私が持ち帰った情報は、大して役には立たなかった。かえって混乱を招いたのかもしれない。それは、敵が用意した偽りの情報だったのだ。
ほどなくして、戦争は終わった。私は相変わらず生きていた。いっそのこと戦で死んでしまえば、私も木の葉の忍として生きたということを、信じてもらえると思ったのに。
任務の時以外は誰とも会わなくなった。部屋にいるとミナトさんやクシナさんが心配してくれるから、部屋にも帰らなくなった。ある時は宿屋、ある時は森の中、ある時はどこかの屋根の上。里中のいろんなところを転々としていた。
「この前もここに来てたよな」
そんな毎日のある日、彼は突然現れた。顔を見たことはあった、確か先輩のはずだ。いつも千本をくわえている人なんてそうはいない。
『…』
どこかの屋根の上、星が輝く夜。少し風があって肌寒い日だった。
「寒くないのか?」
『…どうして、』
戦争が終わってから、周りからの視線に耐えられなかった。悪口は誰も口にしない、でも目はいつも私に訴えかけているようだった。なぜお前が生きているのか、と。
「ソラトがさ、あんたのこと嬉しそうに話してたから、気になってた」
来いよ、と彼はつづけ、近くの建物を指さした。
「寒いだろ、」
『いいです』
なんでそうしたのかなんてわからない。誰かを信じることをしたくなかったから、なんて言うのは後から考えた理由だ。
森の方へと足を向け、私は彼から離れた。彼も追ってはこなかった。
その日は夜中ずっと眠れなくて、朝日が上る前に漸くうつらうつらし始めた。完全に日が上るとさすがに人の目につきやすいかな、と、まだちゃんと機能している私の脳のどこかが判断して、私は久しぶりに自分の部屋で眠りについた。
おいしそうな匂いで目が覚めた。そう言えば最近、ご飯食べてなかったよーな気がする、と目を開けると、見知った顔が真上にあった。
「漸く目を覚ました」
『…ミナトさん、』
「何日も帰ってこないから心配したよ」
あなたたちを避けて帰ってきませんでした、なんて言えるはずもなく、私は黙ってうつむいた。
この人たちは優しすぎる。もっと私のことを責めてくれればいいのに。お前のせいだって言ってくれればいいのに。ベットから起き上がって彼を見上げると、しかしそこには優しそうに笑う彼の顔はなかった。
「ソラトたちのことを気にするなとは言わないよ。でも、いつまでも引きずってちゃだめだ」
違う、今はそんなことを聞きたいんじゃない。
「ハル、ご飯作ったわよ。一緒に――」
『私、今から任務あるので、』
もちろんそんなのは嘘だ。おしこめていた涙がはみ出しそうになったから。私が泣いちゃ、いけないから。
いつの間にか、雨が降っていた。
彼の涙が雨になった
prev/
next
back