13守られてばっかり
「そこまでだ良守」
階下では、夜行メンバーが弟君の作った結界に拘束されていた。
そこを、正守が止めに入っているといった状況だろうか。
夜行の本拠地を一時的に烏森へと移すことになった。
今日はその初日。
みんなで烏森へと降り立ったのだが、正守が話していなかったようで、弟君こと良守君に夜行のメンバーが捕らえられた。
「反応は良くなったが、相変わらず思慮が足りないな」
それが合図だったかのように、つかまっていたメンバーが次から次へと結界を破る。
もしかすると弟君の集中が切れたからかもしれないけれど。
「ひどいなあ、ちゃんと弟さんに説明しといてくださいよ」
正守がいくつか説明をしたのち、何人かは一緒に烏森の警護にあたり、残りのは今後お世話になる雪村家・墨村家へと向かう。
私は後者だったのだが―――正守と文弥から烏森には立ち入るなときつく言われている―――、やはり一言は謝っておくべきだと思い、勝手に蜈蚣の上から烏森へと降り立った。
『二人とも、ちょっといい?』
弟君こと良守くんと時音ちゃん。
「リン?」
「よかった、意識戻ってたんですね」
第一声がそれだったので、なんだか頭領のルーツに出会えた気がした。
烏森って、土地が異様な分、携わる人は温かい人が多いんだな、なんて。
『ごめんね、私が火黒に負けたから、』
リンは悪くない。
強い口調が私の言葉を遮った。良守くんだ。
「俺たちも、リンが一人で戦ってるの助けてあげられなくてごめん。怪我までさせちまって」
『なんであんたが謝るのよ』
「だって、」
『ありがとう』
二人の頭にぽんぽんと手を置いた。
やさしいのね、二人とも。
「リン、行くぞ」
正守に見つかった。お暇の時間である。
『じゃあ、ごめん、私は今日は警護班じゃないから、時音ちゃん家にお邪魔してます』
「あ、はい、ごゆっくり」
手だけ降ってその場を後にした。
正守がやさしいのは、きっと遺伝なのかもね。
前を歩くその人の背中を、そっと見つめた。
幹部ミーティングは、墨村家の一室で行われた。
重要な話のときは、正守が結界を張って―――間流結界術は防音対策にもなる優れもの―――行われる。
そんなある日のミーティングにて。
「リンは外れろ」
それは容赦なく言い放たれた。
『なんで』
「この前の傷がまだ完治していないだろ」
『完治してなくてもこれくらいならいつも戦ってるわ』
「いつもはよくても今回はだめだ」
『嫌』
「ダメなものはダメだ」
黒芒楼が来た時の配置についての話をしていた。
限を死なせたのは私だ。
だから敵討ちとは言わずとも、黒芒楼に一太刀でもと考えていた。
『納得いく答えがないなら、私は正守のいうことなんて守らないわ』
「リン、」
『意気地なし』
「……戦闘には出さない」
しばらく睨みあいの末、口を開いたのは美希。
「続きは後にしましょう。このままじゃ埒があかないですし」
ごもっともな意見に、しぶしぶうなずき、会議の先を促した。
その点正守は大人で、その後の会議の内容も申し分なかった。
ただ一点、私を戦闘から外すという点を除いては。
『なんでよ』
美希のいう通り、会議が終わるまで口を挟まなかった。
「傷が完治していない」
『だから、それはいつも―――』
「前回の戦いで、内臓まで損傷していたと聞いたが、それはほんとに烏森だけで受けた傷か?」
『そ、れは、』
実を言えば、烏森で戦う前から不調は続いていた。
体内のどこかしらが痛むこともよく起こり、ご飯が食べられないこともしばしば。
文弥にはそれを勘づかれ、治療はうけたが、みんなには黙っていると―――
「文弥からは報告を受けている」
『あのばか、』
「どっちがバカだ」
少しだけ怒気を含んだ正守の声に、一瞬ひるんだ。
「完治するまでおとなしくしてろとまでは言わない。だが、原因がわかるまでは烏森には近づけたくない」
話は以上だ、と言わんばかりに正守が部屋をでた。
部屋に一人取り残されたので、くそう、と少し横になった。
悔しい。
限を死なせてしまったことも、限の敵を討てないことも、自分の体のことも。
悔しい悔しい悔しい。
泣いたところで何が解決するわけでもないのに。
強くなったって、それに耐えうる体がなかったら、何の意味もない。
誰一人、守れやしない。
私はいつも、守られてばっかりだ。
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