学校と家が割と近いので、ナマエは寄宿舎生活ではない。そのため放課後に自由時間が沢山あるため、闇市巡りをする事にした。
行ったことなかったんだよなー闇市。貴族の生まれだからそんな危ない所行かせてくれなかったし。
すっと、隠し通路を通り抜ける。
「おぉーー」
まさに闇市場、みたいな感じで目の前には薄暗い通路が続いていた。
「そこのお嬢ちゃん?闇市は初めてかい?」
「あっ、ええ!そうなんです」
話しかけて来たのは魔道具屋の主人。
「初回限定で、この魔道具お安くしとくよ~?」
どれどれ。見てみると、どれもちゃっちいガラクタだということが分かる。これも老舗魔道具メーカー生まれのナマエだからこそだ。
「いいえ、結構です」
ひらひらと手を振ってその場を立ち去った。
しばらくウィンドウショッピングを続けていると、よくミョウジの模造品を見かけた。摘発してやりたいところではあるが、考えたら自分がここにいること自体問題になるのでやめておく。
「チッ、また外れたぜ」
「もう一回勝負するか??」
「あったりめーだ」
見ると、賭博場の方に小さな人だかりがあった。
「おおおおお!!」
「最後の一枚だ!!」
見るとパンツ一丁の少年が賭け事をしている。歳はナマエと同じくらいだ。
「まだだ!次はこの魔導書を賭ける!!」
「アンタ正気か!?」
その少年は命と同じくらい大事な魔導書をやすやすと賭けに使う。
ちょ待て。黒い髪、黒い瞳、そしてあの気怠けな感じ。
ヤミだんちょーー!!!!!!
更に近づいて見るとやはりそうで。ファンとして嬉しさを隠せない。
クローバー王国に漂着してきてまだ間もないのだろうか。着ているものはどれもボロボロだ。
ははーん、ここでお金を稼いでいるわけね。逆にお金が減ってるかもしれないけど。
ヤミは最後まで頑張るも、結局すっぽんぽんになるまで負け続けた。流石に可哀想だと思われたのか、パンツだけは返してもらっていたが。
「すみませーん・・・」
「あァ?」
負けて機嫌が最悪のヤミだったが、ナマエにしてみれば若いヤミ団長なんて可愛い以外の何ものでもない。
「これ、どうぞ」
ナマエがそう言って差し出したのは、さっき買ったキッカで今人気のパン屋のクロワッサンだった。聞こえは悪いが、もので釣ってまでヤミと仲良くなりたいのだ私は。
ぎゅるるる~~、と、空気を読んだようにヤミのお腹がなったのでナマエは更にニンマリとした。
「・・じゃ、お言葉に甘えて」
パンの美味しそうな香りに耐えられなくなったのか、半ばひったくるようにしてパンにかぶりつく。それを見てナマエもパンを食べた。
「うめーなこれ」
「でしょ?」
歩き食いだなんてお行儀が悪い!と母親に言われそうだがここは平界。誰にも咎められやしない。
「私、ナマエ・ミョウジ。あなたはどこから来たの?名前は?」
もう全部知ってるけど。でも会話のネタがこれくらいしか見当たらない。
「ヤミ・スケヒロ。日ノ国から来た」
「へえー、はるばる日ノ国から」
「・・・お前、知ってんのか」
そりゃまあ、母国同然ですから。
すっかりパンもなくなって、それでも満腹では無さそうなヤミに、明日も届けに来てあげると言った。
「いつもこのあたりにいるの?」
ここは海岸。その奥に広がるだだっ広い海を越えて彼はやってきたのだ。
「まあな」
それだけいうとヤミは視線を海の向こうに戻した。その向こうには、ヤミの家族や友人がいるのだろう。
「・・なあ、お前さ、変わってるよな」
「え?あんまり言われたことない」
「いや・・、俺みたいな異邦人に構う奴珍しい」
異邦人?いや多分同郷の者ですよ。
と言いたいのをぐっと堪え、そうかな、とだけ言った。
海面はオレンジ色の輝きを点在させながら静かに揺れたままだ。そろそろ暗くなるので帰るとする。
また明日ね、と言えば、次はアンパンが良いと返ってきた。
514349