22任務変更、潜入はそのままに
「どお。そっち」
突然かかってきた電話に出てみれば、電話口で正守はへらへらと笑っているようだ。
どこか疲れているようにも取れる。
『どおって言われてもねえ。いい情報はまだつかめてないわ』
ただいま、奥久尼さんの所に潜入中である。
扇一郎の情報を集めるために潜入しているのだけれど、一介の戦闘班である私に、しかも裏会十二人会の幹部の一人である扇一郎の情報を持ち帰るなど、無理のある話なのだ。
なんて考えたところで、任務放棄する理由にはならないのだけど。
「細波さん戻ってきたんだけどさ、」
私がこの任務に就いたころ合いで、細波さんが夜行に帰り着いたようだった。
彼とはまだ会えていない。
「今後も夜行で働いてくれるらしいんだよね」
『どういうこと?』
扇一郎に情報を流していたのは細波さんで間違いない、と正守から聞かされていたので、このまま細波さんの首は切るものだと思っていた。
「今ここで細波さんに抜けられると、いろいろと支障があるからさ」
『へえ。正守なんか変わったね』
そお、とだけ返ってきて、話はまだ続いた。
「でも、あの人夜行から抜け出そうとするもんだからさ。いまだに任務をお願いできなくて困ってるんだよね」
『あら。なんの任務を?』
「……扇一族を嵌めるネタを、と思って」
どうやら正守は本腰を入れ始めたようだ。
扇一郎をつぶしにかかっている。
『あの人は強いよ、きっと。あなた一人じゃ無理よ』
私も行くわ。
そう続けたかったが、言葉にはできなかった。
今の私が行っても足手まといになるだけだ。
戦闘中にまた吐血でもすれば、私をかばって正守も身動きがとれなくなってしまう。
「そうはいってもねえ」
『そういえば、細波さんに任務与えるなら、私は必要ないわよね?』
任務内容はまったく同じである。
扇一族を嵌めるネタを探す―――諜報班主任の細波さんに探らせるのだ、私に出る幕はないだろう。
「うん、まあそうなんだけどさ。リンにはそのままそっちにいてほしいんだよね」
『なんで?』
「実は、さ」
正守はおどけたように―――自分は傷ついていないように―――説明をはじめた。
正守指名で緊急出動要請があったこと
任務の内容は神祐地の修復だったこと
神祐地の破壊に、守美子さんが関わっていること。
墨村家が裏会任務から遠ざかったのは、守美子さんが原因だったはずだ確か。
裏会の最初の任務で、彼女は土地神を殺してしまったらしい―――正しくは、「元」土地神なのだが。
『わかった』
全ては語らなくてもいいわよ。
声だけでは感情は見えないが、この様子はきっと傷心なのだろう。
ああ見えて、家族思い、仲間思いの正守だ。
『探してみるわ』
守美子さんに関すること、神祐地に関すること。
正守の求める情報に近いところにいるのは、私だ。
「頼りにしてるよ」
正守は今更なことを口にした。
よっぽど追い詰められているのかしら、なんて。
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