しばらくすると傷も癒え、私はミナトさんたちの家を離れた。いや、まだミナトさんの家だったかな?そこにクシナさんと一緒に暮らしてるとかなんとか。まあどっちでも同じことか。
「ハルー?」
トントンと扉をたたきながら聞こえたそれは、ミナトさんのもの。はい、と扉を開ければ、やはり相変わらずの笑顔。
『?』
「ちょっといいかな?」
木の葉のベストを着ていた。仕事中にわざわざどうしたのだろうか、と見ていると、ポケットから何かを取り出し、「はい」と私にそれを手渡した。
『…これ、』
木の葉のマークが入った額あて。彼の顔を見上げれば、
「今日から君も木の葉の下忍だよ」
と。
確か昨日の話だったはずだ、私も忍びとして生きると伝えたのは。仕事が早いなー、と尊敬の眼差しで彼を見る。私もいつかこんな忍びになれたらいいなあ、なんて。
『ありがとうございます』
「うん。…それと、一緒の班になる人たちがさ、君と会いたいって言ってるんだけど」
忍界大戦がはじまったのは、それからひと月ほどしたころだった。
「早く行け」
『…いや、私もっ』
「ダメだ」
目の前にいるのは、四人一組を組んでいたうちの一人、ソラト。しかし、四人一組と言っても、そのうちの二人は既に命を絶っていた。
「木の葉に、この情報を伝えられるのはお前しかいない」
『そんなの、』
「ハルっ、いい加減にしろ。これは、遊びじゃない、任務なんだ」
『そんなことわかってる、でも、ソラトだけおいて行くなんてイヤ』
いつもそうだった。ソラトも、もう一人の下忍、カトラも、いつも私をかばってくれていた。任務で失敗しても、嫌な顔一つせずに笑ってくれた。
「カトラの死を無駄にするのか?」
『っ、』
「ハル、」
カトラは昨日の夜、死んだ。私の目の前で。敵地の中に潜り込んで情報収集をしていた時の話だ。手違いがあって、手薄になるはずだった基地内には多くの忍びたちがいたのだ。つかんだ情報を持ち帰るため、カトラは私を生かした。
「行け、そして、終わらせてくれ。この戦いを」
その時にカトラが残した言葉を、今ここでソラトもまた口にした。
『…わかった』
自然と溢れ出した涙を私はあわてて拭いた。
泣きたいのはソラトの方だ。こんなよそから来た私なんかのためにここで命を張らなければならない。それなのに私が彼の代わりに泣くなんて許されない。
「ハル、元気でな」
『…』
口を開いたら涙が出そうで、あわててソラトに背を向けた。ありがとう、と彼にはちゃんと聞こえていただろうか。
みんなの命、無駄にしないよ。私が必ず、これを木の葉に届けるよ。
それほどの価値があったのだろうか
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