34再認識
夜行メンバーの避難先の段取りもひと段落したので、自室に常備してある一升瓶に手をかけた。中身はもちろん日本酒である。
どうせなら縁側で月見でもしながら、とフラフラ向かってみると、いい具合に月も出ている。
調理室から適当なツマミをくすねて、大振りのお猪口に酒をなみなみ注ぐ。
そのまま一気にお猪口を傾け、一滴も余すことなく飲み干した。
ああ、おいしい!
喉がかっと熱くなり、何とも言えない高揚感が押し寄せる。
2杯、3杯と同じように杯を傾けたのだが、今日は疲れているのかいつもより回りが早い。
調理室からくすねたスナック菓子を加えながら、物思いにふける。
正守の私に対する思いはわかった。
けど、私は彼に対してどう思っているのだろうか。
そもそも「好き」って、一体なんだ。
何度も考えているのだが、答えはまだ出ない。
『ああああ、もう!』
頭をくしゃくしゃにすれば何か思いつかないだろうかと実行してみたが、ただ髪がくしゃくしゃになっただけだった。
注いでも注いでも空になるお猪口がめんどくさくなって、いつのまにやら一升瓶をラッパ飲みする形になっていた。
ということに気付かないまま―――つぶれた。
「はあ、」
夢路さんのところから帰り、自室へ向かう途中に、ため息の原因があった。リンだ。
「ねえ、ちょっと」
呼んでも起きる様子はない。
すぐ近くに一升瓶が転がっているから、大方一升瓶を一気飲みでもしたのだろう。いくら酒に強いといっても一升を一気飲みはないだろう。
バカなのか? バカか。
自問自答でリンがバカだということを改めて認識し、だからといってこの状況がどうにかなるわけでもないので、縁側に転がるリンを抱き上げる。
『ん、』
「なんかあったの?」
一応話しかけてみるが、やはり返事はない。
彼女が酔いつぶれるほど飲むのは実は珍しかったりする。
ここまで飲む日は、大抵の場合が何か思いつめているのかうまくいかないのか。
リンの部屋の布団を敷き、部屋の主を寝かせる。
そのまま部屋を出ようと思ったのだが、―――目が釘付けになった。
透き通るような白い肌からは、以前のような病弱さはあまり感じられない。
日を増すごとに、美しさも増しているような。
無意識のうちにリンの頬へと手が伸びた。
ひんやりと冷たい。酔っているせいか、頬は少し紅潮している。
『好き、』
突然に放たれた言葉に、思わずドキリとした。しかしすぐに寝言だということがわかり、跳ね上がった心臓はすぐに降下した。
「まったく世話が焼ける」
最後の仕上げに布団をかぶせ、そっと部屋を出た。
リンは特別な存在だ。
その気持ちに変わりはない。
だが、今すぐにリンとどうこうしたいわけではなかった。
―――今は裏会の存亡をかけたこの戦いを終わらせる方が先決だ。
俺にとっても、たぶんリンにとっても。
だから、裏会が落ち着くまではこのままでいい。
そんな中途半端な気持ちが、リンを失う原因になってしまったのだろうか―――。
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