃん(フロント嬢)が言ってたからてっきり部屋だけ見るのかと...

「お前、仕事内容を把握せずに来たのか?」
「いや、そういうわけでは......」
「じゃあ、どういうワケだ?アーン?」
「どうもこうも......私、このチケットだけしか、」

貰ってない、と小声で言えば跡部氏は溜め息を吐いた。

「赤髪のヤツ、またミスか」
「へ?」
「お前を疑って悪かった。おそらく赤髪のミスだ。秘書も来てなかったしな」

秘書......ベックマンさんのことかな?
でもあの人は副社長で付き人とは違うんですけど。

「何にせよ、今日は此処に泊まってもらう」
「え!?私、宿泊の予定じゃなかったから......」

着替えが無いです。ですから大人しく帰らせて下さい。

「心配する必要はない。全て揃っている」
「.........ハイ?」
「此処はホラー仕様だ。着替えは販売することになっている」

凄いですねー...本当に。

「因みに、無意味に此処を出ようとすると警報・警告が鳴って大変なことになる」
「.........どういうことですか?」
「出てみたら分かるが、俺はすすめねえな」

「尚、お部屋の変更は何があってもご遠慮頂いておりますのでご了承下さい」
――進まないと、大変なコトが起きちゃうよ?

そういうこと、か。
是が非でも此処に留まらなければいけないということが分かって、私はただただ項垂れた。

続ける
リタイア





















if...の扉 #10

ミックスランダム/扉の向こう
【001号室 景吾】
「フロントに着替えを頼んだ。すぐに持って来るだろうから選べ」

有難うと言うべきなのかもしれないけど、正直、私は帰りたい気持ちでいっぱいです。
ドレッサー横の机に向かって仕事(?)をしている様子の跡部氏はそんな私を見向きもしない。
こんな納得出来ていない私を見れば少しは同情心が生まれると思うのにさ。

着替えだって...どの程度の何が準備されているのかもさっぱり。
普通の服だったらいいけど...ロイドちゃんたちみたいなゴシックな服だったら、死ねる。
いや、着てみたいとは思うんだよ?だけど、リアルでそうなったら間違いなく死ねるヤツだ。

――トントン。
扉を叩く音がした。着替えが届いた...んだよね?
荷物が届いたのは分かる。だけど、この荷物を持って来てくれた人が何なのかが分からないから怖い。
確かロイドちゃんたちは歩行しないタイプ。つまり、ドアの向こう側は...ヒト、よね。

「どうした?」
「いえ......」

私に行かせるということは間違いなく仕様・ホラーだ。
それでも行かなければならないのが平社員の辛いところ。
よし!と心で気合いを入れて、それでも恐る恐る向こうに誰かが居るドアを開けた。

「.........ハイ」
「フロントです。お荷物をお持ちしました」

.........何じゃこのイケメンロイドは!!!
人じゃないのは明確なのに何を象った時にこんなイケメンを作っちゃうんだ!?

「お好きなものをお選び下さい」

けど、やっぱりロイドくんはロイドくんね。表情がほぼゼロで淡々としていらっしゃる。
マジマジと見てしまってるけど気にした様子がないのもまたロイドくんならではだ。
ついでに言えば......本当に下着から何から揃ってる。サイズも豊富だ。
で、服。服が、何故かアンサンブルと言っていいのかセット物と言っていいのか...

「当ホテルのオススメはこちらのカーミラになっております」

梱包された衣装にはそれぞれ中身の写真があるけど...こんな衣装で人前は歩けそうもない。
無難なもの、無難なもの...と探して一番露出が少ないのは、ゴースト、かな。

「じゃあ、コレとコレと...普通のゴースト衣装を...」
「靴のサイズはおいくつですか?」
「24です」

あー...もう、死ねる。仕事でコスプレとか死ねる。これならまだ着ぐるみの方がマシだ。

「では、ご指定の商品はこちらになります。
尚、会計はホテルチェックアウト時に清算となります。有難う御座いました」

.........ん?支給品では、ない?

「え、ちょっ、待っ、」
「支払いは俺が全て持つから心配するな」

遠くで跡部氏の声が響く。
うーっと唸る気持ちを抱えつつも荷物を受け取った。
淡々と仕事をして頭を深々と下げたロイドくんは閉まるドアの向こうに消えてしまった。

「受け取ったらさっさと着替えろ。スーツだと後々キツいぞ」

確かに、動きにくいのは認めますが...私、これでも仕事中なんです。
それにこの時期だからと言ってパーッと仮装してはしゃいだこともないんです。

目の前に突き付けられたゴーストの衣装...例え可愛くてもちょっと、死ねます。
どうしよう。この場合、私はどうしたらいいんだろう。

着替える
リタイア





















if...の扉 #10

ミックスランダム/扉の向こう
【001号室 景吾】
脱衣場でスーツを脱いで、切ない気持ちになりつつも着替えてみた。
さむっ、このピラピラしたゴースト衣装、生地が薄いよ。風邪ひくよ。
似合うか似合わないかの問題ではなく死ねるやつ。それでも、仕事をせねばならない。

「.........」
「悪くねえじゃねえか」
「.........有難う、御座いま、す?」

今のが褒め言葉であれ何であれ、正直、嬉しくはない。
これだったらまだスーツでウロウロしていた方がマシ。何か遊んでるみたいだし。

「着心地はどうだ?」
「へ?」
「生地にはこだわって作らせたつもりだ」

あ、そうか。これは販売する商品でその調査をしてるわけですね。

「着心地は良いんですが、ちょっと寒いですね」
「それは我慢しろ」

うーわー、がーまーんしーろーですって。
今のを考慮して室内の温度を上げるとかプラスして上着を考えるとかしないんですか。
室内に備え付けのカーディガンとか置いて欲しいんですけど。これ要望ですけど。

いつの間にかパソコンを取り付けてカタカタ仕事を続けている跡部氏。
性格が破滅的っていうのは本当なのかもしれない。

「.........でしたら、あの、次の仕事は、」

空気悪いし雰囲気も悪い。衣装も何とも言えないし、私も仕事して自分を保ちたい。
そう考えて跡部氏にそう声を掛けたら意外な返事が返って来た。

「ない」
「へ?」
「ない」

どういうこと?

「ホテル演出のみだ。体験イベントは用意されてない」

はいい?だったら何のために私は此処に泊まるんですか?

「出掛けたいならコレ持って行け。発信器だ。警報が鳴らずに館内を移動出来る」

そう言ってポンッと投げられたのは......ペンダント?
紐に石のペンダント...こんなところにも西洋の香りが。さすが凝っていらっしゃる。

「もしかしたら仕掛けは動くかもしれねえが」

仕掛け...何か嫌な予感がする。
もう十分凝っていらっしゃいますので余計にビビらせたら泣きますよ私。

「.........というより、」

アナタ様はいつまで此処にいらっしゃるんでしょう。
よくよく考えたらこの部屋...ダブルベッドではあるけど、
まさか他人でライバル社の重役と一緒に枕並べて、とかない、よね。他人で異性なんですけど。

「廊下は寝苦しいと思うが?」
「いや、そうではなくてですね」
「此処は二人部屋。俺とお前がこの部屋に泊まることになってる」

.........何ですと!!?

「カップル室の確認だ。仕方ないだろう」
「カップル室でも一人で調査出来ますよね?そうですよね?」
「相手の反応を見る必要がある。諦めろ」

あーきーらーめーろー、と。
もう死ねる。私は死ねます。いや、下手したら殺されるかもしれない。
この方のファンと言うか追っかけのお姉様方に惨殺されるかもしれない。

「.........」

此処に居ても仕方ない。ちょっとだけ頭を冷やそう。
溜め息一つ吐いて、投げられた発信器という名のペンダントを首に下げた。
仕事を続ける跡部氏の邪魔だけはしないように、私は部屋の外へ一歩踏み出した。

続ける
リタイア





















if...の扉 #10

ミックスランダム/扉の向こう
【001号室 回想】
部屋を出て、廊下を端から端まで散策。仕掛けは特になし。
エレベータは相変わらずの鏡張りで血糊べったり。気持ち悪い。
フロントへ降りるとロイドちゃん(弐号機)が居て...何故か外には出られない。
そのエリアをちょっと散策しようとしたら所々でけたたましい音が響いた。
立ち入り禁止エリアがあって、立ち入るんじゃねえよ!と言われてるみたいだった。

因みにロイドちゃん(弐号機)に「部屋を変えて欲しいと告げる」と、
「お部屋の変更は何があってもご遠慮頂いておりますのでご了承下さい」と言われた。

同じエリアには例の商品を販売している場所もあって、
ロイドくん(イケメン)が応対してくれるらしかった。相変わらず表情は乏しい。
ついでに衣装だけでなくお菓子なんかも売られていた。試食は不可。
アルコールなんかも販売されているらしいけど、免許証等を出せと言われた。

そこからまた血糊ベッタリのエレベータに乗る。
ボタンは2(食堂)、1(フロント)、B1、B2とあるけど押せたのは1とB1のみ。
どういう操作なのか、全く反応しないってことは...仕掛けなんだろうと思う。

.........と、いうことで散策終了。
カードキーで001号室へと戻って来た。
一応、不本意ながら相部屋なので不本意ながらもノックしてから入った。

部屋に戻る





















if...の扉 #10

ミックスランダム/扉の向こう
【001号室 景吾】
「!!?」
「早かったな」
「なっ、何、」

さっきまでの素敵かつ高級なお召し物は何処におわしましたか!!
ギッザギサ!何か落ちぶれた伯爵みたいな衣装に替わってますけど!!

「ゴーストドラキュラの衣装だ」
「.........」
「変か?」

いいえ、そのバッサーなるマントは激しくお似合いですが...そうではなくて。
何でお召し物を替えられたのかということです。いや、激しくお似合いですけども。

「メンズの衣装も出来上がったと聞いて試着してみただけだ」
「ああ、そういうことでしたか」

なら納得出来る。出来上がりなら会社の誰かが一度は着なきゃいけないわけで。
でも出来たら今、此処で着なくても良かったんじゃ?とも思う。
とはいえ、一人コスプレじゃなくなったのは少し嬉しいけど。

「ああ、伝え忘れるとこだった」
「はい?」
「少し早いが夕食の準備が出来たそうだ」

夕食?さっきは食堂のボタン押せなかったんですけど?
色々疑問が浮かぶけど正直、気が張り過ぎたのかお腹空いてる。うん、空いてる。

「今から行くか?」
「あ、はい」
「コース料理だ。問題があればすぐに通達しろよ」
「.........了解しました」

ゴーストドラキュラ跡部氏の後ろについて私も歩き出した。
うん、後ろ姿のマントバッサー感は本当に素敵だよ。金髪も栄える。
これだけのオーラが後ろからでもあれば、それはモテるだろうなーと思いながら私は歩いた。

大食堂へ向かう





















if...の扉 #10

ミックスランダム/扉の向こう
【2F 大食堂】
タヴィンチ作、最後の晩餐を思い出した。
趣と言うか雰囲気ある大食堂だけど、うん、もう暗いよ色々。
ここまで長時間薄暗いところに居ると目が悪くなりそうな気がする。

「あの、食堂くらいもう少し明るく出来ませんか?」
「却下」
「.........さいですか」

一刀両断されました。クレーム来ても知らない。
長すぎるテーブルにはきちんと私と跡部氏の名前が書かれたカードが置かれていた。
てっきり端と端、会話も出来ない両端々に配置されて淡々と食事をするのかと思ったけど、
これには配慮されているらしい。いや、別に食事は淡々と食べてもいいんだけど。
対面配置で...跡部氏はわざわざ回り込んで向こうへ行かなければならないらしい。
(ある意味可哀想だと思うけど、此処は指摘はしない)

「.........円卓に仕様変更だな」

知りません。私は出入り口に近くて問題なし。

着席すると何故か食堂内にチリンチリンチリン...と鈴の音が響き、
カートの音だろうか、食事を運ぶ音が聞こえ始めた。

「仕掛け、本当に凝ってますね」
「当然だ。この企画は数年がかりの大プロジェクトだからな」

そんなに時間を掛けていたとは...知らなかった。
一介の平社員はそういうのは全く話は聞いてないし聞かされることもない。
プロジェクトに携わっていない者としてはこの企画はポッと出というやつ。
だから、ある意味で油断してやって来た私がいる。

色々と感心する中、料理は生身の人間が運んで来た。
重々しいカートを押して来たのはイケメンの男性、但し、腐乱気味。
それを配置してくれたのは美人の女性。但し、こちらも腐乱気味。
つまり、ゾンビ系でいらっしゃいます...その美貌が勿体ない。

「.........多少、食欲が失せますね」
「.........ああ、仕様変更を検討する」

初めて意見が合致したところで注がれたシャンパンで乾杯し、食事を頂いた。
食事自体は文句なしで美味しかったけど...サイドに控える美ゾンビさんたちには引いた。

部屋へ戻る





















if...の扉 #10

ミックスランダム/扉の向こう
【001号室 景吾】
いよいよ確認することが無くなった。
レディファーストでお風呂を頂きましたが、凝った仕様に大絶叫(お風呂の水が赤かった)。
入れ替わりに跡部氏がお風呂に行かれている間にドレッサーを使用していて...
鏡に映った肖像画の目が動いてて再び大絶叫(この仕様を忘れてた)。
正直、何の仕事もしてないけどもう精神的にクタクタになってしまった。

.........だがしかし、だ。
疲れ切ってさっさと寝てしまおうにもダブルベッド。一人でなく二人で...
この場合、私に与えられた選択肢は三つしか浮かんで来ない。

1. 勝手にベッドに入ってささっと寝てしまう。
2. 残業してると思って机に伏して寝る。
3. 脱走する。

まあ、廊下で寝るとか床で寝るとかそういう選択肢も浮かぶけど、
出来たら人としてフツーに最初の三択から選びたい。

(さて、どうしようか)

1. 勝手にベッドに入ってささっと寝てしまう
2. 残業してると思って机に伏して寝る
3. 脱走する





















if...の扉 #10

ミックスランダム/扉の向こう

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