33理不尽な要求
正守の突然の告白の後、しかし彼は何事もなかったかのようにいたって平静を保っていた―――何度か刺客に襲われていることを除けば。
『ねえ、正守』
どう接すればいいのかわからず、このままだと任務にも支障が出そうなので、誰もいないころ合いを見計らって正守に声をかけた。
「どうかした?」
『……あなたがどうにかさせたんでしょ』
「ああ、あれ」
正守の部屋に適当に腰かけると、正守も机に向かっていたところをわざわざ私の方へ体を向けた。
いつ見ても仕事をしている。たまには休めばいいのに。
『こういう時ってどうすればいいの?』
一番聞きたいところを正守に聞けば、クスと笑われた。
『なんで笑うのよ』
「いや、だってさ。普通俺にそういうこと聞く?」
『じゃあなに、美希に「正守に告白されたんだけどどうすればいいの」って聞けばよかった?』
「まあ、大抵の人はそうするだろうね」
『……大抵の人じゃなくて悪かったわね』
なんだか恥ずかしかったので、少しムッとして返答をする。
正守を盗み見ると、やはり笑っている。
「いいよ、今までのままで」
『え、でも、』
「リンの未練がなんなのか、それがわかったら俺にも教えてよ。この前の続きはその後考えればいいから」
なんだか納得できない上に私の未練を探らなければならず、しかもそれを正守に教えなければならないときた。
理不尽なことこの上ない要求だ。
「ところで、次の任務についてなんだけど」
嫌よ、と拒否するために口を開いたのだが、声に出す前に正守が話題を変えてしまった。
絶対教えない。心の中で誓いを立てる。
『次はどこへ行くんですか。生まれ故郷以外ならお供しますけど』
裏会が物騒なので、夜行副長である美希の計らいで、私が正守の護衛をしばらく務めることになっている。
ちなみに何度か刺客には襲われている。
「いや、それがさ。しばらくリンはお休み」
『……へ?』
「ちょっとお偉いさんの所に行くんだけど、部下を連れてくるのはダメらしいんだよね」
ポリポリと頭をかくその仕草から、目の動かし方から、嘘が混ざってるな、と感じた。
感じたけどまあ今にはじまったことではないし、こういう時は気づかないフリをするのが私と正守の仲だ―――私が気付いていることに正守は気が付いていないのかもしれないが。
『最近休みなかったし、ちょうどいいかな〜』
実際のところ、奥久尼さんのところで治療をした後は、本当に体の調子が良くて、加えて正守に張り付いた任務だったため、休む暇もなかった。
「帰ったらまた知らせる」
正守の言葉通りにはいかなかった。
私が休みだということを知るや否や、美希が私のところへ飛んできて「手伝って」と一言。
今にもパンクしそうな様子だったので、何がそんなに忙しいのか聞くと、夜行メンバーの一時避難先を調整する仕事が美希に丸投げ状態だという。
『うわあ、そりゃあ大変』
「夜行の半分以上が避難するっていうのに、困ったものよ」
『わかったわ、それは私が手配するから。……美希は他の仕事もあるんでしょ、どうせ』
美希の握っていた書類もごっそり受け取り―――というか奪い取り―――今は人がいないであろう会議室で作業をしようとしたところで、井戸端会議のように美希に引き留められた。
「そういえば、頭領とはその後どうなの?」
ギクリとその場に固まった。
「うまくいってないのね?」
『いや、そういうわけじゃ、』
「白状した方がいいわよ」
そこで都合よく「大抵の人はそうするよね」という正守の言葉を思い出し、人目が無いことを確認してからコソコソと美希に一部始終を話した。
「……やっぱり頭領って、春日さん贔屓かと思いきや、本命はリンだったのね」
なんて聞こえてくるものだから、『なんでやっぱりなのよ』とかみついた。
「昔から特別な感じだったじゃない」
『そんなことない』
特別な感じってなんだ。特別な感じって。
別に私は正守を特別に思ったことなんてない。強いて言うなら考えることが似ていて居心地がいいくらい。
『ほら、これ片づけないといけないし。その話はまた今度ね』
作業は自室にこもってやる方向になった。
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