鏡花水月 | ナノ
15黒芒楼、終わる

絶界かとも思ったが、違うようだった。
良守君の意識がない。
力を使いすぎて混乱状態にあるのかもしれない。

『まいったな、こういったのは得意じゃないわ』
「どうすれば、」
「閃、リン」

正守の声がした。
振り返ると、蜈蚣に運ばれてくる人たちが見えた。
正守、行正、箱田くん、黄道さんと白道さん。それに墨村家のおじいさん。

「術者の意識が戻れば何とかなるかもしれない! どうにか良守をたたき起こせ! 俺は外からこじ開ける」

閃が必至に良守君を起こし、正守は外から強引に良守君の作った円の中に入り込もうとしている。

私も良守君起こしに加勢しようと試みたが、これ以上クールを装うのは無理そうだ。
体中が熱い。
雪女の性質上、炎縄印が発動するとその熱が体を蝕む。
簡単に言うと、相性が悪い。熱いのは苦手だ。

しゃがみ込んだところで、しかし良守君の創り出した「何か」が壊れた。

ゴワ、という音とともに平衡感覚を失い、私も閃も良守君も地上へと落下した。

「おっと、」

一番近かったのが正守だったためか、私は正守の結界に救助された。
閃も良守くんも無事である。

「頭領、平気ですかー?」

蜈蚣の声がしたから聞こえる。

「ああ、戻るぞ!」

正守の返事を聞きながら、隣で痛みが鎮まるのを待った。
しばらくじっと妖気を抑えれば、自然と炎縄印は消える。

「痛むのか、」
『うん、少し』
「……説教は後だ、この場所は崩壊しかけている」
『説教はなくてもいいよ』
「いいや、あとできっちり説教だ」
『ケチ』





何とか帰り着いたところ、時音ちゃんが良守君に盛大に平手打ちをかましていたので、どさくさに紛れて正守から距離を保っていたが、雪村・墨村家に到着したところでついに捕まった。

「で、なんで勝手に行動したの」
『……』
「みんな心配したんだけど」
『……』
「黒芒楼にうちのばか弟が自ら飛びこんでいったのを知って、慌てて人員を編成してたら、リンがいないことも発覚してさ」
『……』
「弟がバカなのはわかる。今に始まったことじゃないし。だけど、夜行内に、しかも幹部で命令に背くバカがいたとは、―――」
『はい。私幹部じゃありません』

少し異を唱えただけで、ギロリと睨まれた。
これは相当に怒っている。

「リンがそうやって反抗ばかりしてたら、下の子たちが真似するだろう」

どうすればこの空気から逃げ出せるのだろうか。
正座。正守は目の前に仁王立ち。今にも絶界を作られそうな雰囲気。
考えても答えは出ないので、もうこの態勢が30分も続いている。
そろそろ足がしびれてきた。

「頭領、そろそろいい?」

不意に声がした。文弥だ。
これは協力な助っ人がやってきたぞ、と期待の目で声のしたほうを見る。

「みんなが頭領の指示を待ってるよ。あとリンの炎縄痕も治療しないと」
「……」
『もうしませんごめんなさい』

素直に謝ると、正守もしぶしぶみんなの集まる方へと去った。

『ふう〜〜』
「自業自得だよ」
『助かった、ありがとう文弥』
「次同じようなことしたら、助けてあげないからね」

炎縄痕見せて、と彼が続ける。

『さっき見てくれたじゃない、大丈夫よ』
「仮にも頭領にああいったんだから、見てないと不自然でしょ」

変なところは律儀だな、と。





夜行本拠地へ帰り着くや否や、再び正守に呼び出された。
ちょうど酒でも飲むか、と成人組で集まっているところだったのに。
みんなに笑って送り出され、しぶしぶ正守の部屋へ行くと、まだご機嫌斜めの正守の姿があった。

「さっきひとつ言い忘れてた」
『な、なんでしょう』
「最近、完全変化しすぎじゃないの」

頭領の命に背いたこと以外になにか悪いことをした覚えがなかったので、その話題について納得した。
そういえば最近2度も禁忌を破った。

『ごめん、つい、』
「つい?」

もう目が吊り上がりそうな勢いで正守ににらまれる。
烏森が一件落着したんだから、少し休めばいいのに。なんで私のことを怒る時間に費やすのかなこの人は。

「完全変化が体に及ぼす影響を知ってて、つい禁忌を破るか、お前は」
『……』
「しかも、炎縄印との相性だって悪い癖に、どうして何度も何度も心配させるんだ」
『……ごめん、気を付ける、―――』
「リンを失いたくないんだ。……頼むから、無茶だけはしないで」

ああ、これは。
怒っているのではなくて、心配しているのだ。

『ごめん、浅はかだった』
「……わかったならいいよ。……生きててくれてよかった」

ありがとう、とその人は口にした。

『え、』
「文弥からの請負」

文弥からの請負ってなんだ。

「打ち上げするんだろ。リンが飲みすぎないように監視しないと」
『いや、飲むときくらい放っておいてよ』
「どんちゃん騒ぎして子供たちを起こすのはかわいそうだからね」

そんなこんなで正守も混ざっての、にぎやかな夜が幕を上げた。




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