にゃんにゃんぱんち!


上手な猫の手なずけ方の続編



暖かな日曜日の午後。久々に持ち帰ってきた仕事も、整理すべき資料もないのんびりできるはずの穏やかな休日。なのに俺は盛大に困っていた。それはもうものすごく。


(うーん、どうしたものか)


目の前で火花を散らす一人と一匹を眺めながら、俺はマグカップにココアの粉末を入れた。ソファに足を組んで座った来客、俺の兄であるエースと、陽当たりのよいベランダの傍に座るうちの飼い猫、ゾロは元々仲が良いとは言えなかったけれど、まさかこんなにも険悪ムードむんむんになるとは思わなかったのだ。俺は軽く溜め息を吐きながら、真っ赤なマグカップと真っ青なマグカップにお湯を注いでお盆に乗せた。


「はい、エース」

「お、あんがとよ」


俺が近づけば途端に上機嫌になったエースは、わしゃわしゃと俺の髪を撫でてついでに、とでもいうようにぎゅうーっと抱き着いてくる。瞬間、後ろにいるゾロの尻尾がぶわわっと膨れ上がったのがチラリと見えた。


「あー、やっぱルフィかわいい」

「おいエース!」

「いいだろたまには。久々なんだしよぉ」


エースは海外への長期出張が多い。だからこうやって会えるのは本当に久々で。


「また明日からも海外なんだぜ?ちょっとくらい兄ちゃん気づかって甘やかせてくれ」

「俺は別にいいんだけどよぉ」


うーん、と顔をしかめているといきなり腕を引かれてエースから引き剥がされた。


「うわわ」


体勢を崩した俺はそのまま引っ張られる方向へ倒れ、気づいた時にはポスン、とゾロの腕の収まっていた。「ゾロ?」と目をきょときょとさせる俺を放ったらかしにして、ゾロは威嚇するように尖った犬歯を覗かせる。少しだけ毛を逆立てた尻尾を床にタシタシと叩き付けているのを見る限り、かなり機嫌が悪いようだ。


「勝手に俺のルフィにくっつくな。変態ブラコン野郎」

「あぁん?てめぇこそ猫じゃらしにでもじゃれてろよ、ねーこーちゃん」

「っ!てめっ!もっぺん言ってみろこの野郎!!」

「上等だ!表出ろコラ!!」


あぁ、あぁ!俺の休日がドンドン悲惨なものになっていく!今日は静かに!和やかに!嬉し楽しい時間を過ごす予定だったのにーー!!!

そんな数時間前の予定を思い浮かべながら、俺は今の現実を見ぬように静かに瞼を閉じた。











にゃんにゃんぱんち!
(ネコにも譲れない戦いがあるのです)











なんとか喧嘩も収まり、エースが帰宅した後もゾロは至極機嫌が悪かった。ぶすぅ、と顔をしかめて体を丸める姿は可愛いけれど、あれは拗ねている証拠なので笑ってもいられない。


「ゾロ、どーした?」


丸くなるゾロの傍にしゃがみこみ、なでなで、と緑髪を撫でてやる。するとゾロはのそのそと起き上がり、ぎゅーっ、と俺の腰に抱き着いてきた。グリグリと頭を擦り寄せてくるのは甘えたい時だ。俺は小さく笑みを漏らしながら耳の付け根をくすぐるように撫でた。


「…………今日はルフィと二人きりでゆっくりしたかった」

「シシッ、そっか」


そんじゃあ来週は二人きりでゆっくりしような。そう言えばゾロは尻尾をゆらゆら揺らして顔を上げる。嬉しげに表情を弛めたゾロと同じように俺も笑って、不意打ちにちゅっ、と可愛らしい額に口付けた。











2012.04.07

( 19/51 )