鏡花水月 | ナノ
14二人のバカ

正守とのわだかまりが解決しないまま、「雪村家にいろ」という命しかくだらないので、こっそりと抜け出すことにした。
このまま黙って待つのなんて耐えられない。
正守のもと夜行の一メンバーではあるが、その前に私だって意志ある個人だ。

目的地は決まっている。
夜行メンバーが見張っている黒芒楼への入り口だ。

何をするかって?
そりゃあ、敵地に侵入して、本拠地からたたく。
といっても、黒芒楼は既に壊滅気味という可能性もある。
確証はないけど、彼らの首領が高齢で弱っているという話を耳にした。
だから烏森の地で力を手に入れようとしているか、または烏森を乗っ取ろうとしているのか。

どちらにせよ、一人で動くことには慣れている。
こっそりと潜入して、こっそりと敵の中枢をたたけば、烏森に攻め入った奴らは戻る場所も失うだろう。

「頭領に連絡だ!」

すぐ近くで聞き覚えのある声が聞こえる。
黒芒楼の動向を見張っている夜行メンバーが、正守へ連絡を入れるところだった。

『あれは、』

そしてそのすぐ上を、黒雲が通り過ぎていく。
見たところ、限を倒した男は―――いた。
黒いとげとげの髪に、黒いメガネをしたスーツ姿の男。
火黒とかいったかな。

けどどこか雰囲気が違うような気がする。
まあいい。
今彼ららが入り口から出てきたということは、まだ侵入経路は開かれたままだ。
今しかない。

夜行メンバーの監視もすんなり掻い潜り、黒芒楼へと歩き始めた。




手加減はいらない。存分に暴れろ。ただし条件が一つ。犠牲はだすな。

そんな命令を下した。
犠牲は限だけで十分だ。もうこれ以上仲間を失いたくはない。

実際のところ、攻めてきた妖たちには十分に対応できた。
むしろ一瞬で片が付いたほど。
だが、リンを瀕死の状態にし、限を死においやった「火黒」とかいう奴の姿は見当たらなかった。今回は参加していないようだった。

そして、烏森に攻めてきた黒芒楼を一通り倒し、怪我人を運んでいた時、それは知らされた。

「正守さん!! 良守が……いません!」

加えて閃も姿を消したとの報告があがってきた。
斑尾をなんとかたたき起こし、事情をきくと自らつかまって黒芒楼に向かったようだ。

「あのばか、」

言いつつ、刃鳥に連絡を取る。
動ける人員を集めて黒芒楼へ向かう手はずを整える。

「リンはそっちにいるだろ、連れていく」
「わかりました、一緒にそちらへ向かわせます」

今回は烏森での戦いになるため、リンは戦闘から外している。
もう少し休ませてあげたかったが、黒芒楼へ行くには十分な戦力だろう。
はじめての土地に対する心得もわきまえている。

黒芒楼への入り口―――時子さんが作ってくれた抜け道―――へ向かう途中で、再度刃鳥から連絡が入った。

「どうした?」
「すみません、リンが見当たらないんです」
「なんだって、」

どういうことだ。
戦闘では姿をみせなかったはずだが、

「戦闘中は誰も姿を見ていないようなので、烏森にいる可能性は低いかと思いますが」
「……うちにもバカがいたか。たぶん黒芒楼に一人で乗り込んだな」
「え!?」
「いい、そのほかでメンバーを選ぶ」

それだけ言って電話を切った。
もう少しで時子さんの作った入り口だ。





黒芒楼についたときには、すでに崩壊が始まっていた。
崩壊が始まっていた、というよりは誰かが崩壊させている。
2箇所から煙というか騒ぎが聞こえるから、侵入者は2人以上いるのだろう。誰だ。

崩壊者を発見する前に、敵の妖を見つけてしまった―――火黒。

今の私の力じゃかなわない。
だけど、あいつを倒さなければ黒芒楼の崩壊はできないだろう。

『しかも見つかってるし、』

既に目があっていた。
ニヤリと笑っているのがわかる。

「よお、あんた生きてたんだ」

一瞬で間合いを詰めてきた。

『とどめを刺さずにいてくれてありがとう、火黒さん』
「ふん、」
「リン!!」

遠くから閃の声がした。

『なんであの子、』

音を立てて火黒と私の刀が交錯する。
カン、カン、カン
その間隔は早く、少しでも気を抜けば―――殺される。

氷の足場を作り、火黒と間合いを取ると、閃の他に良守君もいた。
一体なぜ彼らがここにいるのか。

『何してるのよ』
「そっちこそ。戦闘には参加しないんじゃ、」

くる!!

「ちょっと、余所見している暇があるのかい」

火黒の刀が首のすぐ近くまで力で押された。
それを何とか振り払い、態勢を立てなおす。

『こっちにもいろいろと事情があるのよ』
「俺は、そっちの子と遊びたいんだけど」

一瞬、ものすごい妖気に包まれた。
その反動で一気に城の壁へと投げ飛ばされた。

『っ、』

「リン、」

しばらくして閃の声が近づいてくる。
どうやら助けに来てくれたようだった。

『ありがと、』

起き上がるのに手を貸してくれたので礼を言うと、どう返していいのかわからないような顔をされた。

『火黒は』
「今良守が戦ってる」
『……、一人じゃ無理ね』

服についてホコリを払いながら深呼吸をした。
良守君と一緒に戦ったことはないが、合わせられるだろうか。

「ねえ、あれに混ざるの」
『そうよ、あの火黒を倒さないとここは落ちないわ』
「……俺、」
『無理は禁物よ。自分にできることをやんなさい』

閃の気持ちもわかる。
戦闘に混ざりたいというのが半分。でも彼はきっとうすうす自分の適性に気づき始めている。

『大丈夫、良守君は私が守るわ』

閃はまだ迷っている顔だった。





『私も戦わせて、良守君』

火黒の隙をついて、良守君との接触に成功した。
そのの横顔は、どことなく正守に似ているな、と感じた。

『攻めるわ、隙をついて』

言うが早いか、動くが早いか。
良守君の返事はとくに聞いていないが、まあ大丈夫だろう。

再び腰の刀を抜き、火黒と対峙した。

「別に俺はお前と戦う気なんざ―――」
『これでもそういってられるかしら』

妖気を解放した。
辺り一面の温度は急激に下がり、湿度さえあれば雪が降るだろう。

「リン、完全変化は、」

静止の声は聞こえないことにしている。

切りかかってはかわされ、切りかかられてはかわした。
時折良守君が結界で囲むが、すぐにそれは破られる。

「こわいねえ、あんた」
『男を見ると氷漬けにしたくなるのよね、』

しかしじわじわと炎縄印が作動し始める。
もういい加減この印をといてもらいたいものなのだが。

キリキリと痛みが全身を襲い、一瞬眩暈が襲った。
その一瞬を彼―――火黒は見逃さなかった。

「これで終わりだっ、」
『しまっ、』

声を漏らしたのは、切られると感じたからではない。
目の前に、閃が飛び込んでいた。

『閃、』
「こんなの柄じゃないってのに、」

切られる、そう感じた時―――

一瞬で辺り一面が真っ白になった。
同時に火黒の姿も、消えた。






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