鏡花水月 | ナノ
31違和感の始まり

扇一郎の討伐任務は、予定通り開始された。
扇一郎が隠れている寺は風源寺というらしい。
一族そろって自己顕示欲が隠し切れない、と誰かが言っていた。

寺のよく見える向かい三方向の山中と寺の背後の頂上付近及び上空に人員を配置し、寺を囲む形をとる。

頭領の指示のもと、人員も編成された。
私は正守と一緒に中央突破組に入っていた。

遠くからみるだけでも扇家の人がたくさんいるようだったから、戦いなれた人員にしたかったのだろう。
私の他にも戦闘班の上級クラスばかりが配属されている。

正守が絶界で正門を突き破ったのが、開戦の合図になった。
正門をくぐるとすぐに、正守は扇一郎が隠れていると考えられる奥へと向かった。
私もそれを追って奥へと向かう。

腰に差している短刀を引き抜くと、妖混じりの好戦的な血が騒いだ―――今回は妖混じりの力は使わなくても済みそうなのだが。
1人、2人と刀を振るうごとに、戦闘の感覚がよみがえった。
そういえばこんなに調子がいい戦闘も久しぶりだ。

『正守、あそこじゃない』
「ああ、」
『ここは引き受けるから先に行って』

離れの前にも10人ほどが配置されていた。
正守は絶界で先へ進み、あとを追わないように私が残された戦闘要員を始末する。

どうにか全員を片づけ、正守のもとへ向かうと―――ちょうどその人がしゃがみ込んでいる。

『ちょ、正守』

慌てて正守の所へ駆け寄ると、珍しく動揺している。
離れで何かあったのだろうか、と離れを見たのだが。
先ほどまで立派に構えていた離れが跡形もなくなっている。

『え、離れは?』
「……嵌められた」
『どういうこと?』

説明を求めたところで行正もやってきたので、帰りながら話を聞く運びとなった。





奥久尼に嵌められたのでは、と考えていたが、その奥久尼が暗殺されたというニュースはすぐに届いた。扇一郎討伐と時を同じくして暗殺されたようだった。

扇一郎、奥久尼と裏会十二人会のうち2人が同じ日に殺されたため、緊急で総会が開かれ、正守も参加を余儀なくされた。
正守が帰ってくるまでは任務もないので、美希に話をきいてもらっているところだ。
一般的にはこれをサボリという。ここでは少し濁して休憩ということにしよう。

『私と正守の関係って何なのかな』
「今さらどうしたの」

きっかけは、昨夜の任務前だ。
正守がやけに素直だった。
ごめん少しだけ、と言って彼は私を抱きしめた。

そういえば前にも一度、まだ夜行が創設される前に同じようなことがあった。
当時は深く考える必要はないとすっかり忘れていたのだが。

正守にとって私の存在は何なのだろう。
落ち着く存在? 慰めてもらう存在? 考えが似ている同僚?

「へえ、リンも隅に置けないわね」
『私は隅に置けないわよ。みんなの理想のお姉さんだもの』
「はいはい。それで、理想のお姉さんは自分の気持ちが分からないというわけね」

茶菓子に手を付けながら、美希の言葉に首を傾げた。

『いや、自分の気持ちがわからないわけじゃないわよ』
「じゃあ、頭領のことどう思ってるの?」
『どう思ってるのって、どうも』
「……」
『だって正守よ? 一緒にいすぎて、』

美希が盛大にため息をついたのがわかった。
なぜだ。

「バカね。なんで「どうも思っていない人」が自分のことをどう思っているのか気になるのよ」
『ん?』
「頭領がリンのことをどう思っているのか気になるのは何故?」
『たしかに。……なんでだろう』

もう一度ため息をつかれたことは言うまでもない。





しばらく自分の感情と向き合う日々が続いたのだが、答えが出ないまま次の任務に出ることとなった。

『正守の護衛!?』

そんなものいらないでしょうに。
とは口には出さなかったが、顔に出ていたのか正守も苦笑した。

「いや、俺も必要ないって言ったんだけどさ」

裏会十二人会の幹部たちが次々と殺されており、危険に感じた我が副長美希が、正守に身辺警護で1人でもいいからつけてほしいと心願したそうだ。

『それがなんで私なのよ』
「ほかの任務との兼ね合いがないでしょ」

ああ、確かに。
いつもは夜行本拠地を離れた任務が主で、病み上がりの現在は単発任務をこなすだけの毎日だ。
烏森支部に派遣されていたり裏会に派遣されていたりといった人は通常任務との兼ね合いがあるが、私は現在フリーで動ける。
美希に正守とのことを打ち明けた後だったので、裏で糸を引いている気もしなくはないのだが。

『わかったわ。それじゃあ、支度してまた来る』

とりあえず正守の部屋を出て、深呼吸してみた。
なんだろう、これ。
胸のあたりに違和感がある。病気とはまた違うなにか。

私の中で一体なにが起こっているのか、知る人がいるのなら教えて欲しいものだ。




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