35最終手段にはかなわない
しばらく正守とは曖昧な関係が続いた。
まあ、今は裏会の方が忙しいからそれでもよかった。
私も、たぶん正守も。
裏会の方ではいろいろと動きがあったが、ついに扇一族が落ちた。
総帥一味の仕業だ。
『ねえ、正守』
十二人会―――今は席が空き、一桁の人数に減ったようだが―――の緊急招集があったようで、正守はすぐに夜行を発つ様子だった。
それを引き留めたのは、とても嫌な胸騒ぎがしたから。
『私も行くわ』
用意は急いで済ませた。
一通りの戦闘道具を装備し、エネルギー補給も万全だ。
「ダメだ」
正守に反対されたが、それは予想通りだったので構わず後ろを歩いた。
『嫌な感じがするの。絶対何か起こる』
「ダメだ」
聴く耳もたずの正守の前に回り込み、無理矢理こちらを向かせた。
『お願い、行かせて』
危険なのはわかる。
私が行ったところで戦力の足しにならないのもわかる。
正守が望んでいないこともわかる。
でも、それでも。
知らぬ間に正守が死んでしまうかもしれないと思うと―――怖いと思った。
正守がいない夜行はイヤだ。
まっすぐ正守を見つめていると、正守が困ったようにため息をつくのがわかった。
この最終手段―――ただのおねだり―――は正守に有効なようだ。
「わかったよ。どうせダメって言ったってついてきそうだし。それならいっそ目の届くところにいてくれた方が助かる」
『なんか子ども扱いされてるみたいで失礼ね』
「子供のおねだりと変わんなかったよ、さっきの」
言いながら、正守は痛いくらいに私を抱き寄せた。
「精神支配にきくかわからないけど、一応結界はるから。……死なないで」
わかってる、死なない。
正守も死なないで。
正守に負けじと、私も強く強くその人を抱きしめた。
案の定、総帥勢力が裏会総本部に攻め入ってきた。
正守が総本部全体に結界を張っていたようだが、上空から剣が落とされ、少しずつ結界が破壊される。
そしてすぐに、人が落ちてきた。
『扇家の人たちね、』
ここに来るまでに正守から扇家が落ちた時に、部下を奪われたのだと聞いていた。
近くでは幹部の人たちがでたらめな力で戦闘態勢に入っている。
黒兜が2体も出現し、いくら味方といえど幹部陣の人格にあきれていたところで。
『え、』
体が動かない。
何これどういうこと。
そこでようやく、総帥の精神支配を受けているのだと認識した。
ぞろぞろと周囲が動く方向へと私も動き始める。
誰かに勝手に体を動かされ、気味が悪かった。
でもなぜ意識を保てているのだろうか。
もしかするとみんな意識はあるのに、体の自由を奪われているのだろうか。
「リンっ」
正守の声がする。
ということは正守は操られていないようだ。
よかった。
安堵すると、少しだけ頭がさえた。
意識が保てているのは正守の結界のおかげだ、きっと。
なんてわかったところで何がかわるわけでもないのだけれど。
ごめん正守、一緒に帰れそうにないわ。
正守だけでも無事でいて。
心の中でそう伝え、流されるがままに身をゆだねた。
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