鏡花水月 | ナノ
04頭領の迷い、少し弱気気味
扇一郎から呼び出された。

正守からそんな連絡を受けたのは、昨日だった。
夜行をあげての飲み会の翌日、昼くらいだったろうか。

『え、どういうこと?』
「その通りの意味さ。今度、裏会の総本部に行かないといけないんだが、」
『わかった、行くわ』
「話が早くて助かるよ」

いつもは一人で行くのに。珍しく弱気かもしれない正守を見ていると、俺の顔に何かついてる? と正守。

『別に。珍しいなって』
「そお?」

あともう一つ、悪い知らせ。

『ん?』
「限が完全変化したらしい」
『……限は大丈夫だったの? 周りの被害は?』
「大丈夫、暴走する前に翡葉が沈静化した」

ひとまず安堵すると、正守もため息をついた。

「どうするかね」
『限はどうしたいって?』
「限からは何も。翡葉からも、おとなしくしていると報告を受けてる」
『亜十羅は?』
「もう向かわせたよ」

限の教育担当は亜十羅が担っている。
こちらであれやこれやと動き回るよりは、亜十羅がいって話を聞くなり、様子を見るなりしたほうが解決は早いだろう。

でもなぜ、完全変化を?

口に出したつもりはなかったが、言葉になっていたようで、正守が答えていた。

「黒芒楼だったらしい、敵は」
『また来たのね。……私も早く烏森へ行ったほうがいいんじゃない?』
「まあ、そうなんだけどさ」
『あら、迷ってるの』

図星らしい。
困ったように笑うその人は久しぶりに見た気がする。

「烏森に行って大丈夫なの? その辺の神有地とはわけが違うよ」

本調子じゃないでしょ、と付け加えられた。

「黒芒楼については何人かに探らせているから、もう少し詳しくわかってからと思ってる」
『それは、過保護にどうも』
「リン、」
『わかってるわよ。正守が心配してくれてることも、その通りだと思うし』

私は統合型の妖混じりだ。
今でこそ力が暴走することはなくなったものの、昔はよく力を暴走させて周りを困らせていた。正守も、私の暴走を諫めに総本部から任務を受けたことが数回あるはずだ。
私の体調が万全でない上に、烏森という不気味な神有地に行くとなれば、心配するのも無理はない。

『けど、そこまで心配しなくても大丈夫よ。自分の力を抑えるくらいはできるわ』

あんたこそ、大丈夫なの。
正守は怪訝な様子で私を見た。

『私に迷いを悟られるってことは、相当弱ってるんじゃない? 甘えさせてあげようか』
「ぜひお願いしたいね」

冗談だったのだが、さらに冗談が返ってきた。
つまらん男だ。

「まずは、もう少し飯を食って精力をつけてからかな。文弥が嘆いてたよ、リンが少食すぎて困るって」
『なんで文弥が嘆くのよ。しょうがないじゃない、こればっかりは。胃がうけつけないの』

長引くと何か言われそうだったので、扇一郎との約束の日について打ち合わせをして、切り上げた。





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