23傷つけるのはきっと私ね
悪い知らせを耳にしたのは、守美子さんに関する情報を探っている最中だった―――正守を安心させられるようなものは見つかっていなかったが。
構成員が3名、命を落としたという。
電話の相手は夜行副長を務める美希だ。
『何があったの!?』
「羽振りのいい任務だったの。それで、若い子も一緒に任務に行かせたんだけど、土地神クラスの妖が2体も襲ってきたらしくて」
『土地神クラスの妖退治の任務だったの?』
聞けば、美希はため息をついた。
疲れているのだろう。
「いいえ。大きな妖退治とは記されていたけど、土地神クラスとはどこにも。仮に土地神クラスだったとしても、それが2体なんて」
1体はそ森の主、1体は出どころも定かではないようだ。
そしてどちらの妖も殺してしまった、と。
『……流れが悪いわ』
夜行の頭領である正守の母親に、神祐地狩りの嫌疑がかけられ、一方で夜行の任務で土地神を殺したとなれば―――。
夜行の立ち位置、そして正守の立ち位置が悪くなる。
『犯人は扇一族、か』
「え?」
『……これで得するのは彼らよ』
不意に、腹部から何かが込み上げてきた。
『ごめ、切る』
美希との電話を一方的に切り、込み上げてくる何かを右手で受け止める―――血だ。
『時間がなさそうね、』
はっきりと断言はできないが、たぶんこの不調は防ぎようのないものだ。
雪女の妖混じりや妖は、短命なことが多いそうだ。
死期が迫ると、こうして血を吐くようになり、雪のように静かに息をしなくなる。
自分の、雪女のことを知るべく、文献を読み漁った時期があり、その時に仕入れた知識だ。
それを知ったときは、とくに何も思わなかったのだけれど。
今は少しだけ、未練が残る。
未練の正体をつきとめると本当に未練が残って成仏できそうにないので、深く考えるのはやめておくことにした。
奥久尼さんの所に潜入中だが、3、4日に1度は夜行へ帰る。
潜入しっぱなしでもいいのだけど、たまには息抜きもしたい。
……諜報班の細波さんは、何日間も、いや何週間、何か月もこもっていられるすごい人だ。とこういう時思い知る。
「どうしよっかなあ」
土産に買ってきた大福に手をつけながら、彼は口を開いている。
細波さんから情報が入ったらしい。
奥久尼さんとの取引できるチャンスのようだけど。
『そんなこと言って、どうせ腹は決まってるくせに』
「……まあね」
既に返事までしている、という場合も無きにしも非ずだ。
『なんで私に返事を促すような聞き方をするのよ、決まってるくせに』
奥久尼さんは真実を見極めるという点では信ぴょう性に足る人物だと思う。
だから、正守はきっと彼女との取引を行うだろう。
今は―――みんなの仇をとりたい。
私と正守の考えは昔から似ていた。
「昔から、リンとは考え方が似てるから」
同じタイミングで同じことを彼は口にした。
「道を踏み外していないか確かめたいのかもね」
『……私に確認しても、正しい道になんて戻れな―――』
「正しい道じゃなくて、俺の進むべき道」
ニヤリと口角をあげた彼の顔を、久しぶりに見た気がする。
「正しくなくたっていい。後悔しない答えを見つけたい」
もう誰も、仲間を失いたくはないんだ。
小さく付け加えられた一言に、少し胸が締め付けられた。
その仲間に、私も入っているのだと思うと。
私はまたこの人を傷つけてしまうのだと思うと。
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