28いざ烏森へ
久々にこの地に足を踏み入れた。
前来た時は不安だらけだったのだけれど。
今は不安より、すがすがしい気持ちでいっぱいだった。
『いざ烏森へ』
一歩足を踏み入れたところで、着信音がなった。
画面をみずともわかる、絶対正守だ。
『はいはい』
「どう、調子は」
『どうもなにも、まだ一歩踏み出したばかりよ』
「無理しすぎるなよ」
『一体いつの話をしてるのよ。私は生まれ変わったの』
奥久尼さんのところで、荒療治に耐え、後遺症もとくになく、少しばかりのリハビリの後に夜行へと帰還した。
治療中も、奥久尼さんの所だったためか、情報には困らなかった。
むしろいろんな情報が入ってくる入ってくる。
「まあ今回は文弥もいるし、大丈夫だろうけど」
『何よそれ。私より文弥の方が信頼できるってわけ?』
「まあ、そうなるね」
この野郎め。覚えてろ。
悔しいので話途中で電話を切ってやった。
気を取り直して、いざ烏森へ。
裏会総本部から助っ人が来るらしく、その助っ人を追い出すための助っ人として、巻緒、大吾、武光が派遣されていたのだが。
閃からの要請で、まじない班が緊急招集された。
そこに、リハビリには丁度いい任務内容だ、とかなんとかいって私もおまけのように付け加えられた。
今日は既に文弥と絲が烏森を調べている。
『お疲れさま』
文弥は校庭のど真ん中で、堂々と何か模様を描いていた。
絲も近くで様子を見ていて、そのほか戦闘班の3人は校舎屋上で様子を見守っているようだった。
しばらくすると、烏森の結界師たちが到着した。
校門で彼らを待っていたのか、閃も一緒だ。
その閃の紹介で―――今では烏森の事情をよくしる人物として、正守に重宝がられている―――文弥、絲が紹介され、最後に私も付け加えられた。
ついこの間まで療養中だったことは、彼らの知る由のないことだったので、久しぶり、と軽くかわすだけで、巻緒たちが待機する屋上へと登った。
『彼がその子?』
「ああ。今の所、目立った様子は見せていない」
『まだ子供だけど、』
「戦闘能力はピカイチだよ」
実際に彼の戦う姿を見た、しかも戦闘班主任の巻緒の言うことだから、きっと彼―――氷浦蒼士は強い子なのだろう。
ただ、この短時間しか見ていないが、コミュニケーションがうまくいっていないようだ。もしかすると、裏会の特別な機関で養育された可能性もある。
『私も戦ってるところ見てみたいな』
「リハビリがてら戦ってくれば? 相手してくれるんじゃない?」
なんて無駄口をたたいているときだった。
ズン――――
衝撃が走る。
一瞬にして肌がざわつき始め、意図していないのに妖気が勝手に表へ顔をだした。
『っ、』
「リン? 大吾?」
巻緒の声が遠くに聞こえる。
すぐ隣にいるはずなのに。一体なにが起こって―――
プツリと音がして、意識が消えた。
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