05正守回収案件
裏会総本部。
先日正守が言っていた、扇一郎に呼びだされたその日のこと。
珍しく弱気だった正守の付き添いとして、しかし総本部の外で輸送班の蜈蚣と待機していた時だった。
『正守!?』
先ほど何やら動きがあったので少し心配していたのだが。
やはり正守がふらふらの状態で外へ出てきた。
蜈蚣がオロオロしているそばで、慌てて門まで走った。
『ばか、何してるの、』
「ちょっと、ね」
『何がちょっとよ。あんた重いんだから自分で歩けないようなことしないで』
どうにか蜈蚣の用意した変な形の(蜈蚣の中ではマンタを模したもののようだ)乗り物に正守を乗せた。
『あーあー、けっこう深いよ、傷』
「いやあ、絶界でも防ぎきれなかったんだよね」
『そりゃあ、あの扇一郎よ? 防ぎきれるわけないじゃない』
素直に感想を述べると、正守は少し不貞腐れたようだった。珍しい。
「勝てるかもしれないだろ」
『はいはい。男の子ってたまにそういう意地をはるよね、いくつになっても』
「男の子なんて久しぶりに言われた」
『一応、裏会の中では私のほうが先輩だからね』
私は小さいころに両親に捨てられて裏会へ入った。まだ小さかったので裏会の教育機関に送られたのだけど。その後しばらくして顔を見るようになったのが正守だった。
裏会には、親や兄弟から手に負えないと見放された異能者ばかりが集まるが、自ら家を出てきたような人も少なくはなかった。
とりあえず止血するために、先天的な能力で傷口を凍らせる。
正守は一瞬だけ痛みに顔をゆがめたが、それ以降は痛みを隠すように目を閉じるだけだった。
しばらくすると、その人の寝息が聞こえてきた。
疲れがたまっているのだろう、こんな時くらい休ませてあげないとね。
正守は一人で抱え込むから。昔も今もずっとそう。
『おやすみ、頭領』
自分が来ていた羽織をかけてあげた。私はあまり寒さを感じないから。
眠っている正守をしばらく見ているうちに、私にも眠気が襲ってきた。
しばらくは蜈蚣に悪いかと思って我慢していたのだが、いつの間にか誘惑に負けて眠っていた。
暗い小屋の中に一人だった。
毎日毎日雪が降り積もり、寒さはまったく感じなかったものの、寂しくて1日中泣いていたのを覚えている。
これは何か悪いことをしたことの罰で、いつかはお母さんやお父さんが迎えに来てくれると。私は必要にされているいのだと―――。
「リン、」
目を開けると、見知った顔がある。文弥だ。
『あ、れ、なんで文弥』
「頭領迎えに行ったんでしょ、こんな寒い中眠ってちゃ風邪ひくよ」
周りを見回すと、前の方で正守が男衆3人に運ばれているのがわかった。
ちなみに巻緒と行正、それに大吾の面々だ。
蜈蚣は黒い相棒を体内に収めているところだった。
『うわあ、なんかシュールかも』
「どっちが?」
とそこで自分で歩いていないのに進んでいく景色に違和感を覚え、我が身を顧みる。
足元にみえるのは文弥の腕。背中の方に感じるのも多分同じだろう。
『なんで私運ばれてるんだっけ』
「熟睡して起きないからだよ。どうする、このまま部屋まで運んでほしい?」
『嫌よ早く下ろして』
文弥の顔は意地悪そうに笑っている。
「最近体調悪いみたいだし、このままみんなの前でお姫様抱っこ続けるのもいいかな〜」
『なんでよ。恥ずかしいから下ろしなさい』
くそう、覚えてなさいよ。いつか仕返ししてあげるから。
なんて大人げないことを心に誓いながら、夜行の門を潜り抜けた。
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