鏡花水月 | ナノ
03体調管理担当
起きるともう昼時だった。
お酒も手伝って、よく眠れたようだった。

『ふぁ〜』

あくびをしながら洗面台へ向かうと、途中で子供たちに見つかった。

「リンだ!」
「リン久しぶり!」
「リン遊ぼう!」

リンと言う名前が呼びやすいのか、彼らは必ずといっていいほど文頭にリン、とつける。
私は勝手にリン合唱とよんでいる。

『顔を洗って歯を磨いて着替えまでしたらね』

どうせすることはなかったのでそう返答すると、子供たちは嬉しそうにした。

「リンサッカーしよう」
「リンこっちのチームね」
「リン僕たちのチームも!」

そしてまた始まるリン合唱。
私をどちらのチームにするかで争い始めたが、大きくはならなかった。

「ほらほら。どっちにするかはジャンケンで決めな。リンが来るまで先に練習してて」

とてもタイミングよく現れたのはまじない班主任の文弥だ。
子供たちが去った後で文弥にお礼を言うと、リンは昔から人気だもんねと返ってきた。

『ただ単に名前が呼びやすいだけでしょ』

洗面台へ向かうと、文弥もついてきた。

「これから昼食なんだけど、リンも行くよね?」
『見ての通り私は朝食だから、違うかな』
「どういう理屈? 朝食も昼食も食べるところは一緒だよ」

ああ、捕まった。
これはあれだ、頭領だか副長だかの差し金だ。

『別にいいじゃない、ご飯は好きなときに食べる』
「リンの体調管理は僕の仕事なの」
『なんでだ』
「なんでも。ほら、早く顔洗って」

昔から食が細かった。好きなときに好きなだけ食べるのが私のスタイルだったのだが、いつからかそれを周りに調整されるようになった。
いつからか、というか一度食べ物が喉を通らなくなったことがあったからそのときかな。

『昔はもっとかわいかったのにな〜文弥も』
「今でもかわいいじゃない」
『嘘つけ。最近は小生意気になった』

言えば、なにそれ、と笑った。
洗面と着替えを済ませて食堂(みんなでご飯を食べる居間)へ。
少な目の量をお願いして、テレビの近くを陣取った。情報収集のいい機会だ。

文弥が後から隣に座った。ご飯の量を見て少し驚いた。
文弥といえば、体の線はうすく、ご飯もそこまで食べる子じゃなかったのに。今日は私の3倍ほどだ。
口に出しては何も言わなかったが、食べ盛りなんだな、と改めて感じた。そういえば前にあったときよりも背が伸びた。

『で、限は最近は大丈夫だったの?』

入った当初はとても手のかかる子だった。妖混じりでしかも統合型だ。それまでの周囲との関係性も彼を邪魔して、なかなか心を開かなかった。
異能者の集まりといえど、限の存在は珍しかったのだ。

「まあ、ボチボチかな。限の監視役に翡葉さんがつけられてるし」
『そう。翡葉は限に対してあたりがきついからなあ。大丈夫かしら』

お味噌汁を飲むと、寝起きでかたまっている体内に染み渡るようだった。

「リンは少し痩せたね」

何かあったの?
言いながら、文弥も淡々と食事をしている。

『まあ色々とね』
「体調悪いなら見てもらう?」
『あんたのそういう察しのいいところ、昔から買ってるわ』

素直に嬉しそうに笑う文弥に、昔の面影が垣間見えた。

『けど、あんまり知られたくないの。だから救護班のお世話にはならない』
「それじゃあ体調管理担当としては戦闘に出せません」
『そういう融通がきかないところはキライ』
「嫌いでもなんでも」

これではどっちが年上なのかわからないな。なんて。

結局は打開策になった。
救護班に診察はお願いしないが、救護班の一人である文弥が診る。
結果は秘密にしてもらう。

『住みにくい本拠地ですこと』

けれどそれは別にイヤではなかった。
手に負えないと見放されるより。
暗闇の中一人ぼっちより。




prev/next
back


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -