交わる線 2
古典的なスラム街の孤児。
それが今回の俺だ。
薄汚いランニングに襤褸切れの方がマシというほどの腰巻きという名の布切れ。
殺しを仕事として日々金を稼いでいる。
健康な体は食事から。食事をするには金がいる。金を稼ぐには売れそうな金属を拾うか、スリか、それか裏の仕事_用人の暗殺か。
暗殺の方が俺は簡単だから暗殺にしている。
初回は本当に殺したのかなんて疑われて金を貰えなかったから今度からちゃんと心臓か首を持ち帰るようにしている。そうしたらちゃんと金を貰えるのだ。
1日三食食べるには十分すぎる量で、にっこりと笑えば少しだけ増やして貰えることに気がついた。
いやーありがたいね。
拠点に戻り、前に買った綺麗なシャツとズボンに履き替え、大きな街へと出かける。
「おばちゃん!またあのぱんちょーだい!」
子供らしくにっこり笑顔で料金を差し出せば人のいい笑顔の老婆がバターパンを一つくれる。
「はいよ、ユイくん。またお使いかい?」
「うん!!お釣りはね、もらえるんだよ!」
「へぇ〜そうかい、そりゃあよかったねぇ」
にこにこと微笑む老婆。この人はいい人だ。暖かいパンを大切に抱え、ふと気がつく。
「おばちゃん、ひとつ多いよ」
頼んだのは三つなのだが、四つ入っている。
多いと言えば老婆はしーっと指を立ててひっそりと言った。
「おばちゃんの奢りさ。」
パチリとウィンクをした老婆。
_ああ、いい人だ。
「ありがとう!じゃあね!」
「気をつけるんだよぉ」
青い軍服を着た集団をすり抜け、裏路地を走る。
ああ、そうだ。あいつらにもわけてやろう。
拠点に戻って元の服に着替える。
服は腰の巾着にぶち込んでおく。
大通りの三角に穴の空いた家のドアを四回ノックする。
「やあケヴィン。今日はいい天気だね、そうそう。雨が降ったんだ、入れておくれよ」
「やあマイク。明日は晴れだね。そうそう、さっき雷が落ちたんだ。大変だろう?入れてやるよ」
「ああ、ありがとうケヴィン。」
妙な合言葉は心をくすぐられる。
くすくすと笑いながら中に入る。
そこには小さな子供が2人、俺と同じくらいの子供が1人。
「で、ユイシキ。どうだった?」
「この通り。ほらバターパン四つだ。みんなで食おうぜ!」
「やりぃ!ミラ、ジャック!飯だ!」
「ごはん!」
「パン!ユイにーありがと!」
ほかほかと暖かいバターパンを差し出せば喜んでかぶりつくミラとジャックに、俺とエドァルドは苦笑いする。
「ほら、エドァルド。」
「さんきゅ」
柔らかいバターパン。スラム街と言っても仕事はあるから金と服さえあれば買い物にだって行ける。そこまで貧困はしていない。屋根のある家だってある。
謎の団結力を誇るから仲間割れだってしない。
複数人でグループを作ってリーダー同士で交流すれば誰が攫われただの誰が死んだだのすぐ分かる。
俺はシェリング兄弟のところにお邪魔させてもらっている。
兄貴のエドァルド・シェリング
下は双子の兄妹で兄のジャック、妹のミラ。
兄弟揃っての栗色の髪、多少の誤差はあるけども緑色の瞳。きょとんとした顔は全員そっくりだ。
「おいユイシキ、なに一人で笑ってんだよ」
「あ?んにゃ、なんでもねぇよ。」
最後のひときれを二つにわけ、ジャックとミラへ渡す。
「ユイにーありがと!」
「ユイシキありがと!」
美味そうに食べるこの2人はかわいい。
「わりいなユイシキ…」
「いいよ。…もう、俺たちはかぞくだろ」
「そうだな。」
かぞく。家賊だから、守るんだ。