鏡花水月 | ナノ
30男心に振り回されて

『閃ごめんて』
「……」

朝から謝っているのだが、閃はなかなか許してくれない。

烏森の力が暴走し、私をはじめ妖混じりの面々も暴走してしまった。
私は暴走すると男性を見境なく氷漬けにしてしまうようなのだが、今回は閃が被害を被ったらしいのだ。
良守君にも手を出したが、そっちは未遂に終わったようで助かった。

そのうちに朝食の時間が終わり、学生組は学校へ行ってしまった。
結局一言も交わさず―――目さえも合わせてくれなかった―――私も次の任務のために烏森を発たなければならなかった。

『はあ、』
「ま、あんまり気にするなよ」
『いや、気にするなと言われても気になるでしょ。なんであんなに露骨に、』

あ、まさか。

『もしかしてファーストキスだったとか?』
「そりゃあないだろ」
『ですよね〜』

一緒に烏森を離れる巻緒と言葉を交わしながら烏森支部のアパートを出た。
文弥と絲も一緒だ。

「ほら、リンって完全変化するととても魅力的になるじゃない?」

とは文弥から。

『私はいつだって魅力的よ』
「……完全変化するといつもに増して魅力的になるじゃない?」

多少なりボケたつもりだったが、面倒だったのか素直に言いなおされて勢いがくじかれる。

「閃も魅了されたんだと思うよ、リンに」
『あら、かわいいわね』
「けど閃は、一瞬でも魅了されたことに何か感じるところがあったんじゃないかな」
『へえ、そんなもんかね』

蜈蚣との集合場所では、すでに蜈蚣が待っていたので、話はそこで打ち切りとなった。





夜行本拠地では、任務に備えてバタバタと人の動きがあった。
少しだけ準備を手伝ったが、すぐに任務内容の確認ということでお呼びがかかった。
巻緒が烏森任務から一時抜けたのもこの任務のため―――扇一郎討伐任務だ。

「リン、体調は?」

それはいろんな意味合いが含まれていた。
病み上がりの体は無理していないのか。
烏森での暴走が影響して体に不調がないのか。
扇一族との戦闘に参加できるのか。

『大丈夫。戦えるわ』

それが合図だったかのように、緊張していた正守の顔が少し綻んだ。

「よかった。暴走した話を聞いて心配した」
『……どうしたの、今日はやけに素直ね』

急に、正守が死ぬのではないかという不安に駆られる。
俗に言う死亡フラグというやつだ。
まさかね。

『正守こそ、死なないでよ』

けど心配だったので一応口に出しておく。
それに対して正守からの言葉での返答はなく、ただ笑って―――抱きしめられた。

『え、』
「ごめん。少しだけ」

なんだ、どういうことだ。
心は動揺したのだが、弱っているようだったので、今だけ甘えさせてあげることにした。

「厳しい戦いになると思うけど」
『大丈夫よ。生きながらえた命、大切に使うわ』

いつまでこのままなのだろうかと考え始めたところで話声が近づいてきたので、何事もなかったかのように離れた。
正守との関係性がなんなのか、判断に困った。






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