06特大パフェ延期。※中止ではありません
リンが戻ってから1週間ほどたっただろうか。俺の部屋に訪ねてきた。
『内密の話、聞きたい?』
聞きたいもなにも、こちらからお願いした任務の結果のはずだが。
「ぜひとも聞かせてくれ」
『うわあ、頭領機嫌悪い。そりゃあみんな怖がるわけだ』
「なんだ、そんなことを言いに来たのか」
烏森へ黒芒楼が攻めてくる回数も増えてきていた。
それに関連してなのか、松戸という男がおじいさん経由で妙な依頼をしてきたため、眠る時間が削られている。
つまりは思うような結果が得られない。
『もっと他を頼ればいいのに。正守のそういうところ、成長しないよねいつまでたっても』
「要件は」
『何その言い方。人がせっかくいい知らせを持ってきてあげたってのに』
ようやく座布団の上に腰をおろしたところで、刃鳥がお茶を持ってきた。
もしかすると、このタイミングでリンが任務結果の報告を持ってきたのは、刃鳥の差し金かもしれない。
『例の件、他に関わってた子はいないわ』
裏会幹部は、その構成メンバーさえも極秘とされていた。
しかし俺の幹部入りは3の細波さんが扇一郎へと情報を漏らし、それはすぐに裏会中に広がった。ともすると各地に散らばっている異能者に話が伝わるのも時間の問題だろう。
まあ、ばれたところで隠すつもりもないのだけれど。
細波さんの処遇はまだ検討中だが、リンにはそのほかに協力者がいないか調べてもらっていた。
「それなら一安心だ」
『けど、肩入れしている子はたくさんいる。……一番細波さんのことを好いているのはたぶん閃ね。精神系の能力も隠しているみたいだし』
「へえ、そんな能力あったの?」
『まあ、まだ発展途上ね。たまにその辺の林の中で練習してるわよ。彼にはまだ反逆の意志はないし、黙って見守っててもいいんじゃない』
久々だったせいか、思わずリンの顔を凝視してしまった。
『なによ』
「いや、相変わらず先まで読んでるから感心した」
『なにその上から目線は。私はあなたより先輩よ』
「はいはい」
閃に精神系の能力があったことは知らなかった。
その報告がなかったことは問題だが、リンがまだ泳がせていいと言っているのだから、そのままにしておいてもいいのだろう。
夜行も人数が増えて、昔は全員と意思疎通ができていたのだが、今はそれが難しくなっている。
「これからも頼むよ、リン」
『まだお代をいただいてないわ』
特大パフェのことを言っている。
「日付指定してくれればあげるから」
『じゃあ明日』
「はいはい」
約束の時間だけ取り付けて、リンは軽快に部屋を出て行った。
しかし、翌日の特大パフェは延期になった。
朝からリンの調子が悪いらしく、布団から出られないとのことだった。
その連絡は文弥から知らされた。
「昨日は元気そうだったのに」
まじない班兼救護班の彼に問うと、困ったように笑った。
「うん、熱はないようだから安心して」
「寝てるの?」
質問しつつ横開きの扉を開けると、部屋の真ん中に布団が敷かれ、リンが眠っていた。
『人の部屋に入るときはノックくらいしなさいよ』
「なんだ、起きてるじゃない」
『紳士はノックするものよ』
軽口を叩けるくらいには元気なようだ。
「リン、何か食べないと治るものも治らないから。何なら食べられる?」
『……空気』
「ダメ」
『……水』
「他」
『……』
何度も言っているかもしれないが、一応記載しておく。
リンは文弥より3つも年上だ。3つも。
「わかったよ。今回は点滴にしてあげる」
『さすが文弥、やさしい』
「明日はダメだからね」
じゃ、リンよろしくね。
去り際に、文弥が言葉を残していく。
どうやら席を外してくれたようだった。
「長期任務でも無理させたし、烏森の任務も簡単じゃないから、今はゆっくり休んで」
『特大パフェ食べたかったな〜』
言いつつ、苦しそうに咳をする。
「いつでも連れて行ってあげるからさ」
『あ、たり、まえ、』
咳が止まらないようなので、横を向かせて背中をさすってやると、ようやく咳が収まった。
リンは妖混じりだが、そのせいで生まれつき体が弱かった。
もう数えきれないくらい看病はしている。
「治ったら烏森頼むよ」
黒芒楼もそろそろ動き出しそうな気がする。
それはリンも察しているのか、青白い顔で頷いた。
しばらく話をしたところで、リンの返答がなくなった。
ようやく眠ったようだ。
リンには早く体調を直してもらわないと、扇一郎がまた何やらちょっかいを出して来るやもしれない。
「すまない」
本当ならゆっくり療養させてやりたいのだが。
起こさないようにそっと部屋を出た。
prev/
next
back