鏡花水月 | ナノ
12今はまだ
限のこと守れなかった。
限はまだ死ななくてよかったのに。
せっかく良守くんや時音ちゃんと仲良くなれていたのに。
せっかくできたお友達だったのに。

一方的に話した。
正守が口を挟むと、お前のせいじゃない、とか俺が悪い、とかいうだろうから。

『あいつ、限のこと気にしてたんだよね。もしかすると、仲間にしようとしていたのかも』
「……黒芒楼が攻め込んでくる前に、限と電話してたんだけどさ」

不意に正守が口を開く。
慰めではないだろうから、発言を許可した。

「限の情報が黒芒楼に漏れていたらしい」
『え?』
「東北の任務と黒芒楼とあまりにもマッチングしてたから、嵌められたかもって思ってるんだよね」
『扇さんに?』
「そう」
『……さすがにそれは、』
「ないだろうと思う? 俺もそう思ってたんだけど、限の情報が漏れていたとなると、少し探る必要がある」

もしそうだとしたら。
なぜそこまで夜行に不利なことをするのだろう。
裏会として、異能者の集まりとして、いがみ合う必要なんてないのに。

『嫌なところだね、裏会ってやっぱり』

ため息交じりにそうつぶやくと、そっと肩をだかれた。
俺が裏会を作り直すよ、と。

『正守のそういう野心たっぷりなところ、好きよ』
「そりゃどうも」

しばらくして、傷跡が痛み出したのでしぶしぶ帰路についた。
帰路についたといっても正守に終始運んでもらっただけなのだが。





夜行では、本拠地を一時的に烏森へ移動する準備でみんながバタバタ動いていた。
私も手伝うべきなのだろうが、結局はほとんど手伝わなかった。
みんなと顔を合わせるのも少し億劫で、あとは次の襲来に備えて体を動かさないといけなかったから。
限を守れなかった自分が情けなくて。悔しくて。
もっと強くなりたい―――。

『っ、』

雑木林の中で刀を振るっていた。
周囲に生えている竹を切り落としながら、あの日のことを思い返していた。

スピードはついていけていた。
持久力さえどうにかなれば、―――

『あれ、』

そういえばあの時、私は血を吐いた。
火黒に刺される前に、だ。
しかも火黒が言っていた「寿命」というのも気になる。

確かに雪女の妖混じりの寿命は人より短いと聞く。
現に、私の祖先にも雪女の妖混じりが多く生まれていたと聞くが、みんな短命だったようだ。
しかしそうはいっても、せいぜい人の寿命の半分くらいで、私にはまだ―――。

死ぬのかもしれない、近いうちに。
今までも体調が悪い日はあったが、烏森に行ってからは毎日体が重い。
疲れが取れ切っていないような感じ。

『はああ、やめやめ。辛気臭いのは今はいらない』

再び刀を握り、竹を切った。
今はただ刀を振って、いろんなことは忘れてしまおう。
今はまだ。




prev/next
back


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -