Σ-シグマ-高校時代 | ナノ
類は友を呼ぶ


『……ついに来ました』





新しい制服に身を包み、やって来ました高校デビュー

目の前の門越しに見上げるのは、今日から通う高校の校舎だ。私は今日から高校生になる…人生が最も明るい、まさに青春と呼ばれる華の数年




『…まぁ、華やかな女子高生は我ながら期待していませんが』




たくさんの先輩、そして初々しい同級生が隣を通り過ぎる中、私は門の境界線で立ち止まっている

ここを越えれば…新しい生活が始まる。立派な大人になるための、私の生活だ




『……なってみせます、貴方みたいな、立派な大人に』




鞄を持っていない右手を見つめる

幼い頃、家族旅行先で迷子になった私を助けてくれたのは…顔も名前も思い出せないお兄さんだった


その彼との約束だけは今でも覚えている。誰かの手を引ける大人になるんだ、と





『それが私の意味です…よしっ』




覚悟を決めた私が一歩を踏み出そうとした、その瞬間―…






『え―…?』

「……………」

『……………』





突然、隣に影が並んだ

何だろう見上げればそこには、真っ赤な髪の男の子が立っていた


酷く目立つ長めの髪、前髪は顔を隠すほどで体格もいい。ただ逞しい見た目に反し、何故か彼は儚げで消えそうで…とにかく不思議、第一印象はそれだった





『あの……はじめまして?』

「……………」




私が話しかけると彼は顔を此方へ向け、ペコリとお辞儀してきた

どうやら初めましてで間違いはないらしい。しかしならばどうして、私の隣で立ち止まったのだろう




『貴方も新入生でしょうか?』

「……………」

『私もです。同じく高校デビューということでしょうか、お互い有意義な青春になるといいですね』

「……………」

『とはいえ、まだその一歩は踏み出していないようですが。まだ敷地内に入っていませんから』

「……………」

『……………』

「……………」

『…一緒に入りますか?』

「……………」




何も喋らない彼に若干引きながらも、私は何故かそんな提案をしていた

足を揃えて並ぶ。そして私が片足を上げると、彼も長い足の片方を同じように浮かせた




『では……せーのっ』

「……………」





とんっ…


掛け声で合わせた私と彼の足は、同時に門の境界線を越えて着地する。晴れて高校デビューを迎えた私たち

なんだか感慨深いなと感じれば、隣の彼が両手を私に向けていた。えっと…




『い、いえーい』

「……………」




ぺちんっ


次にテンションの低いハイタッチを交わした私たち。それに満足したのか彼は、そのままトコトコと校舎へ向かって行ってしまった


………………。




『…妙な高校デビューをしちゃった人なんでしょうか』




去り際の彼の口元は、少しだけ笑っているようだった














「―…以上をもちまして、新入生代表の挨拶とさせて頂きます」

『……………』




体育館に鳴り響く拍手の音の中。颯爽と席へ戻る女子生徒が一人

入学式で代表挨拶をする彼女が、今年のトップ合格者らしい。ふわりと髪を靡かせる凛々しい横顔を見つめる


いい意味で高校生には見えない。スタイル抜群、その大人っぽい雰囲気に周囲は惹き付けられていた




『…私とは月とすっぽん、正反対ですね』




次元の違う存在だと、その時は彼女をそのようにしか見ることができなかった











『……あれ?』

「…………」




つまらな―…いや、長い入学式も終えた私は、休憩時間をふらふらともて余していた

とはいえ、今日はもうお開き。所々で部活の勧誘が始まっており、興味もない私は帰ろうかと教室へ向かっているところだった


そんな中、見かけたのは―…代表挨拶の彼女。じっと紙を睨みながら首を傾げている




『……………』

「……………」

『……………』

「……………」

『……あの、』

「ん?」

『っ、あ、いえ、』




声をかけた瞬間、彼女がこっちを向いたから思わずたじろいだ

同姓と話すのが特に苦手な私。しかも相手は月とすっぽんの月側の人、話せる自信は皆無だ





『……何を、見ているのかと、思って』

「ああ、部活のリストだ。なかなかいい部がなくてな…困っていた」

『そう、ですか…』

「お前はどの部活に入る?」

『えっ…あ、いえ…私は…』

「あ―…いや、すまない。入学してから声をかけられたのは初めてだったからな、怖がらせたか」

『いえ、お気になさらず』




正面から見た彼女は、やはり美人だった。少し男勝りな口調も彼女ならカッコよく思う

代表に選ばれる程だ。中学時代は勉強だけでなく、部活でも賞を総なめにしていたのだろう




『私は入るつもりはありません…帰宅部予定です』

「きたく部?どのような部活だ、運動部か?」

『…………は?』

「初めて聞く名だ、興味深いな…紹介してくれ、私も入るかもしれない」

『おぉふ…!』




え、彼女は本気で言ってるのだろうか?あれだ、帰宅部って名前そのままに帰宅する無所属学生のことだ


…本気というなら彼女は、かなりの天然さんかもしれない




『いえ、帰宅部は貴女のような文武両道才色兼備には似合いません、やめといた方が賢明です』

「いや、もともと入りたい部活は無さそうだ。一覧に載っていない裏の部活…高校とは恐ろしい」

『私は貴女が恐ろしいです』

「っ…やはり、怖がらせていたのか…!」

『いやいや違います、怖くないです、大丈夫です、むしろすみません』

「そうか、平気か…ありがとう」

『っ………!』




今の、ありがとう、に驚いた

私とは正反対な彼女。容姿端麗、成績優秀、非の付け所なんかありはしない


けど月側の彼女にも、それなりの悩みがあるのだろうか?





「あ、女子生徒っ!!」

『っ………!』

「ん?」




彼女を見つめていた時、男の大きな声がした。そっちを振り向けば走ってくる男が数人見える

明らかに運動部の風貌だ。まさかまさかではあるが、そのまさかなようで…!





「マネージャー興味ないっ!?」

『ありません』
「ないな」




隣の彼女と共に即答する。部員勧誘と同時に行われるのは女子マネージャーの確保

噂には聞いていたが、まさか私のような女子にもガツガツ来るとは…恐るべし高校デビュー




「おい、こっちの子、新入生代表っ」

「うわ、まじか!じゃあ無理だな…そっちの子!どう、見学だけでもいいからさっ」

『いえ…』




彼女は無理だと判断した先輩方は私に狙いを絞ったらしい。地味だから押しに弱いと思ったのだろうか失礼な

大きな男数人に囲まれているのは端から見てどうなのだろう。その中のチャラい、馴れ馴れしい男は肩まで触れてくる


いや、だから、こういうノリが苦手なん―…!




「おい、いい加減にしろ。こいつに触るんじゃない」

『っ………!』

「うわっ!!?」





その時、隣の彼女が先輩の手を払った

そして次に私の手を掴んだかと思えば…ぐっと引き寄せ集団を睨む




「我らは帰宅部に入部予定だ…他を当たってくれ、行くぞ」

『え、ちょ、まずいですって!あのっ…』

「待てっ!!!」

「っ………!」

『っ、あ……!』




ほら、まずかった


私たちの前に立ち塞がる先輩方。背後にも。その顔はさっきまでと違い苛立っている

男だろうが女だろうが関係ない。先輩というものは、生意気な後輩が嫌いなんだ




「…そこを退け。邪魔をするな」

『いや、それ、火に油ですよ!あの、すみませんがもう少し可愛いげのある新入生を探してくださ―…!』

「……………」

『っ、逃げましょうっ早く!』




彼女の制服を引っ張るが、彼らはジリリと私たちとの間を詰めてくる

彼女も彼女で相手をするつもりなようだし、いえ、男の集団相手に女二人じゃ敵わないに決まってる




『え、っ、うわっ』

「っ、おいっ!!そいつに触るなと…!」




私たちの後ろにいた先輩の一人が彼女と繋いでいない方の腕を掴んで引っ張った!彼女から引き剥がされる、その時…!






ドカッ!!!



「ぎゃあっ!!!」

『え―…』

「…………」




私を掴んでいた先輩が、吹き飛び地面を転がっていった

代わりに隣へ着地した影。ふわりと現れたのは今朝、共に高校デビューをした赤髪の男の子だった




「……………」

『あの…ありがとう、ございました?』

「……………」




私のお礼に気にするな、と片手を上げた彼

どうやら彼は私を助けてくれたらしい。ボロボロな先輩に加えられたのは蹴りだろうか

驚いて動かない先輩方に対し、彼女は急いでこちらに駆け寄る




「すまない、大丈夫か?」

『あ、はい、私は平気です。ご心配なく』

「そうか…お前のお陰だな、礼を言う」

「……………」

『確か…同じクラスでしたよね、貴方も』




自分の教室に入った時、赤髪の彼の姿も見かけていた。その時、知り合いは彼しかいなかったから

そして名簿と席順で確かめた名前は…





『助かりました、ありがとうございます風魔くん』

「……………」




そして、代表挨拶の時に聞いた彼女の名前は―…





『雑賀さんも、ありがとうございました』

「ふふ、気にするな」





私に、初めて友達ができました





20141026.


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