陳腐になんかならない

「貴様、昨日の小娘か」
「あ、はい」

ここはA組。私達の教室だ。今なぜかメレオレオナ様がいるということ以外にはいつもと何も変わらない。

「ここには慣れたか」
「いえ、まだ二日目ですので・・・」

なぜ、いる。という目でフエゴレオン様は姉を見ていた。わかる。

「紹介しよう。我が愚弟だ」
「ドウモ・・・」

なんで、このタイミングで紹介が始まった?それはフエゴレオンも同じだったようで、疑問を浮かべている。

「フエゴレオン、この小娘のことは頼んだぞ。私は猪を狩ってくる」

いやいや、ちょっとトイレ行ってくるわ、みたいなノリで猪狩ってくるって言わないで!!メレオレオナ様はいなくなった。本当になんの用だったの。

「・・・・・・」

残された私達の間には沈黙が流れた。

「・・・名前を、聞いてもいいか?」

先に口を開いたのはフエゴレオン様。なんかむりやり会話に繋げようとしている。真面目な彼は、姉の言いつけをきっちり守ろうとしているのだろう。

「ナマエ・ミョウジです」
「ああ!あの魔道具の」

フエゴレオン様も家のことを知っていた。

「これから、よろしく頼む」
「いえ、こちらこそ!」

わあ、会話できちゃった!!

それから、運の良すぎることに会話は弾み。

「ナマエは魔法騎士団には入っていないのか?」
「はい。出来れば回復魔道士としてどこかの団に入りたいんですけどね~」

フエゴレオン様はもう既に紅蓮の獅子王団団員だった。だろうな。

「それなら…」

是非、紅蓮の獅子王に。
と、フエゴレオン様が仰った。未来の団長から勧誘された…!!

「っはい!私、入団出来るように頑張ります」

笑みが止まらない。きっといま凄く顔が下品に歪んでいるだろう。

フエゴレオン様も嬉しそうに目元を細めた。

「それと、ナマエ。」
「はい?」
「敬語は、よしてくれ。同い歳だろう?」

うっ・・!!眩しすぎる!何なのその笑顔・・・!

かくして私は、あのフエゴレオン様とお近づきになれたのだった。

***

王族・ヴァーミリオン家の長男として。今まで努力を惜しまずひたすら鍛錬に明け暮れた。
そして迎えた15歳の年に、念願の魔導書を得た。

「流石は王族だ!!」
「格が違うなあ」

周りの貴族が正直鬱陶しい。誰もが自分を王族としてでしか見ていないことに気付き内心複雑な感情が蠢いている。





「モニカに謝って!」

奥で喧嘩の騒ぎか。女性二人に男が怒鳴り付ける。全く情けない。
持ち前の正義感を発揮して喧嘩の仲裁に入ろうとしたが、女性二人は逃げ出してしまった。

その女性の片方を見た瞬間、微弱ながら感情の動きを感じたのだ。友人をかばったその少女。その顔はフエゴレオンの頭の中にしっかりと刻み込まれた。
動いた感情の名前をつけることはまだ出来ない。しかしフエゴレオンは彼女たちが塔を出る最後の最後まで見ていた。


「どうかしたのか、フエゴレオン」
「あっ、姉上」

いつの間にか姉上がそこまで来ていた。ちゃんと自分が魔導書を貰ったかの確認だろうか。

「さっきの出ていった娘が気になるのか?」
「あ、いえ・・・」

ここまで図星だと恐ろしい。フエゴレオンは反射的に目を反らしてしまった。

「・・・そうか」




それから、姉上が件の少女に肉をやったと聞いた。

「騒がしいやつだった。だが、お前が興味を持つほどの女なら、余程面白い奴なのだろうな」
「姉上・・・」

姉の行動力には驚かされた。もう接触していたなんて。

「お前と同じ、A組だそうだ。精々学校生活を楽しめ」

名前も知らない彼女。同じクラスになれたのだから、それなりの縁はあると信じたい。



それから入学後、遂に初めて話すことが出来た。

「ナマエ・ミョウジ・・・」

何故か耳に残るこの名前。滾る炎、とまではいかないがやがてはそれをも越しそうな小さい焔が彼の胸に生まれたことに気づかなかった。



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